AI制御住戸に風が出ないエアコン、水素燃料電池……驚きのマンションは築33年!
5階建てマンションの最上階に位置する504号室は住戸内で使用する電気のすべてが太陽光発電でまかなわれ、全機能のAI制御が可能になっている。たとえば、起床時間になるとカーテンが自動で開き、起床後、約100個のセンサーによって、移動する場所ごとに最適な照明、エアコンが自動制御される。
設備は音声やスマートフォンでコントロールでき、ロボットにミネラルウォーターのボトルを運んでもらうことが可能。そして、食品庫の備蓄が把握され、残り少なくなった食品類を自動でネット注文してくれる。
寝室では特殊な膜天井の裏にエアコンが設置され、直接風が当たらない冷暖房が実現する。
ロフトの上り下りのため、従来にはなかった電動可動階段(音声コマンドで格納できる)もある。
それ、わが家にも欲しい、という声が上がりそうな設備を配した住戸は千葉県市川市の賃貸マンション「サステナブランシェ本行徳」内にある。同マンションをつくった長谷工コーポレーション主催の記者発表会で公開されたもので、見せてもらった箇所はその他にも驚きに満ちたものが多かった。
楽器演奏にも最適な防音ルームに音響性能を高める工夫を凝らした「シアタールーム」付き住戸はまだ穏やかなほう。空調、照明、内装材などを工夫した「快眠のための家」があるし、ボルダリングができる壁がある「アクティブライフプラン」の住戸も。圧巻が冒頭に紹介したAI制御の住戸だ。
家賃は?入居者募集はいつから?と前のめりになる人も出てきそうだが、残念ながら、これら特殊な住戸は借りることができない。
というのも、紹介したのは「未来住宅創造に向けた居住型実験住宅」としてつくられたものであるからだ。
建物運用時のCO2排出量実質ゼロを実現
全36戸の賃貸マンションは前述したとおり建設会社の長谷工コーポレーションによってつくられた。といっても新築ではなく、社宅として使われていた築33年の建物を買い取ってリノベーションしたもの。これからのマンション、そしてリノベーションの新しい方向を探るため、設備機器メーカーなどとの協力で思い切り工夫を盛り込んだ建物にした、といえば理解しやすいだろう。
とにかく新しい試みが満載で、そのために費やした金額は建物の買い取り費用を上回るのではないか、と思えるほどだ。
たとえば、建物共用部では、屋上に太陽光発電装置を載せるのはもちろん、最上階住戸のバルコニー・ガラス手すりに太陽光発電パネルを設置。さらに、外壁にも一部太陽光発電装置が設置されている。
その外壁では、既存のタイル張り外壁の上に断熱材を被せた部分がある。いわゆる「外断熱」にしたわけだが、工夫はそれだけではない。下の写真をみて分かる通り、端材チップを加工したサイディングは見た目が美しいし、自然素材のため、建物の印象を和らげる。そして、壁の一部に配置された太陽光発電パネルが目立ちにくい。
外断熱とサイディングで断熱効果を上げ、太陽光発電を行う。そして、端材利用で資源の有効活用を図り、デザイン性を上げることで古くなった建物の再利用も促す……この壁だけでも、CO2削減に寄与する工夫がいくつも見いだせるわけだ。
このほか、「サステナブランシェ本行徳」では水素をエネルギーにした発電システム「高発電効率純水素型燃料電池」が採用されている。
さらに「セントラルエコキュートによる太陽光発電の自家消費システム」という長い名前のシステムも導入。これは、太陽光発電設備で発電量が多くなる昼間、電気でお湯をつくって貯めておき、夕方から夜に利用することで発電した電気を効率よく活用するためのものだ。
以上の工夫で、同マンションは既存リノベーション物件として国内で初めて建物運用時のCO2排出量実質ゼロを実現している。
36戸中13戸が居住型実験住戸に
「サステナブランシェ本行徳」に採用された工夫は多く、その内容は多岐にわたる。
たとえば、古いマンションにありがちな「開放廊下のエアコン室外機置き場」を活用して、鍵付きの置き配スペースを新設するといった身近な工夫もある。
さらに、住戸内でも共用部でも、有機EL照明を積極的に採用。有機EL照明ならば、光が回り込むために手の影が生じにくく、勉強部屋やワークスペースに最適。また、快眠を導くと考えられているからだ。
「サステナブランシェ本行徳」では紹介したような先進住戸が13戸つくられている。その13戸は居住型実験住戸という位置づけで、住む人にどのような便利さをもたらすか、また影響を与えるか、などのデータを取ってゆくことになっている。
そのため、実際に先進住戸に住むのは、同社もしくは関連企業の社員となりそうだ。
併せて、不動産業界の関係者にも積極的に公開されてゆくことになる。
長谷工コーポレーションは、これまで70万戸を超えるマンションを建設してきた(2023年9月時点)実績があり、日本で最も多くのマンションをつくってきた建設会社だ。
そのため、同社にマンション建設を依頼する不動産会社もこの建物の見学に訪れることが予想される。その結果、13戸の先進住戸と共用部に採用された工夫が今後の新築マンション及びリノベマンションに採用される可能性が高い。
私としては、新築マンションに直接風が当たらないエアコンや電動可動階段を、リノベマンションに室外機置き場を利用した鍵付き置き配スペースをいち早く採用していただけないかと希望するところである。