iPhone13に異例の出荷遅延、過去最長水準 需要増と供給停滞 新たな中国リスクも
米アップルの新型スマートフォン「iPhone 13」シリーズに異例の出荷遅延が生じている。ロイターによると、要因は新型機に対する強い需要とサプライチェーン(供給網)の停滞。
近年のiPhoneの納期として最も長い水準に達しているとアナリストらは指摘している。
上位機種は4週間待ち
JPモルガンとクレディ・スイスのアナリストによると、上位モデルの「iPhone 13 Pro」や「同13 Pro Max」をオンラインで注文した場合、顧客は4週間以上待たなくてはならない。普及モデルの「iPhone 13」は出荷までの日数が約2週間かかるという。
iPhoneの出荷台数の3分の1以上を占める米国では、シリーズ全体の納期が受注開始後1週間時点で7〜20日だった。これが同2週間では19〜34日となった。いずれもiPhone 12シリーズの納期よりも長い。
iPhone発売直後の納期は、最新モデルの需要を予測する指標の1つとして注目される。だが今年は半導体不足の問題があり、サプライチェーンの動向も注視されている。
アップルの販売パートナーである米ベライゾン・ワイヤレスや英ボーダフォン・グループ、米ベストバイもツイッターへの投稿で、新モデルに対する強い需要と供給の制約に言及している。
中国の消費者に人気
iPhone 13シリーズは中国市場でも人気があると報告されている。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、カメラ機能の進化や新型半導体による処理能力の向上、バッテリー駆動時間の延長といった要素が割安感を出しており、中国で話題になっている。
アップルは原材料や部品価格が上昇したにもかかわらず、iPhone 13の価格を据え置いた。これが中国消費者の好評を博している。同国はiPhoneの世界販売台数の2割を占めており、アップルにとって重要な市場だ。
アップルやテスラ向けの中国工場停止
しかし、新たなサプライチェーン問題がアップルなどのリスクになっていると指摘されている。ロイターの別の記事によると2021年9月下旬、アップルや米電気自動車(EV)大手のテスラ向け部品を生産する中国の工場が軒並み操業を停止した。
理由は当局による電力供給制限。習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げた二酸化炭素排出削減の目標達成が背景にあるとされる。これにより地方政府が電力制限を開始した。
例えばアップルのサプライヤーである台湾・欣興電子(ユニマイクロン・テクノロジー)は、中国子会社の3社が9月下旬に生産を停止した。「地方政府の電力使用規制を順守するため」と説明している。
台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業系の乙盛(イーソン)精密工業はアップルやテスラに部品を供給しているとされるが、同社も9月下旬に江蘇省昆山市の工場を停止した。iPhoneのスピーカー部品を製造する台湾の康控(コンクラフト・ホールディングス)は江蘇省蘇州市に製造拠点を持つが、同社も生産を一時中止した。
こうした状況についてアナリストらは、「石炭の供給抑制や二酸化炭素排出基準の厳格化によって電力不足が生じている。一部地域で重工産業が縮小し、中国の経済成長を抑制している」と指摘している。
アップルCFOも認めるサプライチェーン停滞
アップルが21年10月28日に発表した7~9月期決算は、売上高の前年同期比伸び率が29%にとどまった。伸び率は1~3月期に同54%、4~6月期には同36%だった。
在宅勤務や遠隔学習の広がりを背景にアップル製品への需要は高まっていたが、ここに来て製品供給が制約され、伸びが鈍化した。これにより1〜9月の伸び率も39%にとどまった(図1)。本来ならもっと伸びていたはずだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルのルカ・マエストリCFO(最高財務責任者)は決算説明会でその要因について「業界全体の半導体不足と、東南アジアの新型コロナに伴う製造上の混乱」を挙げた。
7〜9月期の供給制約による逸失売上高は約60億ドル(約6800億円)となり、4~6月期の30億ドル(約3400億円)弱から倍増した。10〜12月期はさらに悪化するとアップルはみている。
(このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年9月29日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)