Yahoo!ニュース

6月5日は世界環境デー 廃棄物資源循環学会セミナーレポート SDGsで世の中はどのように変わるのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

6月5日は世界環境デー。2030年に向けSDGs(持続可能な開発目標)が採択された。10年後を見通し、廃棄物・資源循環分野においては何をすべきか。食品ロスを含めて持続可能性について議論された、平成30年度一般社団法人廃棄物資源循環学会企画セミナー「SDGsで世の中はどのように変わるのか」に参加した。メインの目的は、食品ロスの研究者である、京都大学の浅利美鈴准教授の発表を聴くことである。

会場となった神奈川県・川崎市産業振興会館(筆者撮影)
会場となった神奈川県・川崎市産業振興会館(筆者撮影)

第一部 SDGsの進化と社会の変化

SDGs達成に向けた内外の動向 国連大学サステナビリティ高等研究所所長 竹本和彦氏

国連大学サステナビリティ高等研究所所長 竹本和彦氏
国連大学サステナビリティ高等研究所所長 竹本和彦氏

 

1、SDGs策定の背景

SDGsは、2015年9月、国連サミットで、全会一致で採択されたが、実は、40年前から議論は始まっていた。1972年、国連人間環境会議(ストックホルム会議)が開催された。これは時代を画する会議。1984年、日本の提案によって設置された「環境と開発に関する世界委員会」(委員長を務めたノルウェー首相、ブルントラント氏の名前をとって「ブルントラント委員会」とも呼ばれる)が開催され、1992年には、ブラジルのリオデジャネイロで国連会議が開催された。これは、持続可能な開発会議の元となり、ここで「アジェンダ21」が採択された。その後、2000年9月に国連ミレニアム・サミットが開催され、SDGsの礎(いしずえ)を担う。2002年はリオの会議から10年の年。2012年には国連持続可能な開発会議が開催された。このような、国際社会における長い道のりを経て、SDGsがある。2030年を目標にしたもの。

SDGs(国連広報センターHPより)
SDGs(国連広報センターHPより)

6月は、日本では環境月間。6月5日はストックホルム国連人間環境会議が開催された日なので「世界環境デー」に指定されている。1992年、リオでの地球サミットでは、リオ宣言とアジェンダ21。日本では、この成果を受けて1994年「環境基本法」が制定された。ミレニアム開発目標(MDGs)は、2000年9月に国連ミレニアム・サミットにおいて採択。2015年を目標とする国際開発目標。

2012年6月のRio+20では、SDGs策定の道筋について合意した。

まだ積み残された課題がある。

1)MDGsで積み残された課題への対処

2)地球システムの限界の共有。学術的な成果「地球システムの限界」。何の配慮もなく進んで行くと、限られた資源のキャパシティにある。これを政策レベルにおいても共有する、ということ。

強調したいのは、

3)幅広いステークホルダーによる参画プロセス(オープンマインディッドワーキングプロセス)

2、SDGsの目指すもの

次の5つ。

包摂性 誰一人取り残されない。 MDGsで貧困を半分にした、でも残された半分の撲滅にもチャレンジする。

普遍性 先進国・途上国、ともに。

多様性

統合性

行動性

3、SDGs達成に向けた内外の取組

毎年7月に国連本部で開催されるハイレベル政治フォーラム(HLPF)において実施。2017年7月、日本を含む44カ国の国別レビューを行なった。2018年7月に行なわれるレビュー対象目標は、SDGs 6、7、11、12、15、17

STIフォーラム(科学技術イノベーションフォーラム)が2018年6月上旬にニューヨークで開催される。アジア太平洋地域のESCAPは、2018年3月末にバンコクで開催された。SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)。注目すべき取り組みとしては、金融界の、ESG投資。見定めて投資する。責任投資原則(PRI)という世界の取り組みや機関が増えている。

学術界では「フューチャー・アース」といった学際的連携が始まっている。3RとIRPの動き。UNEP-IRP、富山物質循環フレームワークなど。

日本政府の動きとして、SDGs推進円卓会議がある。地方公共団体の動きも活発で、2018年6月に、SDGsの未来都市が発表になる(29都市か30都市)。そのうち10件については、モデル事業としてしっかり取り組んでもらう。

SDGsと先進国都市の責任:何のためのSDGsか 東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏

東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏(筆者撮影)
東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏(筆者撮影)

1)「責任」について

今、倫理的な責任感を見失っているのではないか。世界の社会的課題。SDGsの3つの責任(ベクセルらの指摘)は、原因としての責任、義務としての責任、説明責任。SDGsの12.1には「先進国主導の下(もと)・・」と書いてある。

2)SDGsが目指すのは世界の変革

SDGsは国連憲章や世界人権宣言の精神を酌むもの。地球環境が劣化している。これを実現するには社会経済の仕組みをラディカルに変えていく必要がある。

3)持続可能な開発の「経済的側面」は、単なる経済成長イコールGDP増大ではない。持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長を指す。環境保全と経済成長を両立させる、ということ(環境の劣化とのデカップリング)。格差の是正も含まれている。SDGsの17.19 には「進捗状況を図るGDP以外の尺度を・・・」とある。

