『試合後の異常事態。すべてが中途半端のまま終わっていく』浦和vs福岡【レッズ川柳試合レビュー】
■テーマ対決で劣勢に・・・
リカルド・ロドリゲス監督の退任が発表されてすぐの最終戦。
とりあえずもう1年くらいは様子を見てもよかったんだじゃないの、とは個人的には思ったものの、すでに決まったことは仕方ない。監督がどういったラストシーンを見せてくれるかが、まさにきょうの試合の「テーマ」だな。
秋晴れ。ちょうど気候的にはもっともすごしやすい気温と湿度。あまりの心地よさもあって、午前中には家を出て、試合開始2時間前には埼スタに到着。途中、自転車で裏道を走っていくと、だいぶ紅葉が進んでいる。これは「行楽日和」だ。埼スタのスタンドでも、小さい子供を連れたファミリーの姿がけっこう目立つ。
まず席を確保して、普段なら、コンコースの中をフラフラ歩き回ったりするのだが、きょうは席に座ったままひと休み。地元のサッカー少年団の試合を観戦しているうちに、ついウトウトとしてきたりする。
南側自由席がのんびりムードの中、緊張感が漂っていたのがアビスバサポ席だ。
ほぼ試合開始1時間前にはサポーター席は埋まり、すぐ上のアッパーにも、そこそこ人が集まっている。そりゃそうだな、まだ数字的には入れ替え戦に回ったあげくにJ2降格、という可能性が残されているのだから。今日の試合は最低でも引き分け、出来れば勝利でしめて残留を決定させたい。当然、「テーマ」としては、こちらの方が重い。
南側も、人数的にはレッズサポが圧倒的に多いはずなのに、きょうに関しては、パワーではだいぶ押されいる。
アビスパに テーマの重さで 押されがち
■こんなことが過去にあったのだろうか
あえて「リカルド・チルドレン」と呼ぶべきなのか、試合開始とともにはつらつと動き出したのは明本、大久保、小泉、松尾といった、「骨惜しみなく動き回るコマネズミ」。南側のゴールに向かって、入れ替わりたち替わり迫ってくる。
それはそれで見どころはあるのだが、いかんせん、なかなかシュートまでもいかない。いっても、あっさりDFではね返されてしまう。これも今年を象徴する絵柄なのかもしれないが、彼らには、ぜひ最後まで決めきる「決定力」を持ってほしい。
ハーフタイムてトイレに行った際も、横の二人が、
「決め手ねーな。動きゃいいってもんじゃないんだよ」
「またスコアレスドローかよ」
と言い合っていた。
あと一歩 進めリカルド チルドレン
こりゃ、きょうは今シーズンを象徴するスコアレスドローに向かうのかな、と私もいささかシラけ気分になっていたところに、突発的に決まったのが岩波のミドルシュートだ。あれはまったく予想していなかった。もし点が取れるとしたら、明本や大久保あたりが前にツッコんで行って、GKと触れ合わんばかりのところで決まる一発、と考えていた。ああいう意外性満点の点の取り方もあるのだな。しかも、シュートは上過ぎず下過ぎず、ちょうどGKの上をスルッと通り抜けていった。
スコアレスではなくなって、切羽詰まったアピスパには申し訳ないが、ここは勝たせていただくのかな、と思ったらすぐ、1点返されて試合はリセット。アビスバサポのテンションの上がり具合は、レッズがACL準決勝でPK勝ちした時と変わらないくらい。また痛感してしまった。「テーマ」を持ったチームのサポは強い。
驚きの ミドルシュートも 即リセット
それからは試合を見ながら、スマホで他会場の経過を2~3分ごとにチェック。優勝争いより、注目は残留争いだ。コンサドーレとエスパルスが点の取り合いの凄まじい闘いを繰り広げた末に、結局、エスパルスが負けてJ2降格が決定したのは、スマホの画面だけで追っていったわけだが、あまりにドラマチック。
こちらの試合の終わりでは、残留決定のアビスバサポの盛り上がりに対して、あまりのレッズサポのシラケっぷりが目についた。最終戦のセレモニーが始まる前に、満員だったはずの北側のゴール裏がガラガラになってしまったのだから。
今まで、こういうことってあったかな?あんまり記憶にない。毎年、だいたいチームの「レジェンド」ともいえる選手が引退して、その現役最後の「声」を聞くのもあって多くが残るのに、今年はそういう選手がいなかったのもあるのかもしれない。
もちろん「今年のレッズには不満です」の意思表示でもあるのだろうし。
ガラガラの レジェンドなしの セレモニー
社長とロドリゲス監督の挨拶の後にいつもの場内一周はあったものの、なぜか北側ゴール裏の前では、全員そろっての挨拶はなく、そのままスルー。リーグ戦の内容そのままに、
中途半端というか、煮え切らないというか、「テーマ」がはっきり見えて来ない結末となった。
監督や選手たちが、自分らの子供たちもまじえて記念写真を撮っているあたりで埼スタを去る。日が暮れかかって、すでに肌寒い。
ま、こういう年もあるさ。
山中伊知郎
1954年生まれ。1992年に浦和に引っ越して来て、93年のJリーグ開幕時にレッズのシーズンチケットを取得。以後30年間、ずっとシーズンチケットを持ち続け、駒場、ならびに埼スタに通う。去年より、レッズ戦を観戦した後、「川柳」を詠むという「レッズ川柳」を始める。現在、去年一年の記事をまとめた単行本『浦和レッズ川柳2021』(飯塚書店)が好評発売中。代表を務める「ビンボーひとり出版社」山中企画では、9月6日、お笑い系プロダクション「浅井企画」の元専務・川岸咨鴻氏の半生を追った『川岸咨鴻伝 コサキンを「3億年許さん」と叱責した男』をリリース。11月上旬には『タブレット純のローヤルレコード聖地純礼』も発売予定。また、今年末には『浦和レッズ川柳2022』も出す予定