石炭火力と心中する安倍ジャパン―国際協力銀行、COP23会期中の融資決定の暴挙に国際的非難
凄まじい豪雨、それによる洪水や土砂崩れ、大干ばつによる農作物被害、異常乾燥による大規模な山火事、強力な台風やハリケーンがもたらす高潮被害…地球温暖化(気候変動)の被害は、もはや未来のことではなく、今まさに世界各国の人々が直面している危機だ。ドイツのボン市では、今月6日から17日まで、温暖化防止のための国際会議「COP23(第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議)」が開催されている。今後の人類の運命を左右するとも言える重要な会合であるが、こともあろうか、その会期中に、日本の政府系金融機関「国際協力銀行」(JBIC)は、インドネシアでのチレボン石炭火力発電所拡張事業への、融資を決定した。地球温暖化を防止しようという全世界的な努力をあざ笑うかのような暴挙に、各国の環境NGOは呆れ、憤慨している。
〇恥知らずの暴挙に国際的な非難
温室効果ガス排出削減のために、急務とされるのが、石炭火力発電への規制だ。世界の温室効果ガスは、その約4割が発電関連から排出されている*。中でも、石炭火力発電は、高効率型のものでも、天然ガス火力発電に比べ、約2倍のCO2を排出するなど、「地球温暖化の元凶」と言っても過言ではない。そのため、世界の金融業界では石炭関連の事業への投融資の中止や引き上げ、いわゆる「ダイベストメント」という動きが広がっている。
*IEAの2016年発表の統計
ところが、このような動きに逆行するような融資を、しかもCOP23の会期中に決定したのが、日本の政府系金融機関「国際協力銀行」だ。今月14日、丸紅とJERA(東電と中部電力の合弁会社)が出資、インドネシアの西ジャワ州で計画されている、チレボン石炭火力発電所の2号機建設事業に7億3100万ドルの貸付へと、国際協力銀行は踏み切ったのである。このニュースはすぐさま世界に拡散し、ツイッター上でも #SayonaraCoal というハッシュタグと共に、石炭火力を推進する日本への抗議が、各国の環境NGOから投稿されている。
〇チレボン石炭火力発電所の問題点
国際的な環境NGO「フレンド・オブ・ジ・アース(地球の友)」の日本支部FoE Japanのスタッフで、チレボン石炭火力発電所の問題について現地調査を行った波多江秀枝さんは「既に稼働している1号機に加え、2号機が建設された場合、年間700万トンのCO2が排出されると見られています。これは、新車100万台分のCO2排出に相当します。このような事業は、地球温暖化防止のための全世界的な合意であるパリ協定にも全く整合性をとれないものでしょう」と指摘する。
CO2排出だけでなく、現地住民への影響も深刻だ。「現地の住民の方々は、以前は多くの人々が、伝統的な漁業や貝の採取、塩づくりなどで生計を立てていましたが、1号機によって甚大な悪影響を受けたと言います。水質汚染や温排水により、漁獲量が減り、塩の質も悪くなったとのことです。粉じんによる健康被害も懸念されています。こうした汚染に対する対策改善が2号機の建設計画にも見られません」(波多江さん)。
現地NGO制作の動画「損害をもたらす石炭―インドネシア・チレボン火力発電」
融資決定の理由も不透明だ。「チレボン石炭火力発電所拡張計画の環境対策は不十分であるとして、住民たちは裁判を起こし、インドネシア地裁も、許認可取り消しの判決を下しました。今年8月には被告の控訴取り下げで判決は確定したのですが、事業者側が、今年7月に新たな環境許認可証を発行し、国際協力銀行はそれを口実に、貸付に問題はない、としています。しかし、インドネシアの法令や規則には、無効となった環境許認可を改訂するための手続きは一切規定されていません。当初の環境許認可は地裁判決で無効とされたのですから、国際協力銀行は、現地の法令に従い、融資を行うべきではありません」(波多江さん)。
〇石炭火力推進の安倍政権に言いなりの国際協力銀行
チレボン石炭火力発電所への融資決定について、筆者は国際協力銀行にも問い合わせた。今年10月、常務執行役員含む国際協力銀行の職員らが、インドネシアを訪れ、建設予定地の住民との会合を持ったという。そこで、既に稼働している1号機による被害や、2号機への懸念を住民たちは、国際協力銀行側に伝えたとのことだが、そうした懸念の声が具体的にどのように融資の判断に影響したのか、しなかったのかについては「機関として適切な手続きの下、決定した」とくり返すのみで、明確な回答は得られなかった。
チレボン石炭火力発電所の建設に反対する住民達と共に活動している現地NGOによると、土地収用において地権者に対し、軍や警察、ヤクザ者などによる脅迫も幾度もあり、住民達はとても怯えていたのだという。事業において、事前に十分な情報が公開されたうえで、地域住民等との協議を行うべきである、という国際協力銀行のガイドラインと、現地での実態は大きく異なるようだ。
また、温室効果ガスの排出の削減のため全世界的な取り組みが行われている今、なぜ、石炭火力なのかとの問いに対しては「新型の高効率石炭火力発電所によって、旧型のそれに比べ、CO2排出を削減できる」と紋切型の回答。上記したように、高効率型であっても石炭火力が他の発電方式に比べ大量のCO2を出すことには変わりない。筆者が「(比較的CO2排出が少ない)天然ガス火力や、自然エネルギーによる発電に融資するべきではないか?石炭火力への融資は控えるという世界の金融の流れに反するのではないか?」と、さらに追及すると、「日本政府の政策によって決めていただかなくてはいけないこと」と認めた。
〇安倍政権の下、日本は「環境後進国」に落ちぶれる!?
結局のところ、国際協力銀行のみならず、日本政府の方針自体に大きな問題がある。安倍政権は、その成長戦略の一環として、高効率型石炭火力発電所を国外に輸出することを推進している。だが、高効率であろうがなかろうが、石炭火力発電自体が時代遅れで、規制されていくものだという現実を直視すべきだ。世界の金融の動きは「脱石炭」に向かっている。このままでは倫理面だけでなく、経済・金融の面でも、安倍ジャパンは「後進国」として落ちぶれていくことになりかねないのだ。
(了)