4)目標・ターゲットの相互連関性を「原因としての責任」から考える

食品ロスの削減に取り組むことが、飢餓の削減や森林保全にも寄与するということ、これをインターリンケージという。モノカルチャー。グローバル経済の構造。ブルントラント報告でも強調されてきた。日本のマテリアルフロー2014(環境白書に毎年掲載されている)によれば、25.6億トンの8割が海外から来ている。非持続可能な消費や生産が様々な問題を生み出している。

国連グローバル・コンパクトの原則2が掲げる「加担の回避」。

直接的加担

受益的加担

加担の黙認 

持続可能な調達について、SDGsの12.7には「国内の政策や優先事項に従って、持続可能な公共調達の慣行を促進します」とある。東京2020オリンピック・パラリンピックでも、持続可能性に配慮した調達コードが出されており、木材が最も注目を浴びている。日本では、木材はたった3割の自給率。違法伐採の可能性が高く、2017年に法律が日本で施行されたばかり。インドネシアやマレーシアなどで違法伐採されたもの。環境NGOが五輪の工事現場で発見した企業パンフレットに、違法伐採のリスクが高いものが掲載されていた。それは森林認証を受けている企業だった。「伐採時に遡って確認すべき」。このことが、良いレガシーにつながっていくことを期待している。

ムハメド・ユヌス『3つのゼロの世界』に書かれている貧困ゼロ・失業ゼロ・CO2排出ゼロ

5)SDGsは西洋の思想(Western Ideas)?

「悲惨な思考停止」ではないか。

スピヴァク『開発を「補」う 人文学からの見直し』には、原文で「overgeneralized(あまりに一般化された)」という語句が使われている。エリートの考え方。数字で見られるものは限られている。数字は補充手段だ。

SDGsの進展によるビジネスの可能性 デロイトトーマツコンサルティング合同会社 羽生田慶介氏代理 石井麻梨氏

デロイトトーマツコンサルティング合同会社 石井麻梨氏(筆者撮影)
デロイトトーマツコンサルティング合同会社 石井麻梨氏(筆者撮影)

国連グローバル・コンパクトの調査によれば、85%の企業で「SDGsは認知されている」。ただ、そのうち72%は「CSR担当だけがSDGsを知っている」という結果。

SDGsが縁遠いものである理由

1、「高尚な領域であり、一部の大企業が取り組んでいるもので、我が社には関係ない」「まだ見ぬ新大陸」

2、「事業部マターではない」

経済産業省・日本規格協会事業(2018.12)「SDGsビジネスの可能性とルール形成」事業概要

経済産業省の基準認証政策課が注目した。

1、SDGsの取り組みはビジネスから縁遠いものではない。数百億円から数千兆円の市場規模を持ったものである

2、「ルール形成」が鍵になる

新しい価値をつけて売り出していく。SDGsは、すでにそこにある大陸であるが、本社・CSR部マターであり、事業部マターではない、と思われがち。

自社にとって、SDGsがどれほどのメリットをもたらすか、数字で示してあげることが重要。そこで「SDGsビジネス」の世界規模を算出した(詳細は当日のセミナーで発表された)。

たとえば給食の分野で途上国に参入しようとしたケースで、現地企業が床で野菜を切り刻んでいたことがある。日本企業が現地の企業を使ってやろうとしても、横展開ができない。現地では安い業者を使おうとしてしまい、差別化ができない。栄養面や衛生面で優れた給食がこのようなものである、と法律で定めてあげること(ルール形成)で、日本企業の参入が可能となる。

介護の分野では、どこでも均質なサービスを提供することが必要。日本では、介護福祉士の資格があるが、新興国や途上国ではそれを持っていても就職できない。グローバルに通用する介護福祉士の資格を作ったらどうか(ルール形成)。

リサイクルや情報漏洩、環境汚染などにおいて、きちんとしている業者でないと任せられない。満たすべき世界基準。

SDGs に取り組むには、企業にとって経済合理性がないことが課題となる現状がある。不法投棄や児童労働を行なっていない企業を選ぶために、これを禁ずるルールを作ることが、「それをすると儲からない世界」を作る。

ルールは、ガイドラインや調達でも、サプライチェーンの大きな変革をもたらす。大手が調達ガイドラインを変えることで、社会が変わる。たとえばウォルマート社がそのようなことをしている。80社と共同で、商品が持続可能であることを示すインデックス(指標)を作り、持続可能性を可視化した。SDGsに資するガイドラインを制定する。ルールを上手く活用し、「ゲームチェンジ」する。

質疑応答

Q 市場規模。日本(だけ)のプロファイルは?

A 日本だけでなく、世界全体でまとめて算出している・・・エネルギーやインフラ関係の市場は、日本においても大きい。

Q ルール形成。誰がルールを作るのか。行政、政府?業界?

