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「満たない選手は脱落」。日本代表、今季初白星の試合にどんな課題が?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
立川主将とジョーンズヘッドコーチ(写真提供=JRFU)

 ラグビー日本代表が現体制下で初勝利を挙げた。ただ、課題も残した。

 バンクーバーで現地時間8月25日(日本時間26日)、パシフィック・ネーションズカップの初戦でカナダ代表を55―28で下した。

 序盤から陣地を問わずラン、パスのオプションを用い、攻防の境界線を首尾よく切り裂いたことで23分までに21―0と3本続けてトライを決めた。

 もっとも38―7で迎えた後半は、スクラムでのハンドリングエラー、スクラムでの反則、防御ラインの連携エラーが重なり向こうの推進力を最大化。17―21と下回った。

 約9年ぶりに復帰して『超速ラグビー』をテーマに掲げるエディー・ジョーンズヘッドコーチは、どんな感想を抱いたか。立川理道主将とともに、現地からオンライン会見に登壇した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「この試合に挑むにあたり、カナダ代表とカナダで対戦した場合と、カナダ代表と日本で対戦した場合の勝率の違いについて話した。40パーセントの差があった。その理由を選手全員で突き止めました。最終的にいかにフィジカル面が大切か、いかにボールを動かし続けるかが大切かという話になりました。

 全体的に前半はうまくいった。フィジカリティで勝り、よくボールを動かした。ただ若いチーム特有で前のめりになり、ボールのコントロールがうまくいかなかった。後半はフィジカリティと精度が落ちたが、バンクーバーでの勝利は歴史を変える記録的なものになったと自負しています。

(日本語で)どうぞ。質問がありますか」

——目指すコンセプトの『超速ラグビー』はどれくらい表現できたか。

「前半は集団的なスピードを持ってうまくできた。(ワールドカップで勝利を重ねた)2015、19年の歴史を鑑みても、集団的なスピードは(日本代表が)世界一になれる部分だと思います。

ただ、集団的にプレーをするにはパスごとにコミュニケーションが必要で、ランラインもパスごとに精査しないといけない。

前半はそのあたりがうまくいきましたが、後半はそこで右肩下がりになってしまった。これ(速いテンポとリサイクル)を80分間やるのが目標ですが、しばらくはそうするのがどうしても難しい部分が出てくるかもしれません。選手同士の関係性も密にしなければいけないし、連携も深めなくてはいけない」

——終盤、反則がかさんだ。

「後半、大きな得点差をつけて勝っているなかでフィニッシャー陣(リザーブ)が入ってくる時、簡単なことをしてしまいがちです。ランしたい、パスをしたい、スペースにどんどん入り込みたい…と。ただ、後半はディフェンスでそれができていなかった。そうした行為がプレッシャー下でのつまらないミスや反則に繋がった。若手のチームにとっていい学びになりましたし、修正すべき点です」

——今日の経験をよい形で活かすために、選手へどんなアプローチをしますか。

「全ては学びのプロセスにある。きょう見ていてプラスだと思った点は、試合序盤にスキルとスピードを使いながらプレーできたこと。ただ、きょうのようなこと(終盤の停滞)は避けられないとは言い切れないものの、どうしても起こってしまう部分もあります。今後は我々がいかに指導できるか、選手が学び続けられるかが鍵。(課題を改善できる)いい選手はそのまま残っていけますし、満たない選手は脱落します」

 試合を優勢に運びながらイージーミスで相手に流れを渡すプレーは「避けられないとは言い切れないものの、どうしても起こってしまう部分もあります」。つまり、本来であれば避けたいと考える。この手の動きを繰り返す、つまりは「学び続け」る点で「満たない選手」「脱落」すると指揮官は述べるのだ。

 新機軸の導入と若手の育成に注力しながら、シビアなセレクションもおこなっている。

——ここからはテクニカルな領域について聞きます。目指すラグビーをやる流れで、ランナーが孤立してジャッカルに絡まれるシーンが散見されています。サポート役の迅速化が求められそうですが。

「考えないことを意識させます。(席から立ち上あがって)例えば、ちょうど私の隣にいる立川がボールを持っていたとする。自分がサポートに入るなら、考えることなく素早く入ります。行動に移すことが大事です。選手にとってまったく新しい形のくせづけをしています」

 スクラムハーフの藤原忍はハイテンポの配球と要所での守りで冴え、ロックのワーナー・ディアンズはチョークタックル、トライを生んだピックアンドゴーと柔らかなラン、高低を織り交ぜたタックルで存在感を示した。

 初キャップでウイングのマロ・ツイタマは4分に持ち場と逆のラインへ入ってフィニッシュしたほか、自陣ゴール前での防御でも魅した。

 早稲田大学2年でフルバックの矢崎由高はランニングで魅した。本人は以後、大学へ戻ることが濃厚ななか、ジョーンズはメジャーリーグの大谷翔平を引き合いに「スピードとパワーを学ばないといけない。またサポートを探すスキルも。基礎的な部分はいいものがある。ラグビー界の大谷となることを期待します」とエールを送った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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