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「憧れの職業」になっていないのは教員の責任なのか、萩生田文科相の気になる言い方

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

 萩生田光一文科相は1月19日の記者会見で、「目指すべき出口は、教師を再び憧れの職業にバージョンアップして、志願者を増やすことにしたい」と語った。バージョンアップしなければ、現在の教員では「憧れの職業」にならないということで、現在の教員を否定しているようにも聞こえる。憧れの職業になっていない責任は、教員にあるのだろうか。

■たいへんな職業ということは大きな問題になっている

 この日の会見で萩生田文科相は憧れの職業になっていない理由を、「なんとなく(教員が)たいへんな職業だというのが世の中に少し染み付いています」とも述べている。「たいへん」は、過重労働や残業代が支払われない勤務実態を指しているとおもわれる。

 ただし、それは「少し」ではなく、大きな問題になっている。文科相としては、いささか認識不足のようにおもえる。

「たいへん」を解決して「憧れの職業」にしたいなら、過重労働の解消に向けた対策を早急に検討し、実行する必要がある。しかし萩生田文科相が打ち出したのは、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質的向上に関する検討本部」(以下、検討本部)の設置だった。

 そこでの検討課題としてあげられたのは、35人学級を担う人材の確保、社会人など多様な人材の活用、教職課程の高度化と研修の充実、教員免許更新制のあり方、「令和の日本型学校教育」を担う教員の人材確保と質向上の実現、である。

 過重労働の解消は検討課題で優先されていない。つまり文科相は、「たいへん」を口にしながら、過重労働を大きな問題としてはとらえていない。それは、「少し」の問題でしかないのだ。

 それより文科相が課題だとしているのは、「教員のバージョンアップ」であり「質の向上」のようだ。バージョンアップして質を向上すれば、教員は「憧れの職業」になり、人材確保もスムーズにいくと考えているらしい。現在の教員がバージョンアップができず、質も低いから「憧れの職業」になっていない、と言っているようなものである。

■バージョンアップや質向上に、まず必要なこと

 バージョンアップや質の向上に取り組ませるなら、それに現役の教員をどう取り組ませようとしているのだろうか。研修の充実となれば、研修を増やすことになるのだろう。教員免許更新制度のあり方もあげられているが、質の向上と結びつけようということなら、厳しくすることを想定しているのではないか。それらに対応するために教員は、多くの時間と労力を割かなければならなくなる。

 過重労働になっている環境が改善されることなく、研修や免許更新が強化されることになれば、ますます教員は多忙を強いられることになる。ますます心身ともにボロボロになる職業となり、とても「憧れの職業」になるはずがない。

 バージョンアップや質の向上が何を目指すのか、それ自体が問題である。それはとりあえず置いておくとしても、バージョンアップや質の向上を目指すのなら、それに取り組むだけの「余裕」が教員に必要なことを、まず文科相と文科省は認識する必要がある。それを前提にしない検討本部での検討は、ますます教職を「憧れの職業」から遠のかせることにしかならないだろう。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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