A 従来は政府がやるものというのがあるが、ウォルマートの例を見ても、企業がそれを行なっている。それを見て政府が動く。ルールを作るのに時間がかかる政府よりも、民間企業からルールが作られる動きが加速すると思われる。

Q 横浜と電源開発の件、公害防止協定が締結され、電源開発が排ガス処理を徹底的にやり、横浜で発電している。これはSDGsに当てはめても合理的と考えられる?

A 公害防止協定とは、まさにフォーマルなルール、立派な形成の一つだと思う。

第二部 変えるべきは何か(事例紹介)

SDGsと社会システムの将来 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏

国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏(筆者撮影)
国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏(筆者撮影)

S11という環境省のプロジェクトは、慶應大学の蟹江(憲史)先生が代表を務めている。このプロジェクトで一緒にやって来た。蟹江先生と共著を出すなど、ここ数年、SDGsに関わって来た。

1、SDGsとその意義

2018年1月に10番のロゴが変わった。

2018年1月に改定された、SDGs10番のロゴ(国連広報センターHPより)
2018年1月に改定された、SDGs10番のロゴ(国連広報センターHPより)

SDGsは、ゴールの1から6のところにMDGsの流れが入っている。真ん中の段は、開発や経済的発展をどうしていくのか。下の段は平和。

国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏(筆者撮影)
国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏(筆者撮影)

SDGsはバックキャスティング(筆者注:遠い将来の目的から逆算して考える)、従来はフォーキャスティング(筆者注:現状から演繹する)

環境・経済・社会という三側面を総合的に発展させようとしている。

2、SDGsがもたらす変化の見取り図

2015年に実施した世界的調査では、日本からは37の企業と105名の市民が調査に参加。企業や自治体の取り組みが進んでいる。Goal12 に示された 12.3など、 食品廃棄物削減の動きが出ている。グリーンウォッシュ(筆者注:あたかも環境配慮をしているように見せかけること)をもじって「SDGsウォッシュ」と呼ばれたりもする。オリパラ(オリンピック・パラリンピック)でグリーン購入はどうなる・・?

3、各変化

ビジネス界や公共政策はどう変わっていくか?

ゴールがあり、それを達成すべきターゲットがある。

SDGs以外の動向を考えなければならないと考えている。

17のゴールはよしとして、169ものターゲットがある。先進国特有の問題などはSDGsにはいらないものもある。SDGsだけを見ていてはいけない。

人口減少と高齢化。「人口オーナス」(負荷)の一面的なものが人口減少。

「変革アプローチ」も必要。「脱成長、脱開発」(深井先生の著書)

経済・環境・自治という方向性が出ている。

EUのサーキュラー・エコノミー(循環経済)

4、終わりに

「どう変わる」ではなく、「どう変えていくか」という視点が重要。

「目標達成したらOK」と思考停止するのではだめ。

2030年までの期間を、前半から後半に分けて考える。

SDGsと廃棄物管理の将来  京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

学生の時は「大学に変わってもらいたい」と思っていたが、大学に関わるようになり「大学を変えなければ」と考えるようになった。

大学生の環境意識が年々下がって来た。私たちがエコとか環境とか言っても、冷めてる。ここ10年くらい。が、ここに来て盛り返して来た。

様々な主体とSDGsをテーマにESD(環境教育)やEMS(環境管理)に取り組んでいる。2017年は京都大学120周年、1997年の京都環境議定書から20年の年だった。

鯖江市でのSDGs政策。市の事業約900事業をSDGsから分類した。役所は縦割りで自分の担当しかわからない、という現状から、総体的に分類した。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

京都市立安朱小学校で「まちをSDGsメガネで歩いてみよう」という取り組みを行なった。

京都大学のSDGs(持活)「1日1つずつSDGsに取り組んでいこう」・・・まず1番のゴール(貧困)で(難しくて)萎えてしまう。

SDGsにおける「廃棄物管理」関連事項として災害廃棄物に注目している。FAOは「生産から廃棄までを一連で考えよう」と述べている。

SDGsにおける廃棄物管理(キーワード)。これを「SDGsウェディングケーキ」と呼んでいる。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

ごみ発生:ごみ削減・食品ロス ・海ごみ

日本のSDGs取組に対する評価(2017年)は、157カ国中 11位。赤が達成できてない、次にオレンジ、黄色ときて、緑はOK。3しかない。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

ネパールにおける展開では、SDGs12番の達成度が0.01%。16番は、おそらく軍事関係で、大きい値となっている。

ごみ発生に関して。一般廃棄物発生量は近年減少しているが、食品ロスは微増傾向。家庭で料理をしなくなって来ているのが一番の原因。40年前にはほとんどなかったが、2割くらいになってきている。生ゴミの中の3から5割くらいが食品ロス。3日間の調査で51世帯のごみから出て来た食品ロスがこちら 。お菓子や佃煮など。12月末の調査だったので、お歳暮か手土産といったものが捨てられるのがよく見られる。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

ブロッコリー。食べきりサイズで売られており、「ムダなく便利」と書かれているが、このように捨てられている。(会場 笑)

