「食料品は少量生産に戻るべき」安売りも広告もないスーパーまるおか イオンの隣でなぜ顧客が絶えないのか
群馬県高崎市。高崎駅から車を走らせると、巨大なショッピングモール、イオンの高崎店がある。その広大な駐車場のすぐ隣に、よく見ないと見過ごしてしまいそうな小さな店がある。それが、スーパーまるおかだ。
株式会社まるおかの代表取締役社長、丸岡守氏は、1944年生まれ。その4年後の1948年に、父が、20坪ほどの八百屋「まるおか商店」を創業。守氏は、大学を卒業してからその店を継いだ。
試行錯誤を重ねながら、商売のあるべき姿を追求し、1998年には優良経営食料品小売店として最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞。2015年、現在の場所にスーパーまるおかをオープンした。安売りもしなければ、紙のチラシも打たない。でも、東京や神奈川、軽井沢などから車で数時間かけて、買い物にやってくるファンの顧客がいる。全国の量販店からの視察も絶えない。それはなぜなのだろう。
群馬県高崎市の社会福祉法人みどの福祉会 新町デイサービスセンターでセンター長を務める丸茂ひろみ氏が、丸岡守氏に連絡してくださり、この度、インタビューする機会を頂いた。
「食料品は少量生産に戻るべき」
ーお客さまの健康を考えて、環境に負荷をかけないで継続していく商品作りをしていくと、やっぱり少量生産、というふうに(著書に)書いてらっしゃって。
丸岡守氏(以下、敬称略):「結論言っちゃうと、食料品は少量生産に戻るべきだと思うんです。大量生産っていうのは、やっぱりよくない。美味しくないんです。原料からして違うんです。」
「小麦や大豆、とうもろこし、そういうのをボーンと(まとめて)輸入して、国産の半値ぐらいですから、安い原料で安く作れるわけです。少量生産のものと比べたら、全然、味がまずいんです。」
「じゃあ、どうやってまずいのをごまかすか、ですよ。だって、普通に売ったら、黙って売ったら、美味しい方が売れちゃうんです。でしょう?じゃあ、そのまずいのをどうして隠すかっていうことです。コマーシャルバンバン打って、洗脳しちゃうと、もうそっちしか目がいかなくなっちゃうんです。それ食べたときに、美味しいかどうかって発想じゃなくって、もうそれは美味いんだってインプットされているんです。だから、自分の味、判断じゃないんです。脳がコントロールされちゃって、舌がバカになっちゃってるんです。」
「チラシは打たない」
ーチラシもやめられたって。やっぱり、チラシのコストって半端ないほどですね。
丸岡:「莫大です。すごい。大手さんほどそうです。おそらくチェーン店なんか、何億でしょう。年間。その何億円使って、何か他に買ってやった方がいいんじゃないかっていうぐらい。」
「レストラン、一度行ってまずけりゃもう行かないようになっちゃいます。そういうもんです。だから、味って、食べ物っていうのは、味が価値なんです。それを、味を抜きにしようっていうの、皆、スーパーっていうのは。値段だよって思ってる。値段だけと思ってるお客さんも多いです。それは、そういう風に感化されちゃったんです。」
「土用の丑の日は本格的に売って売り切る」
ーうなぎ、土用の丑の時なんかは、どうでしょうか。ちょっとだけ売るっていう感じでしたか?
丸岡:「いやいや、うちは本格的に売ります。」
ーそれじゃあ、売り切っていくっていう感じなんですか。
丸岡:「うん、そう。昨年は2,700円、今年も2,700円です。予定通り、ちゃんと売ります。まるおかのは美味しいんだって。」
信用を築くのは20年かかる
ーお父さまの代から引き継がれて、信用って一朝一夕じゃないと思うんですけれども、どのくらい・・・
丸岡:「一言で言うと10年。本当は20年ぐらいです。」
ーやはり、そうなんですね。
丸岡:「だから、いいもの売ろうと思っても、いきなり売れないんです。みんな高いから。だから、少しずつです。徐々にグレード上げていくっていうのか。こちらも美味しいです、こちらも美味しいですよってなっていって、ああ、やっぱり違うねってわかる人がだんだん増えてくればいいわけです。だから、20年かかるんです。」
ーいくらフランチャイズの店がここにきて視察して真似しても、追いつかないですね。
丸岡:「そうなんです。みんなすぐ、その商品置けば売れると思ってる。だけど、安く、ずっと安く売ってきたでしょう。それをいきなり、今まで100円ばっかり売ってたのに、いきなり500円って言ったって、売れないんです。お客さん、びっくりしちゃって。」
「(規模が)大きくなればなるほど、社長とその従業員の格差っていうか。要するに、一人一人ができないです、大規模になればなるほど。社長だけ思ってもダメ。それから真ん中の従業員が思ってもダメなんです。両者、両方が一緒に。まして大きくなればなるほど、今度はロスって言ったって、莫大なロスになるんで。」
