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バスケアジアカップ予選。代表選手派遣騒動の中で求められる国際交渉力

小永吉陽子Basketball Writer
2020年2月、アジアカップ予選チャイニーズタイペイ戦より(写真/小永吉陽子)

なぜコロナ禍でアジアカップ予選に出場しなければならないのか

 2月17日からカタール・ドーハで開催予定だったアジアカップ予選Window3の直前中止と代表選出の混乱を受けて、2月16日にBリーグの島田慎二チェアマンが会見を開いた。日本バスケットボール協会(JBA)の副会長と、Bリーグのチェアマンを兼任し、両組織において意思決定に関与がある立場としての登壇だった。

 まず、会見が開かれた経緯とアジアカップ予選の重要性、このコロナ禍において、なぜ国際大会を開き、参加しなければなかったのか。その背景から説明していきたい。

 FIBAアジアカップ予選は2020年2月(Window1)、2020年11月(Window2)、2021年2月(Window3)の3回の会期とプレーオフによって出場権が争われ、アジアカップ本大会は2021年8月にインドネシア・ジャカルタでの開催が予定されている。日本の予選状況は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、昨年2月にチャイニーズタイペイと対戦しただけで5試合を残していた。本来、今年2月17日からのWindow3は日本開催であり、そこで未消化3試合を含む5試合を行う予定だったが、1月に入って緊急事態宣言が発令されたことにより日本開催が中止。安全面ので確保がハイレベルと判断されたカタール・ドーハに開催地が変更された。しかし強化合宿中の2月12日、新型コロナウイルスの感染状況が深刻化したカタール政府の判断により、ドーハ開催の中止が決定した。

 出発が目前に迫る中で日本協会から選手選考の理由が明かされず、代表選手の選出が各クラブからの発表に切り替えられたうえに発表にタイムラグがあり、ドーハ開催中止の発表が他国よりも半日以上も遅れたことなど、情報展開の遅さと様々な疑念と不透明さが出たことが会見に至った背景である。

 アジアカップは2017年から「アジア選手権」から名称を変え、オリンピックやワールドカップのアジア予選を兼ねない大会に改正したが、アジア王者を決める大会であることに変わりはない。そして、新設されたコンチネンタルカップ(アジアカップ、ユーロバスケット、アメリカップ、アフロバスケット)の予選は全大陸で同時期に開催されるため、アジアだけ回避というわけにはいかない状況にあった。またアジアカップに出場する16チームがワールドカップ(W杯)一次予選に参加できるため、アジアカップ予選を通過する必要があった。

 そして、2019年大会からW杯は世界一を決定する大会であるとともに、ダイレクトに7ヶ国が五輪出場権を獲得し、残り4枠をかけた最終予選(OQT)への出場権にも関わる大会になった(※)。つまり、アジアカップ予選は、W杯と五輪出場への第一歩という位置づけである。ただし、2023年W杯(日本沖縄・フィリピン・インドネシア共催)においては、日本は開催国枠が与えられたことはすでに発表されている。

 島田チェアマンの会見要旨と、その後メディア対応での質疑応答をまとめると以下の通り。

島田チェアマン会見要旨・質疑応答まとめ

●日本は2014年11月末に代表強化とJBA/トップリーグのガバナンス問題においてFIBAから制裁を受けた国であり、現在もFIBAのモニタリング下にある。そのため、アジアカップ予選に出場しなければ、アジアカップ本戦に出場不可、2023年W杯の開催国枠を剥奪される可能性があった。そうなれば2024年パリ五輪の道も閉ざされる。

●11月のWindow2の出場を辞退した中国、韓国、チャイニーズタイペイには16万スイスフラン(約1900万円)の罰金と勝点2の減点が科された。日本はWindow3の開催地を表明したことでペナルティはなかった。

●緊急事態宣言を受け、1月23日に日本開催から、カタール・ドーハ開催への変更がFIBAから通知される。1月29日にコロナ禍の状況では参加が難しいとFIBA/FIBAアジア/カタール協会に申し出た。しかし、FIBAから「出場は義務」との連絡を受け、JBAは苦渋の決断の下、選手派遣を決定。

●「勝てるチーム」を派遣することを前提とし、改めてJBAより2月4日にBリーグクラブに選手派遣を依頼。選手派遣についてはBリーグからJBAに2つ要請があった。①新型コロナウイルス感染症対策が万全で安全を確保すること。 ②帰国後に14日の自主隔離がある状態では各クラブの試合に影響が出るため、公平性の担保から選手派遣に一定の制限を設けること。以上の条件を受けて「1クラブから招集は1名まで」になったことは事実。

●Bリーグの規定において、日本代表に招集された場合は参加義務がある。Bリーグ各クラブは参加義務を理解しながらも、安全面での不安を払拭できず、派遣要請を辞退するクラブ/選手がいたことは事実。Bリーグの規定に則し、辞退選手には制裁を科すことを検討。しかし最終的にドーハ開催が中止になったことで制裁は科さなかった。また、コロナ禍で渡航が不安視される中で難しい判断であったことは理解できるので、辞退したクラブ/選手を責めるべきではない。