賞味期限から6年経ったものがごみから出てくる。

家庭で採れた、菜園でとれた野菜もごみとして捨てられている。これらを埋めておくと、猿や獣類などが出て来てしまうので、ごみにして捨てている。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏(筆者撮影)

オムツ、介護関係。オムツ、ペット用のシートなども増えており、自治体の頭を悩ませている。今朝5月31日付のTHE JAPAN TIMESにも関連記事が載っていた。

SDGsのうち、どの項目に関心が高いかを調べると、学生の関心は、1段目のところの項目が高い。飢餓、教育、働き方、海洋など自然環境。メディアを通して入って来た情報に基づいている。一方、社会人は、ジェンダーとパートナーシップに関心が高い。日本が達成できていないと思うもの3つを挙げてもらった。5番のジェンダーに集中している。自分個人としては重要視していないけど、日本はできていないと評価されている。SDGs12番(赤)の達成度と評価の比較をすると、アンケート結果は「まずまず達成できている」。もっと具体化して伝えていく必要がある。

日本生協連の取り組みと今後に向けた問題意識 日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長 板谷(いたたに)伸彦氏

日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長 板谷(いたたに)伸彦氏(筆者撮影)
日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長 板谷(いたたに)伸彦氏(筆者撮影)

1991年生協連に入協した。生協は、どの地域も同じ仕組みで運営しており、全国2800万人が会員となっている。大量生産・大量消費の時代(1960年代)には、企業にとって製品の供給が大きな課題だった。2000年代に入ると多くの企業の不祥事が起きた。中国製冷凍餃子の件は日本生協連が当事者となってしまった、忘れられない事件となった。ここ10年間、ガバナンスに一生懸命に取り組んで来た。

2030環境目標検討委員会を設置した。

目的

1 )バリューチェーン全体に対してどう対処していくのか

2)パリ協定。どの程度の削減を目指すべきなのか

「SDGsコンパス」を横におきながら進めて来た。一般には自社の優先順位を決定し、目標設定、経営統合・・・というのが枠組みとして使われるが、生協は従来の企業の進め方とはちょっと違う。「バリューチェーンマッピング」に沿って、いい影響を与える活動と悪い影響を与える活動を整理する。自社のところからかなり遠いところまで行くので・・遠い未来のありたい社会を描く。外側の状況から発して自社のことを決める。日本人の真面目な「目標必達主義」からすると、組織内での合意に結構、苦労した。

「バリューチェーンマッピング」のデータベースを使って分析し、答申を出し、全国の生協に提言した。バックキャストの手法(理想とする姿を描き、 到達する道筋を決めて実行する手法)を用い、気候変動問題に対する対応について、自分のところで使う再生エネルギーを2025までには・・という目標を立てた。太陽光自家消費。温室効果ガスの削減。4年間で106メガワット削減まで達成できている。

生協は、消費者組織を体内(社内)に持っているという強みがある。「自分ごと意識」を持つことが大事。1990年代、牛乳パックのリサイクルが始まった。メンバーの人たちが牛乳パックを持ち寄って来たのがきっかけとなった。レジ袋の有料化も30年前にやり始めた。レジ袋が無料でもらえるのは当たり前だった時代に、メンバーがやり始めた。レジの出口に立って、もめごとが起こったときに、組合員同士が説得してやってきた。

SDGs達成に向けたリコーの循環型社会の実現に向けた取り組み 株式会社リコー サステナビリティ推進本部環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏

 株式会社リコー サステナビリティ推進本部環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏(筆者撮影)
 株式会社リコー サステナビリティ推進本部環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏(筆者撮影)

社外から講師を招き、経営層に勉強してもらってから、マテリアリティ(注力する重要課題)の特定を行なった。SDGsの説明を、部長、課長にしていくと、「SDGsって何?」となる。そこで「SDGsとは 1分トーク」を始めた。SDGsに貢献しない企業はなくなってしまうんですよ、という。

リコーは、1994年に提唱した「持続可能な社会実現のためのコンセプト」に基づき、内側ループのリサイクルを優先化した。2005年にすでに2050年目標を立てている。日本で初めてバックキャスティングの手法を用いた(バックキャスティングとは、将来の理想とする姿を描き、 到達する道筋を決めて実行する手法)。30年先のことを考えて経営するのは難しいが、一度取り出した資源はかけがえのないもの。

製品の80%がリユースだが、静岡県御殿場市のセンターに送る、それだけでも手間がかかってしまう状況がある。省資源化することで、商品原価を減少できる。3Rに優れた製品が積極的に選択される社会を作りたい。

第三部 パネルディスカッション

第三部 パネルディスカッションの登壇者(筆者撮影)
第三部 パネルディスカッションの登壇者(筆者撮影)

