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3月2日に北朝鮮が発射したミサイルの謎

JSF軍事/生き物ライター
3月2日北朝鮮公表写真より金正恩。背後の人物は新型肺炎対策の黒いマスクをしている

 3月3日、北朝鮮は金正恩委員長が3月2日に前線長距離砲区分隊の火力打撃演習場を視察したと公式発表しました。文面には「前線長距離砲」としか説明されておらず、同時に発表された写真にはロケット弾が写っていました。しかし疑問な点があります。3月2日に発射された飛翔体は2発だったのに、それ以上の多数のロケット弾を発射する様子が写っていたのです。

北朝鮮2020年3月3日公表写真
北朝鮮2020年3月3日公表写真
北朝鮮2020年3月3日公表写真
北朝鮮2020年3月3日公表写真
北朝鮮2020年3月3日公表写真
北朝鮮2020年3月3日公表写真

 2枚目は写っている発射機から「22連装240mmロケット」、3枚目は「4連装600mm超大型ロケット」です。しかし前述の疑問点から、3月2日の発射とは無関係の写真が混じっているか、あるいは発表写真全てが無関係の可能性すらあります。つまり3月3日の公表写真からは何も分からないということしか言えません。

 その一方で韓国軍は3月2日の北朝鮮による発射を短距離弾道ミサイルと暫定的に判断しています。3月2日の飛翔体は水平距離240km・最大高度35kmで、ロケット弾か短距離弾道ミサイルか判断が難しい飛行性能です。北朝鮮側の公表写真が信用置けないとなると、分析は難航するかもしれません。

  • M1991「240mmロケット弾」 水平距離60km ※射程を120kmに延伸した情報あり
  • 2016年3月22日「300mmロケット弾」 水平距離200km 最大高度50km ※通常弾道
  • 2019年7月31日「大口径ロケット弾」 水平距離250km 最大高度30km ※極端な低弾道
  • 2019年8月2日「大口径ロケット弾」 水平距離220km 最大高度25km ※極端な低弾道
  • 2019年8月24日「超大型ロケット弾」 水平距離380km 最大高度97km ※通常弾道
  • 2019年9月10日「超大型ロケット弾」 水平距離330km 最大高度50km ※やや低い弾道
  • 2019年10月31日「超大型ロケット弾」 水平距離370km 最大到達高度90km ※通常弾道
  • 2019年11月28日「超大型ロケット弾」 水平距離380km 最大到達高度100km ※通常弾道
  • 2020年3月2日「詳細不明な飛翔体」 水平距離240km 最大高度35km ※やや低い弾道

 上記は3月3日の発表写真にある240mmロケット弾と超大型ロケット弾、そして300mmロケット弾と大口径ロケット弾の飛行データです。3月2日に発射された詳細不明な飛翔体は、240mmロケット弾や300mmロケット弾よりよく飛び、大口径ロケット弾や超大型ロケット弾より飛べる距離が短い性能です。やや低い弾道で240km飛べるならば通常弾道では300km弱は飛べる性能になる筈で、既存の北朝鮮兵器では合致するものがありません。既存兵器を改良し射程を伸ばしたのか、あるいは弾頭を重くする代わりに射程が落ちた可能性があります。例えば600mm超大型ロケット弾の弾頭を重くすれば射程が落ちて該当する飛行性能になるという感じです。

 筆者は北朝鮮が2020年3月2日に発射した飛翔体は、2019年7月31日と8月2日に発射した「大口径ロケット弾」と同じものではないかと推測します。そしてこの「大口径ロケット弾」は発表写真にモザイクが掛けられた謎の多い存在で、観測された速度がマッハ6.9とロケット弾とは思えない非常に速い速度を発揮しており、昨年の「大口径ロケット弾」の試験は実際には短距離弾道ミサイルを極端な低弾道で発射した特殊な試験だったが北朝鮮は偽装しているという可能性があります。

 そしてまた今回も存在を偽装しようとしているのではないでしょうか。ただし今回2020年3月2日の発射は、やや低く浅い弾道ではあったものの極端に低い弾道とまではいえず、それほど特殊な内容の試験ではありませんでした。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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