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北朝鮮はなぜ、ウクライナ戦に「参戦」するのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の特殊部隊(朝鮮中央テレビから)

 北朝鮮の対露派兵は噂ではなく、現実となった。

 戦争当事国のウクライナ、それを支援する米国とNATO(北大西洋条約機構)、それに北朝鮮を24時間監視している韓国だけでなく、「デマ」とか「うわさに過ぎない」と言い続けてきたもう一方の戦争当時国のロシア、そして当の北朝鮮までもが今では否定もせず、事実上認めている。

 ロシアはプーチン大統領が10月24日、ロシア中部カザンで開催されたBRICS首脳会議の総括記者会見でウクライナや韓国が証拠として提示した衛星画像や写真などについて「画像があるならば、何かが反映されているのであろう」と、北朝鮮の派兵について否定せず、一方が他方に軍事支援する「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」についても「どのように実行するかは我々の判断だ」と発言していた。

 北朝鮮もまた、翌日の25日、金正奎(キム・ジョンギュ)外務次官(ロシア担当)が国際社会で北朝鮮の派兵が取り沙汰されていることについて「外務省は国防省のすることに直接関与しておらず、また確認する必要も感じていない」と前置きしながら「そのようなことがあれば、それは国際法の規範に合致する行動だと考えている」と、北朝鮮の派兵は国際法に則っていると主張していた。

 それにしても、北朝鮮はなぜ、国連加盟国の中で唯一、武器だけでなく、兵力までロシアに提供したのであろうか?

 その理由について韓国や西側諸国では見返りとして▲核・ミサイル、軍事偵察衛星などの軍事分野でロシアから先端技術を取得することができる▲多額の外貨を手に入れることができる▲食糧など経済支援を得ることができる▲兵士らに実戦訓練を経験させることができる▲朝鮮半島有事時にはロシアの派兵を担保できる▲外交面で国連安保常任理事国であるロシアのバックアップを期待できるからであると言われている。

 しかし、北朝鮮の派兵理由はそれだけではない。当然、日本の植民地統治からの解放や朝鮮戦争でロシアの前身・旧ソ連から支援を受けた恩もあるはずだ。

 その証拠として、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2019年4月24日にウラジオストクを訪問した際、プーチン大統領が開いた宴会で「勇気のある(旧ソ連の) 赤軍将兵らは朝鮮の解放のために自ら熱い血を惜しみなく捧げてくれた。我が人民は世代と世紀が変わっても朝鮮解放の聖なる偉業に高貴な命を捧げてくれたロシア人民の息子、娘らの崇高な国際主義偉勲を忘れておらず、今後も永遠に記憶していくだろう」と語っていたことがある。

 また、仮にロシアがウクライナ戦で敗北し、プーチン政権が崩壊すれば、欧米の矛先が北朝鮮に向けられるという危機感もあるはずだ。ロシアがこの戦で負けることは北朝鮮にとっては悪夢である。後ろ盾を失い、国際社会で一層孤立することになる。

 しかし、最大の理由は「反米国際連帯」という北朝鮮なりの「大義」が最優先されているのであろう。信じ難いことだが、北朝鮮ではすでに死滅した労働運動や社会主義運動の国際連帯を象徴する革命曲「インターナショナル」が今でも労働党の大会や集会で流れている。

 かつて、北朝鮮はベトナム戦争で北ベトナムに援軍を派遣し、第4次中東戦争ではエジプトに空軍を派遣し、さらにはシリアの内戦にも特殊作戦部隊などを派兵していたが、いずれも見返りは求めていなかった。

 終戦後エジプトからは欲しかったロシア製のミサイルが供与され、また「韓国とは外交関係を結ばない」との口約束をもらっただけで北朝鮮にとっては人的損失など失うものが多かった。それでも関与したのは米国が南ベトナムとイスラエルの後ろ盾になっていたからである。反米友好国への軍事支援は言わば、北朝鮮の伝統である。

 そのことはプーチン大統領が一昨年7月27日の北朝鮮の戦勝記念日に金正恩(キム・ジョンウン)総書記に宛てた祝電の中で「北朝鮮のロシアの特別軍事作戦に対する支持及び連帯は西側の政策に対抗するための共通の利害関係と決意を示すものである」と感謝の意を示していたことからも窺い知ることができる。

 北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻直後から「他国に対する強権と専横に明け暮れている米国と西側の覇権主義政策に根源がある」と欧米批判を展開してきた。北朝鮮にとってはおそらくロシアとは共通の目的の下、共通の敵と戦っているとの認識がある。

 従って、北朝鮮の派兵は衝撃的なことではない。そのことは金総書記の実妹・金与正(キム・ヨジョン)党副部長の昨年からの談話だけでも充分に読み取ることができる。

 金与正副部長は昨年1月、ウクライナと欧米を批判する談話(1月27日)で「我々は国家の尊厳と名誉、国の自主権と安全を守るための戦いに決起したロシア軍隊と人民といつも同じ塹壕に立っているであろう」と述べ、先月も「ウクライナに対する米国の追加軍事支援は世界的な核災難を呼び付ける起爆剤になるであろう」と題する談話(9月29日)で「強権を追求し、正義に挑戦する米国とその追随勢力は並み大抵でない代償を必ず払うことになるであろう」と、警告していた。

 北朝鮮の派兵はまさに時間の問題であった。

(参考資料:ウクライナに派兵された北朝鮮の「暴風軍団」の実体!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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