座長 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長 田崎智宏氏

パネラー 

東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授 浅利美鈴氏

日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長  板谷(いたたに)伸彦氏

株式会社リコー サステナビリティ推進本部 環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏

座長:本日の感想を。

古澤:生協の板谷さんの講演では、生協が「自分ごと意識」から生産と消費を変えて来られたことを知り、「エシカル消費」を当初から理念としてやって来られたことを知った。リコーの佐藤さんの講演では、マテリアリティを経営会議で決めたプロセスや、バックキャスティングでやってきたところなどが興味深かった。部品ユニットのリユースのための梱包方式も改めてすごいと感じた。浅利先生は、大学で学生といろんなディスカッションをされているのがわかり面白かった。大学生がどういう観点で持続可能性に関心が高まっているのか、具体的な議論なども知りたい。

座長の国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長の田崎智宏氏(左)と パネラーの 東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏(筆者撮影)
座長の国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室長の田崎智宏氏(左)と パネラーの 東京都環境局資源循環推進部 古澤康夫氏(筆者撮影)

浅利:古澤さんのお話、オリンピックに備えての木材調達。リコーさんの、3Rの商品が必ずしも選択されない点を聞き、そういうのが選択される社会を作らねばと感じた。生協さんでは、消費者と作り手とのキャッチボールのあり方が多様化して来たため、問題への取り組みがだんだん難しくなってきているのではと感じた。どう消費者教育を考えているかに関心を持った。消費者の卵である学生の関心について。ここ20年を見ると、自分が学生の時には地球環境問題への関心が高まっていた時代だった。そこからだんだん関心が減っていった。今、入学する子たちは、環境教育も受け、知識も持っているので「解決された感」がある。だが、2017年ぐらいから、また関心への盛り返しを感じている。不作の時には1人しか入って来なかったが、2017年は10名、2018年は二十数名が入ってきた。SDGsがメディアで報道されていることや、高校生での修学旅行で海外へ渡航し、そこで環境問題を目の当たりにして「本当に起こっているのだ」と環境問題に興味を持ち、門戸を叩いてくれる子もいる。

京都大学大学院 地球環境学堂 准教授の浅利美鈴氏(左)と日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長の板谷(いたたに)伸彦氏(右)(筆者撮影)
京都大学大学院 地球環境学堂 准教授の浅利美鈴氏(左)と日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進部長の板谷(いたたに)伸彦氏(右)(筆者撮影)

板谷:デロイトトーマツさんの発表に興味を持った。生協は主に流通業。流通には、原料部分と消費者とを繋ぐ「パイプの役割」があり、重要である。サプライチェーン全体の、ウォルマート(真ん中の流通業)が動くことでルールチェンジの可能性がある、とおっしゃったところに関心を持った。ウォルマートのような世界の圧倒的なシェアを持った企業であれば独自に自らできるが、日本ではパームオイルの問題があり、日本の小売業としては、昨年秋、生協が初めて取り組んだが、実際に事態を動かしていく(持続可能なパームオイルを使う)となると、製造業を動かしていかなければならない。流通小売で共同していかなければならない。イオンさん・セブンさんと一緒にやっていけるのか。実際には難しい。田崎先生のプレゼンであったように、「変革論」に踏み込まないと、資本主義の体制は変わっていかないのではないかと。

佐藤:勉強になった。SDGsの策定の背景で、違ったセクターから考え方やいろんなキーワードを出されていたので、改めて勉強になった。デロイトトーマツの話は、(自分も同じ)企業なので、頷けるところが多くて、関心を持った。環境経営をやってきたが、「総論賛成、だけど各論は・・」壁にぶち当たってきた。それに対し「こういうアプローチがある」とおっしゃったデロイトトーマツの話がよかった。古澤さんの話は奥が深かった。木材調達に関して、認証でありながら違法伐採があるという警鐘を鳴らして頂いた。自分たちのトレーサビリティもしっかりしていかなければ。生協さんの、生産とお客様が1つの共同体という点がすごく羨ましい。すごいエネルギーでSDGsに取り組めるのではないか。レジ袋をもらえない時、職員からではなく、市民が説明できるコミュニティを持っているところが羨ましい。浅利先生が「学生の興味が離れている」というところにも興味を持った。

株式会社リコー サステナビリティ推進本部 環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏(右、筆者撮影)
株式会社リコー サステナビリティ推進本部 環境推進室室長 審議役 佐藤多加子氏(右、筆者撮影)

座長:SDGsの影響によりこれまでに変化してきたこと、変えるべきなのに変わらなかったことは?

古澤:東京都オリパラ(オリンピック・パラリンピック)で作っている持続可能な環境計画で、一番にSDGsを置いている。調達の関係で苦労している。民間企業の動きを見ていると、トヨタさんがアジアの森林を守っていくというスタンスをしっかり打ち出された。2018年になり、世界最大手のゴムの生産者であるブリヂストンがサプライチェーンの森林破壊の問題に取り組む、という動きが出ているのは大きな動き。長いスパンでみると、ブルントラント報告。新しい道筋としての持続可能が議論されていた。そのあとの数十年で世界も大きく変わった。貧困も大きく減ったが、多くの国が、先進国を追いかける形で経済成長をやってきて、その結果が環境汚染、森林破壊、温室効果ガスの問題。1987年代を振り返ると、バブルの真っ最中。3Rへの政策転換が起こった。1987の議論を充分振り返らないままに来てしまっている。

