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フランス美食の楽園!ディジョンにガストロノミー&ワインの新名所誕生。

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
ディジョンの食の新名所で(写真はすべて筆者撮影)

フランスが美食の国というのはつとに有名ですね。

その食文化は2010年にユネスコの世界無形文化遺産にも登録されています。

フランスの中でも特に美食の街といわれているものがいくつかありますが、そのうちの一つがディジョンです。

ちょうど1年前の2022年5月、ディジョンに「Cité internationale de la Gastronomie & du Vin(シテ・アンテルナショナル・ドゥ・ラ・ガストロノミー・エ・デュ・ヴァン)」がオープンしています。

「Cité internationale de la Gastronomie & du Vin(シテ・アンテルナショナル・ドゥ・ラ・ガストロノミー・エ・デュ・ヴァン)」の正面
「Cité internationale de la Gastronomie & du Vin(シテ・アンテルナショナル・ドゥ・ラ・ガストロノミー・エ・デュ・ヴァン)」の正面

名前が少々長いですね。

要は「ガストロノミー(美食)とワインの国際センター」というもので、食文化にまつわるあらゆる施設が広大な敷地に展開しています。

具体的には、飲食店街、食材や道具の専門店、料理書店、ワインセラー、数々のエクスポジション、映画館などがあるほか、パリの名門料理学校「フェランディ」も入っていて、今年中には高級ホテルの開業も予定されているようですから、どんどん充実度を増している巨大なテーマパーク、あるいは食の街と言っていいでしょう。

※筆者がこの4月に初めて体験した様子はこちらの動画からご覧いただけます。

ブルゴーニュ地方の中心都市ディジョンはパリからフランスの高速鉄道(TGV)で1時間半ほどと、とてもアクセスが良いのですが、この施設はディジョン駅から徒歩10分というところに位置しているのが非常に魅力的です。

それにしても、駅から至近の場所にこれほどのビッグプロジェクトを可能にする敷地があったということが意外ですよね。この場所は、駅正面から中心街に向かうのとは反対の、駅裏にあたるエリア。そもそもここには6.5ヘクタールにわたって古くからの医療施設などがあったのですが、それを10年計画で大胆に再開発したのです。

テーマパークのよう、と聞けば、入場料はいかほど? と思われることでしょう。けれども、敷地に入るためのチケットは要りません。エリア全体がとてもオープンな作りで、自由に通り抜けができるくらいです。

「Village(ヴィラージュ)」という飲食店、ブティック街は、フランスではじつは珍しいフードコート、あるいは21世紀のクリーンな屋台村とでも言えそうな雰囲気で、ツーリストも地元の人たちも和気あいあいとした雰囲気の中でドリンクや食事を楽しんだり、食材を調達したりできます。

ミシュランの星付きシェフが監修する料理、パティスリーの店頭で焼いてくれるクレープまで、あらゆるジャンルのフレンチの選択肢がある
ミシュランの星付きシェフが監修する料理、パティスリーの店頭で焼いてくれるクレープまで、あらゆるジャンルのフレンチの選択肢がある

ディジョン名物のマスタード専門店もさすがの品揃え
ディジョン名物のマスタード専門店もさすがの品揃え

調理器具やテーブルウエアの専門店には旅の記念に良さそうなものがたくさん
調理器具やテーブルウエアの専門店には旅の記念に良さそうなものがたくさん

フランス料理の歴史やお菓子の世界の楽しさ満載の展示など、エクスポジションも常時複数開催されている
フランス料理の歴史やお菓子の世界の楽しさ満載の展示など、エクスポジションも常時複数開催されている

ワイン好き必見の場所が「La Cave de la Cité(ラ・カーヴ・ドゥ・ラ・シテ)」です。フランス各地のワインだけでなく、世界のワイン、スピリッツまで、ラインナップは3000種類と言われていますが、何より魅力的なのは地元ブルゴーニュワインの充実ぶり。それらを気軽にテイスティングすることが可能です。

ブルゴーニュの特級クラスのワインは昨今特に入手困難な貴重品で、かなり高価なものが珍しくありません。けれども、こちらのテイスティングシステムなら30mlという少量から、お財布に優しい価格で楽しむことができます。

壁一面がワインボトルで埋め尽くされた「La Cave de la Cité(ラ・カーヴ・ドゥ・ラ・シテ)」
壁一面がワインボトルで埋め尽くされた「La Cave de la Cité(ラ・カーヴ・ドゥ・ラ・シテ)」

120本以上のワインがセッティングしてあるテイスティング装置。プリペイドカードを挿入し、好みのワインと量を選んでボタンを押せば、最高の状態のワインがグラスに注がれる
120本以上のワインがセッティングしてあるテイスティング装置。プリペイドカードを挿入し、好みのワインと量を選んでボタンを押せば、最高の状態のワインがグラスに注がれる

ディジョン市、ブルゴーニュ地方、加えて多くの企業が参画して10年をかけた挑戦的なプロジェクト。一つの新しい街が誕生したと言えるような充実ぶりなのですが、筆者にとってとても印象的だったのは、土地の記憶に敬意を払い、新しさの中に古きものを核として内包していることです。

冒頭でも少し触れましたが、このエリアは歴史的に医療施設がありました。その中心が1204年からの由緒ある教会。それが核になって宗教施設、施療院が拡大していったという歴史があります。そして、今回の21世紀の大規模な再開発を経ても教会は健在。2015年まで市民病院として使われていた歴史的建物も美しく磨かれてそこにあります。

「シテ・アンテルナショナル・ドゥ・ラ・ガストロノミー・エ・デュ・ヴァン」の敷地の要の位置にある教会。周囲の建物は市民の医療施設として長く使われていた
「シテ・アンテルナショナル・ドゥ・ラ・ガストロノミー・エ・デュ・ヴァン」の敷地の要の位置にある教会。周囲の建物は市民の医療施設として長く使われていた

教会の中も見学できる。聖歌が流れ、清々しく神々しい空気が漂う空間
教会の中も見学できる。聖歌が流れ、清々しく神々しい空気が漂う空間

めくるめくように発展してゆく時代と食。それらを万華鏡のようにあらゆる形で見せ、提供し、享受するこのセンターの中心に、中世からの祈りの場所がひっそりと、けれども敬われつつ息づいている…。

心の滋養も忘れないところが、食文化大国フランスの豊かさ。そう感じさせてくれるような場所でした。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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