ーさっき、きな粉を買ったんですけど。きな粉の会社の方が、こちらのスーパーにすごく影響を及ぼしたっていう。
丸岡:「そうです。1袋500円ぐらいかな。それも結構、売れます。周りは100円ぐらいだったんです。だから、使ってみて全然違うっていうのはわかって、それをお客さんが、だーって伝えるわけです。これは違うよって。」
「コンビニは現代版の地主と小作人。昔より残酷」
ー莫大ですよね。それの最たるものがコンビニかなと思うんです。本部の話を聞いて、オーナーさんの話を聞くと、やっぱり、全然通じてないんです。ロスは大量に出てるし。
丸岡:「あれは、地主と小作人って、昔、あったじゃないですか。あれの現代版だと思います。」
ー本当にそうだと思います。
丸岡:「もっと残酷です。契約がきちんとできているから、その通り、やんなきゃなんない。昔は地主と小作人でも、今年はコメがとれなかったから、いつも10俵なんだけど、今年は6俵でいいよ、とかって、地主さんがそういうふうに、臨機応変にやってくれるわけでしょう。とれないのにとっちゃって、干上がっちゃったらそれこそ万歳になっちゃうから、それも困ることなんで。そういう昔の方が、まだ現実的なところがあったんだ。ところがコンビニとなったら、もう細かいところまでびっしり決めて、『これ約束ですから』ってね。」
食べ物を工業製品と同じに考えちゃってるのはおかしい
ー柳川のスーパー「まるまつ」さん。お魚も、海がシケだととれないじゃないですか。大手は数合わせで買っていくんですって。でも、まるまつさんは、「古くてまずくて高い魚をお客さんに買わせることになるから、それはうちはしない」って。それが本当かなって。
丸岡:「それが本当です。とれなかった、っていうことを正直に言えばいいんです。」
ー元をたどればみんな生き物なので、自然のものって計画通りにいかないから。規格もそうですけど。
丸岡:「そう。だから、食べ物に関しては大量生産できない、オートメーションっていうのはあんまり良くないなと思うんです。それを、工業製品と同じに考えてるんです。そうはいかないです。」
日曜日は定休日、お正月は5日から
ー日曜日は定休日にされているのと、お正月も1月5日から(の営業)。
丸岡:「そうです。」
ー食べ物に対する敬意もそうだし、働く人に対する・・・
丸岡:「そうです。」
ーお客様からこちらで働く(側の)人になった方も何人かいらっしゃるって。
丸岡:「そうですね。今日も一人入ってて、レジ。」
「食べ物は何なのかを見直す時期」
丸岡:「美味しいっていうことは、価値なんです。価値っていうことは、金銀銅で言うと、金なんです。」
「大事なことは、食べ物は何だって(いうことを)もう一回見直す時期だと思うんです。ただ、お腹満たせばいいっていう、そんな貧しい時代じゃないんです、もう。戦後なら仕方ないです。今、こうやって選べるんですよ。なんでも。だから選んで、自分でいいものを取るべきなんです。その知識がないんです。親が持ってない。だから子どもに伝えられない。こんなの食べちゃダメだよなんて、なかなか言えないです。」
「(食事は)健康を維持するためなんですけど、命をつなぐためなんですけど、もう一つ、食事をして満足するっていうの、すごく大事なんです、心が。」
「もっと深く掘っていくと、人間って何だ、と。」
「うちは何百店舗ある自慢」の勘違い
ー大組織になればなるほど「効率化」ですね。(働く)人がいないから、飲食店の持ち帰りも、本当は、生ものはダメで、これはよくって、これはダメで・・・とかやってると、面倒臭いじゃないですか。だから一律やめちゃった方がラク。
丸岡:「組織が大きくなればなるほど、そのマニュアルっていうのは、こういう風にしなさいっていうのが必要になってくるんです。」
ーちゃんとやろうとすると、大きくはできない。
丸岡:「できないですね。」
「それを勘違いしちゃって、うちは何十店舗、何百店舗あるんだって。従業員も、それを誇りに思う。うちは何百店舗。」
「やらなきゃダメなこといっぱいあるのかな。だから120(歳)まで生きるぞって。」
ー120!ありがとうございました!
<取材を終えて>
「食料品は少量生産に戻るべき」という言葉が最も印象に残った。「工業生産と同じに考えている」という言葉は、食品ロスを専門分野にしている大学教授2名からも聞いていた。自然からとれる食べ物が、大きさがバラバラでも当たり前だし、自然の状況によってとれないときもあって当たり前。それを「いつでも同じだけ同じ大きさのがとれる」と、売る側も買う側も勘違いしてしまっているふしがないだろうか。
取材を重ねれば重ねるほど、自然の摂理に従って食べ物を扱い、働く人に敬意を抱き、まっとうな商売をしている店舗は、どこも小規模だ、という思いが募る。そんな店があちこちにある方が、きっと無駄も少ないし、働く人も買う人も幸せなのではないか。
取材日: 2018年8月8日
取材場所:スーパーまるおか(群馬県高崎市)