浅利:短い視点でいうと、日本の場合はスロースターター。2015年秋以降、SDGsの浸透を感じるようになったのは、ここ1年ぐらいという印象。時代の潮流にあっているのかなというのが、残された課題の一つである食品廃棄物・食品ロスを考えると、環境部局だけでおさまらない問題。残っているものをこども食堂に回そうとしても、福祉部局に承認を得ないといけない。縦割り行政をうち破るためにSDGsがぴったり。SDGsは「ツール」「入り口」であり、これを機に通常の3年5年というスパン以上の視点で見る。「持続可能性」を改めて考えるきっかけになっている。次の100年をどう考えるかの思考のきっかけを与えてくれている。時間軸でも物理軸でも持つことのできる学習教材であり、世界を考えることができるようになってきた。認知が広がらないなど、難しい側面もある。英語3文字という呼称。17もあるということ。最初の項目が難しい。1(貧困)でつまずく。そこで思考停止してしまうこともある。悩みながらやっている。

板谷:生協の中では、経営を担っている人たちの意識を大きく変える契機になった。出向から異動で戻ってきたのが2016年4月。ちょうどSDGsやパリ協定の頃。象徴的な出来事2つ。地球温暖化対策計画が閣議決定される中で「2030年に向けた目標計画を持っていない組織」として「生活協同組合」と書かれてしまった。それなりに環境にいいことをしている自負があったので大ショックだった。もう1つは、環境保護団体などからアンケート調査の依頼を受けるようになった。が、原料調達などに関し、いざ回答を書こうとすると、大したことが書けないことに気づき、「こんな状態でいいのか」となり、特別な委員会を設けるに至った。

佐藤:追い風になっている。サステナビリティ推進本部に所属しており、1990年に公募して環境経営を進めて来た。「総論賛成、各論は・・・」という壁にぶち当たり、これまでやって来た。世の中がSDGs、パリ協定、COP22、COP23など。RE100というのに日本企業としてリコーは初めて参加した。社内の意識が変わって来た。ブレイクスルーの年。SDGsのうち、7と12と13が特に自分に関わる。特に「脱炭素社会を実現する」ということ、「再生エネルギーを使う」ということ。Apple社も、再生可能エネルギーで作っている部品でないと調達しないという調達基準を作り、そこに一番苦労しているのは日本企業。日本は再生可能エネルギーが高価。社内で意識が高まり、追い風。

座長:まとめると、認知が広まった、経営レベルで。ライフステージを超えたところでも広まった。調達の話、縦割りを超えた取り組みがしやすくなった。一方で、先進国に追従する、ある意味、まだ変わりきっていないのではという話。SDGsの認識や持続可能な調達は、ある程度広まって来たが、一方、広める上での難しさや表面的な理解に留まってしまっているのではという点。

板谷:経営層ではSDGsの認識は深まってきた。2018年6月15日に日本生協連の総会を行ない、全国の生協を集め「SDGs宣言」という特別決議を出す予定。2002年に食品衛生法改正の時にやって以来、16年ぶりの、総会での特別アピール。勉強会で話をするため呼ばれることがあるが、一般の消費者や地域で活動するリーダーは、「初めて聞いた」という人が多い。「SDGsとは」と話しても上滑りしてしまう。原発やエネルギーの問題は一般消費者まで認識が行き渡っている。なぜか。福島での原発事故があったから。自分の中に実感された。問題について、アイコンだけでなく、その裏側のことを、自分の生活に結びつけていかないと、認識は浸透していかない。

浅利:教育や認知の観点でいくと、急に爆発的に広がる必要はないのかな、と。しっかり取り組みをする中で、良い形で成長させるほうが健全。今ぐらいでいいんじゃないかな、と。学習指導要領の序文に相当盛り込まれている。(リコーさんの)「1分トーク」があちこちで出てきたらいいな、大学でやってみたいと思った。教育ツールとしてSDGsの何が難しかったかを学生と議論したところ、「ゴールは示されているけど、こんなに目標あるのに、(目標まで)どう行ったらいいのか、どこにも書かれていない。」どこから登ったらいいのかわからない。SDTs(ツール)やSDC(チャンス)とか、変えてやろうかなと思っている。一番深刻なのは、持続可能な調達の部分。グリーン購入どまりになるのでは、とか、3Rのものが選ばれる訳ではない、など、ここをどう変えるのかということ。

座長:食品ロス、認証制度、3Rなどの視点で、ルールづくりで何かご意見は?