●JBAはドーハにおよそ15名の選手を派遣予定だった。ただ、15名の派遣選手と最終的な12名の選出、辞退したクラブ/選手については日本協会からは公表しない。

●予備登録24名・派遣15名・代表12名の選定はフリオ・ラマスヘッドコーチが行う。「1クラブから招集は1名まで」という状況下でラマスHCがベストメンバーを選出した。ラマスHCは今回選出されたメンバーで勝てないとは思っていないし、JBAも同意見で、勝てるチームを選考した(島田チェアマンがラマスHCの意向を伝えたものであるが、ラマスHCが会見に出席して直接発表したわけではないので、選考理由や基準の詳細は明かされず)

●本来、12名のメンバー発表は、相手のスカウティングを避けるため、戦略上、試合前日のテクニカルミーティングで最終決定されるまで発表しないことが常。ただ、今回は2月14日までBリーグが開催されており、応援するファンがいる以上、代表選出メンバーを隠すことはフェアではないため、リーグ戦を欠場する選手は各クラブが個別に発表することにした。

●カタール開催中止の決定について、日本が他国から半日以上遅れて2月12日の21時過ぎに発表したのは、「あらゆる選択肢を模索したいから21時まで発表しないでほしい」というFIBAの指示に従ったため。

●今後について。FIBAは新たな日程と場所を(ドーハ開催中止の決定から)10日以内に発表するとしている。3月中にフィリピン・クラークでのバブル開催という憶測も聞こえている。その可能性がある場合は、リーグ戦が佳境であることと安全面を考え「参加は困難」とFIBAに強く要請し、レギュラーシーズンが終わったあとにしてほしいと提案は出す。また、緊急事態宣言が解除されていることや、他国の状況も見て、あらゆる状況の中で意思決定をしたい。

会見を行ったBリーグ島田慎二チェアマン(JBA副会長)
会見を行ったBリーグ島田慎二チェアマン(JBA副会長)

新日程では「参加困難」とFIBAに意思表示

 未曾有の状況下で決断を下さなければならなかった経緯と会見の要旨は非常に理解できるものだった。

 ただ、残念であったのは「アジアカップ予選の選手派遣について、SNS等で様々な噂や憶測が飛び交っていたため、一連の流れを説明する必要があると思った」という発言だ。確かに毎回、代表関連の発表や取材の場は大会間際であったものの、疑念がなければ、今回は説明や取材の機会はないままだったのだろうか。また、情報提供の遅さが指摘され、クラブごとの発表は非常にわかりにくく不透明であるため、結果的にさらなる不信感を生み出したことは否めない(ドーハ開催中止の決定を受けてから選出を発表したチームや、2選手の名前を発表したチームがあり、その理由は明かされず)。日本代表の情報については管轄であるJBAが統括して発表すべきだろう。

 重要なのは今後である。現状10日以内に次回開催地と時期を決定すると発表があった以上、現時点で解決していることは何一つなく、また同じことが繰り返される。もともと、11月と2月はアジアカップ予選がある前提でBリーグでは中断期間を設けている。だが新たな日程が決行されれば、予定にはなかった会期が組み込まれることになる。

 本来、アジアカップ予選はホーム&アウェーで開催されるが、開催不可の国があるため一極集中のバブル開催になった。ヨーロッパなどは地続きで移動時間も距離も少ないが、ドーハ開催が予定されていたように、アジア内の移動距離と時差、環境の変化は他の大陸とは大きく異なる。コロナ禍における安全面での懸念はもちろんのこと、予定外の中で開催するのは困難だろう。以上のことを踏まえて、島田チェアマンが「開催は困難だとFIBAに要請する」と発言した姿勢は貫き通してほしいし、FIBAに意見が言える国であってほしい。それでも開催要請があれば時期については主張する必要がある。今、求められるのはFIBA/FIBAアジアとの国際交渉力だ。

 新たな会場がフィリピン・クラークでのバブル開催との候補が出ている。この件はFIBAアジアの公式ステートメントをもとに海外メディアで公表されている。そんな中で日本が開催困難だと示しているように、FIBA/FIBA アジアは各国協会と連携を図っている関係には見えない。その点を踏まえて、今後の参加意思と対応について質問したところ、島田チェアマンから以下の回答があったので最後に記しておきたい。

「最終的に意思決定するのはFIBAであることは紛れもない事実。その意思決定において、我々はこの難しい状況下では新日程での開催が困難であるとFIBAにしっかり伝えるし、すでに会話を始めている。一方でこれまで努力してFIBAとやり合っている経緯があり、それでも我々の意向を無視して決めてくることもゼロではない。

 FIBAから新日程での参加が要請され、JBAが出場すると決めた場合の対応については、Bリーグは協力をする責務する負っているので、選手たちが納得しやすい環境を作って理解してもらうように働きかける。制裁を科すことも含めて今回と同じ派遣基準を求めていく」

(※)オリンピック出場権

 W杯の順位において、アジア・アフリカ・オセアニアは大陸内最上位国、ヨーロッパ・アメリカは大陸内上位2ヶ国=計7ヶ国がオリンピックの出場権を得る。東京五輪でいえば、アジアでは2019年W杯でアジア最上位(23位)のイランが出場権を獲得。

 また、W杯で出場権を獲得できなかったチームは、最終予選(OQT)で残り4枠を争うが、OQTに出場できるのは、W杯で五輪出場権を得た国を除く上位16チームと、4大陸(この場合アジア/オセアニアは合同)においてFIBAランキング上位2チームで計24チーム。アジアからはW杯19位のニュージーランド、FIBAランク上位として中国(FIBAランキング28位/W杯24位)と韓国(同30位/26位)がOQT出場権を獲得している。日本はFIBAランキング41位、W杯31位。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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