呉昇桓への期待とゴメスへの不安
抑えと4番。
阪神・中村GMが最優先事項に掲げた補強ポイントに、呉昇桓とマウロ・ゴメスが決まった。呉昇桓には活躍を予感させる数字が、ゴメスには不安を感じさせる数字がある。ポイントはどちらも三振と四球。
三振は投手の完全勝利であり守備力に左右されずアウトが増える。野球はアウトによって区切られるスポーツだから、攻撃側に求められることはアウトにならないことであり、守備側に求められることはアウトを取ること。四球はアウトにならない確率、つまり出塁率に大きく影響するためセイバーメトリクスでは非常に重要視されている。
韓国ナンバーワンストッパー・呉昇桓
9年間で積み上げた277セーブは韓国歴代最多の数字。1イニングに何人のランナーを出すかを示したWHIPは通算で0.82と非常に安定。今季規定投球回を満たした投手の中でWHIPが1を切ったのは田中(楽天)と前田健(広島)の2人だけ。ちなみに中継ぎ、抑えとしてブレイクした2005年以降の藤川球児で0.85。安定感ならかつてのトラの守護神を上回る。
重いストレートとピンチでも動じない精神力は間違いなく抑え向きで、510回1/3を投げ奪った三振は625。1試合(9回)当たり11.02という高い奪三振率を誇り、与四球は120と少ない。
奪三振を与四球で割ったK/BBは、四球1つあたり何個の三振を奪ったかを表す指標。数値が高いほど制球と奪三振能力に優れた“完成度の高い投手”とされている。3.5を超えれば優秀とされているが呉昇桓は5.21をマーク。K/BBの値が優れていることで有名なのが今やメジャーでも最高峰の抑えとなった上原。巨人在籍の10年間は奪三振1376、与四球206でK/BBは6.68。メジャー5年間では332奪三振38与四球、K/BBは8.74と更に精度が増している。
そして、あまり知られていないが、2007年に岡島(当時、日本ハム)がレッドソックスに移籍する決め手になったのもK/BB。岡島は好投手には違いなかったが、ダルビッシュやマー君のような絶対的な存在ではなかった。それでもレッドソックスが獲得に踏み切ったのは、与四球が少なく奪三振が多かったから。渡米前年の成績は四球14で奪三振63、K/BBは4.5を記録していた。渡米後は5年間で261試合に登板し17勝6敗6セーブ85ホールト、勝ちパターンのセットアッパーとしてチームに貢献した。
呉昇桓と同じく韓国から来日し活躍した投手も韓国時代のK/BBは
林昌勇(元ヤクルト) 2.91
宣銅烈(元中日) 4.96
と優秀な数字を残していた。万国共通とも言えるK/BBで5.21と高いパフォーマンスを見せる呉昇桓、8回でリードしていれば勝ち、という阪神ファンにとって懐かしい安心感を与えてくれるかもしれない。
4番が期待される右の大砲・ゴメス
長打率.358(リーグ最下位)
完封負け21度(12球団最多)
本塁打82本(12球団最少)
得点531点(リーグ5位)
2位らしからぬ数字が並ぶチームが、ゴメスに期待するのはズバリ試合を決める一発。荒さ、もろさもあるが飛距離抜群の長距離砲は打線の起爆剤となれるか。今季の3Aでの成績、110試合で29本塁打を144試合に換算すれば約38本塁打になる。
総合的な打撃力を示すOPS(出塁率+長打率)は.843。OPSは.700前後が平均とされ.800を超えると一流、.900を超えるとリーグを代表する打者、1.000を超えるとMVP級とされている。助っ人外国人としてこの数字は維持して欲しい。
ただ一発は魅力だが、気になるのが三振の多さ。試合数を上回る131三振を喫しており、その割合は3打数に1回。四球も多くないことから積極的に打ちに行くタイプのようだ。仮に春先打てたとしても、交流戦終了の6月頃からが本当の勝負になるだろう。ボール球を振らせる日本の投球、配球術に対応出来なければ活躍は見込めない。怖いのは打撃の調子を落とした時に三振の山を築くこと。メディアの注目度も高い球団で、ファンの気質を考えてもスランプに陥ると非難の的となる。無理なボールを追いかけ更に迷い込むという悪循環は避けたいところ。
投手にK/BBの指標があったように打者にも三振と四球のみに注目したBB/Kという指標がある。投手とは逆に三振1つに対していくつの四球を選んだを示す。0.33とお世辞にも良い数字とは言えないゴメス、それもそのはず、三振数は四球の3倍。この辺りは数字よりも編成部の眼力が確かであることを願う。
呉昇桓は安心感を、ゴメスは三振か本塁打かというスリル感を与えてくれるかもしれない。