古澤:持続可能な調達のところで、「認証」というところへの過度な頼り方はリスキー。消費者が選ぶときは仕方ないが、BtoBの場合、認証は1つの手段、ツールという認識でいておかないと危険。サプライチェーンをチェックしてリスクを軽減する「デューデリジェンス」が2018年4月から実施されている。オリンピックの委員の中でも「これじゃあグリーンウォッシュになっちゃうじゃないか」という議論もある。ネガティブなものを減らしていくことを直視していく必要がある。違法伐採や、IUU漁業、ランドグラビングといった環境犯罪や、人権侵害などのことをどう直していくか。

浅利:食品ロス関係の認証制度。簡単ではないが、自治体レベルでは、全国の食べきり運動のネットワークや、良い事例を交換し、ローカルな事例を認証するのが主流になりつつある。食品ロス、なので、発生抑制を認証するのは簡単ではないテーマになっている。リサイクルを含めて、食料政策的な展開に繋げられないかと思っている。FAOは、食品ロスだけでなく、食料調達や食料生産など、食料政策として取り組んでいる。そうなると広い視点での認証制度もありうる。一方、世界的な課題に目を向けると、世界の食料は、世界じゅうの人を養うだけ作られている。(足りないのでなく)分配の問題。それをどうやれば世界のルールにできるのか。政府だけでなく民間も交えて。チャレンジングな課題ではないかと思っている。海ごみなどプラスティックの在り方そのものを考えていかなければならない。国際ルールをどうしていくのか。ここは短期勝負な部分でもあると思う。企業の取り組みを可能な部分で知りたい。

座長:海ごみなど。3Rの取り組みをして、これまでの取り組みが阻害している部分がないか、板谷さん、佐藤さんから?

板谷:食品ロスについての取り組み。消費者の行動がどうしても社会の仕組みなど社会に依存する面がある。消費者の自覚に加え、社会の仕組み、特に流通の仕組みを変えていかなければならない。農水省さんは「商慣習の見直し」を一生懸命推進されようとしている。この月曜日にもその会合があったが、3分の1ルールを変えるのはなかなか難しい。賞味期間の長いものについては2分の1に緩和したらどうかというのが農水省の言い方。小売店では「2分の1にします」とやっている企業が結構多い。イオンやヨーカドーなど大型量販店はやられている。地方の食品スーパーは遅れているようだ。個々の小売店が「緩和します」と言っても、中間流通業のところ、中間物流の仕組みが変わっていかないと変わらない。一社残らずやって行くことができるのか。農林水産省もそこに問題意識を持っている。環境社会の問題に足並み揃えていく共同の仕掛けというのが田崎先生の「変革論」になっていくのかもしれない。この後、数年間で動きを作っていかなければならない部分だと思っている。

佐藤:二点紹介する。BtoBの世界ではグリーン購入はだいぶ進んでいる。特にEU。もっとも厳しいのがドイツのブルーエンジェルマーク。北米の調達基準においても、マストじゃないけど、リサイクルのプラスティックが何%入っているのかが加点されるという風になっている。入札なのでコスト重視。回収したプラスティックの改修費用や洗浄費用などを加算していくと、バージンプラスティックよりも高い値段になってしまう。カナダではそういった費用を入札価格から割引にするといった制度もあるが、グリーン購入に対するインセンティブがあるといいと思う。もう一つ、日本で再生した再生機が、必ずしも日本で需要がない。中国、アメリカなど必要な国へ送ることになる。日本の再生技術は質が高いが、新興国ではそのようなもの(リサイクル品)が玉石混合で送られてくるという歴史があったため、厳しい規制を課したバーゼル条約が立ちはだかってくる。情報開示をしているが、厳しさを感じている。

座長:フロアから意見を頂ければ。講演内容でもその他のことでも。

Q:法規制や、周りの人の教育、消費者の声などの中で、一番こういうところが効くなというのを教えて欲しい。取り組む上で、どこをプッシュすればいいのか。

板谷:生協では、消費者の評判(レピュテーション)リスクが一番効く。内部の者が言っても相手にされないが、消費者の声、NGOのアンケート調査など。どこが遅れているのかと指摘されるのが、組織が動く契機になる。役員と話していると、何をどうすればいいのか、どこまでやればいいのか、を明確にクリアにしさえすれば動くと感じる。

佐藤:トップダウンで降りてくるのは非常に効く。専任組織がいること。それぞれの事業部の中で、仲間を作り、対応していくことが効果がある。

Q:SDGsは腑に落ちない。腑に落とすために遠方からやって来た。上からやってくるボトムアップみたいな。何をやったらいいのか。田崎さんのお話で、日本が出遅れたとあったが、なぜ日本は出遅れたのか。なぜ日本以外の国は自分たちで考えられたのかを教えて欲しい。SDGsを日本語に訳す動きは?

座長:「持続可能な開発目標」をもっと砕いた言葉はない。日本で遅かったことについて、どなたか・・・

佐藤:一つの事例。私どもは紙を扱っている。先ほどからの違法伐採の話。おもてなしの国と言われている割には、日本はこういったことに対する感度が低いと感じている。海外のNPOやNGOは、企業へのバッシングが強い。日本のNPOはそんなに厳しくない。安い紙を買って、それが、違法伐採されていようがされていまいが何も気にしていない。認証紙を用意しても、高いから日本では売れない。欧州や北米では「当然それでしょ」という意識。紙をCO2でオフセットするプログラムがないとリコーさんでは買わないよ、となる。たとえばブリティッシュエアウェイで「このフライトはカーボンオフセットで高い」と言っても売れる。でもANAで同じことをやっても売れない。日本の組織風土を感じている。

座長:途上国の反応はよかった。SDGsに絡めて国内の開発・環境プロジェクトをやればやるほど先進国から資金を得やすいので。途上国で進むのは当然。先進国の中で、日本はなぜ遅れたかというと、社会問題、自分の国の外で起きていることに対する感度が全然違っていて、SDGsの中にかなり入っている。そこが響かなかった。「加担している」部分に目を向けないと、取り組みにも限界がある。

Q:(SDGsに)ついて来られない市民がいる中で、変革的なアプローチが必要と考える。それに際し、こういう部分がキーになるところは?

