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忘れてはいけないのは、「コロナ禍のなかでの調査」だったということ~教員勤務実態調査~

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 文科省は4月28日、昨年実施した教職員勤務実態調査(速報値)を発表した。これから本格的に始まる給特法見直し論議のベースにされるもので、きわめて重要なデータである。それだけに、その数値の判断には注意が必要となってくる。

|実態が把握できている調査なのか

 発表された教職員勤務実態調査(以下、調査)の「概要版」の最初には、「前回調査(平成28年度)と比較して、平日・土日ともに、全ての職種において在校等時間が減少したものの、依然として長時間勤務の教師が多い状況」と記されている。長時間勤務が依然として多い実態は否定できないが。在校等時間が減少している、というわけだ。

 小学校の教諭の場合、1日あたりの在校時間は2016(平成28)年度の11時間15分から、今回調査の2022(令和4)年度には10時間45分と、30分だけ短くなっている。校長でも10時間37分から10時間23分と14分減少している。これをとらえて、働き方改革の「成果」と強調することは可能かもしれない。

 忘れてならないのは、2022年度の「特殊性」である。新型コロナウィルス感染症(コロナ)の感染拡大を予防するためとして、当時の安倍晋三首相の「鶴の一声」で全国すべての小中校と特別支援学校が臨時休校にはいったのは2020年3月2日のことだった。

 そして、学校現場は混乱に陥った。臨時休校が明けても、「自粛」モードは終わらず、調査が行われた2022年になっても運動会などの行事が中止、縮小されたのはご承知のとおりである。

 それは、調査の結果にも表れている。平日に教諭が学校行事にかける時間は、小学校で2016年度の26分から2022年度には15分に減っている。これは「効率化」の結果というよりも、コロナの自粛モードが続いていたためと解釈するべきではないだろうか。

 いろいろなところで自粛モードの結果として在校等時間が減っている、と考えるべきである。それを考慮しないで、「在校等時間が減っている」と単純に解釈するのは危険でしかない。自粛モードが薄れるなかで、その効果は確実に消えていくからだ。

|時短ハラスメントも横行している

 さらに、働き方改革が注目を集めるなかで、学校現場では「時短ハラスメント」が横行していた。在校等時間を減らすために、教員は管理職から「帰れ」のプレッシャーをかけつづけられている。「残業時間が多くなると、管理職から呼びつけられて『指導』をうける」、「呼びつけられるのが面倒なので、退勤のタイムカードを押してから居残って仕事をしていた」といった話を、筆者も教員から多く聞いた。在校等時間は強制的に減らされているのだ。

 このような調査の数字に隠された実態を直視しなければ、ほんとうの状況はみえてこない。それでも、「過労死ライン」といわれる月80時間を超える時間外勤務を行っている教員が小学校で14.2%、中学校では36.6%にのぼるというのが調査での結果である。

 これからの給特法見直しの論議で調査の数字をベースにするというのなら、ただ表面的な数字だけの議論でなはく、2022年の特殊性をはじめとする学校現場の「実態」を踏まえた議論でなければ、ほんとうの見直しにはつながらないはずだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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