380km→200km? 何故か最大射程が大幅に短くなった北朝鮮の超大型ロケット弾の謎
3月10日、北朝鮮は前日3月9日に「金正恩同志が朝鮮人民軍前線長距離砲区分隊の火力打撃訓練を再び指導した」と公式発表しました。これは3月2日の視察に続いて再び3月9日に金正恩が軍事演習の視察を行ったことを意味します。
同時に公表された写真には600mm超大型ロケットおよび複数の240mm多連装ロケットや170mm自走カノン砲の車両が写っていました。
過去の飛行データと食い違う謎
3月9日に北朝鮮が発射した飛翔体は水平距離200km・最大高度50kmの通常軌道で飛行したと韓国軍は観測しています。これは過去の飛行データから300mmロケット「KN-09」と完全に一致していました。しかし北朝鮮が3月10日に発表した写真にはKN-09は写っておらず、600mm超大型ロケット「KN-25」が写っていたのです。同時に発表されている240mmロケット弾や170mmカノン砲では200kmも飛べません。しかし2019年にKN-25が通常軌道で発射された際の飛行データでは水平距離380km・最大高度100kmの筈でした。
- 「KN-09」8連装300mmロケット 水平距離200km・最大高度50km
- 「KN-25」4連装600mmロケット 水平距離380km・最大高度100km
通常軌道とは最小エネルギー軌道とも呼ばれますが、最もよく飛べる最大射程の弾道を言います。その通常軌道で400km近く飛べるはずのKN-25が約半分の200kmしか飛んでいないのは非常に不可解です。飛行性能が半減したというのは尋常ではありません。
大重量弾頭を採用し射程が短くなった?
可能性として考えられるのは「改良型で重い弾頭を搭載した代わりに射程が短くなった」というものです。しかし射程が半減するほど弾頭重量を増やす改修は普通は考えられません。仮に射程を大幅に犠牲にしてまで必要とされる大重量弾頭があるとしたら地下貫通弾(バンカーバスター)または小型化できていない核弾頭が思い付きますが、どちらも積みたければより大きな弾道ミサイルに搭載すべきであり、ロケット弾に搭載する必要性は低いように思えます。KN-25は並みの短距離弾道ミサイルより大きいという世界に類を見ない規格外の存在ですが、それでも中距離弾道ミサイルよりは小さいのです。
3月2日と3月9日の発射でも飛行性能が食い違う
2020年3月2日と3月9日に発射された飛翔体については、北朝鮮は翌日に言葉では説明せずKN-25の写真を提示しました。しかし韓国軍が観測した飛行データではこの二つですら食い違いがあります。
- 2020年3月2日「KN-25?」 水平距離240km 最大高度35km ※やや低い軌道
- 2020年3月9日「KN-25?」 水平距離200km 最大高度50km ※通常軌道
3月2日の飛翔体を仮に通常軌道で撃った場合、最大射程300km近く飛べている計算になります。2019年に試験発射されたKN-25は最大射程380kmだった以上、もし全てKN-25の派生型だとした場合には最大射程が大きく違うものがおおよそ200km、300km、400kmと3種類あることになります。同じ大きさのロケット弾でここまで射程に差があるものを複数種類用意するのは、多連装ロケットシステムでは他に聞いたことがありません。
果たして2020年3月2日と3月9日に発射された飛翔体は本当にKN-25なのでしょうか? 600mm超大型ロケット弾のせっかくの優位点である長い射程をわざわざ大幅に短くする改良型が実在するのであれば、その用途や運用方法など大きな謎が生じます。更なる情報収集と分析を行う必要があるでしょう。
3月9日の北朝鮮の飛翔体についてアメリカ当局者の「発射されたのはKN-25が3発、KN-09が2発」という初期情報をロイター通信が伝えています。もしそうなら韓国軍はKN-09だけ探知に成功してKN-25を見失っていた可能性も出て来ます。しかしその場合だと3月10日の北朝鮮の発表写真にKN-09が写っていないのは何故かという疑問も生じてしまいます。
【関連記事】