座長:基本的なトランジションをどう起こすかという研究が、ここ10年で10倍以上に増えてきている。どこが具体的に効くか?個々のミクロでの動きがマクロレベルで世の中の潮流とマッチングするというのがどこかで起きて、企業と消費者との関係や、サプライヤーとバイヤーとの関係がどこかで変わる、構造が変わったところでトランジションが起こる。そこでゲームチェンジが起こる。いまのところどこでと特定できないが、ミクロとマクロのマッチングというのがキーになる。

Q:機械工学科なので、エンジニアの立場で考える。技術開発の面で、どうリサイクルしやすいものを作っていくのか。

佐藤:永遠の課題。1993年から上流でリサイクルすることは重要。複合部材は使いやすいが、リサイクルの阻害要因になる意味では矛盾する。包装の世界でその問題が起きている。ケミカルリサイクルの方に行ってしまうという意味で、経済合理性の面でも、複合部材の問題は非常に難しい。環境行動計画も掲げているが、これからバージンプラスティックや、新素材は、リサイクル性もあるが、石油系資源を使わない、小型・軽量化に効いてくる素材などが注目されている。こちらもアドバイスを伺いたい。

田崎:一人一言。1分程度で。

古澤:廃棄物の3Rは、まず出口側から考える。昔からライフサイクルと言いながら、上流も含めてトータルで考えるのが、まだまだできていない。研究者の方もそういう観点でお願いしたい。日本全体のバリューチェーンの持続可能性での議論をもっとやっていく。SDGsそのものの翻訳、文言自体をもっとしっかりしていく必要がある。今のは仮の訳なので、漏れているところがある。洗い直しをしていく翻訳作業も非常に重要。

浅利:SDGsの12番、「作る」に食い込んでいきたい。力を入れているのは、災害や都市の強靭化、持続性が、最もチャレンジャブルな分野と思っている。2040の高齢のピークを迎えるということ、巨大な災害がこの三十数年に必ずくると予期されている。世界でタフな20年、30年を迎えることになると考えている。廃棄物処理だけでなく、都市インフラも含めて考えなければ。都市モデル、田舎モデルみたいなものを、オールジャパンで取り組んでいく。学会として意義のあるものを示していく。継続的な議論ができれば。たとえばインフラ関係の人ともこのような場を持っていくといいと思っている。

板谷:生協は自治の組織。消費者に指示されて取り組みを進めるようにしたい。消費者の行動はシステムに依存してしまう。原発事故は、暴力的な形で消費者に「まあ、なくてもやっていけるじゃないか」と実感をさせた。循環社会も、ありたい姿を描いて消費者に見せて、「それだったら、暮らし、そんなにめちゃくちゃにならないんだな」と見せてあげると進みやすくなる

佐藤:4点。社会インフラの整備が進むことが望ましい。情報開示を強化していくこと、トレーサビリティがしっかりしていること。インセンティブ(取り組んでいる企業が報われること)。テクノロジー・イノベーションを進めていく。

古澤:人文学の分野も大事にして頂ければと思っている。

座長:SDGsの課題や進んでいるところが共有できた。2030年まで、まだまだある。本気でやったらあっという間。うまく使って、問題に働きかけていくこと。当学会としてもできることを見つけていくこと。以上で終わります。

セミナーを受講して

SDGsに関する内容を、歴史も含めて系統立てて聴くことができた。大学、行政、企業といった多様な立場の方から現場の話を聴けた収穫は大きい。最も印象に残ったのは「思考停止」という言葉を7名中3名の登壇者の方が語ったことだ。筆者も拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、3刷)で「賞味期限に依存するのは思考停止」と語っているので腑に落ちた。記録は長文になってしまったが、この中に3名の方が語った「思考停止」という語句があるので、画面をスクロールして見つけて頂きたい。現代の社会的課題の少なくない数が、人々の思考停止とゼロリスク志向により起きているのを感じている。

2018年7月31日には廃棄物資源循環学会主催のSDGs関連セミナーが再び企画されている。筆者は残念ながら海外渡航のため参加できないが、どなたかがレポートして下さることを楽しみにお待ちしている。

2018年5月31日開催 廃棄物資源循環学会企画セミナー /SDGsで世の中はどのように変わるのか

2018年7月31日開催 廃棄物資源循環学会主催セミナー/SDGs時代の改正環境基本計画、循環型社会形成推進基本計画と資源循環・廃棄物処理

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事