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埼玉、千葉にはない「敬老パス」。その使い勝手からみえてきた70歳以上が住みやすい街は

櫻井幸雄住宅評論家
「敬老パス」の使い勝手がよいこの駅には、シニアにやさしい別の要素もある。(写真:アフロ)

 若い方はご存じないかもしれないが、70歳を超えると、公共交通機関で利用できる敬老パス(東京都はシルバーパス)を発行してくれる自治体がある。無料で乗れるわけではないが、所得に応じた負担金で、一定期間、バスや地下鉄が乗り放題となるICカードを発行してくれるものだ。

 東京都のシルバーパスは1年間2万510円(住民税非課税世帯などは1000円)で発行され、都営地下鉄と都営バス、民営バス、そして都電と日暮里・舎人ライナーが乗り放題となる。

 2万510円は、結構高いと思うかもしれない。が、都内全域をカバーし、都心部は4本の都営地下鉄(都営大江戸線、都営新宿線、都営三田線、都営浅草線)と、豊富なバス路線を利用できるので、使い勝手がよい。「2万円くらい、すぐに元が取れる」と都心在住の高齢者が話していた。

 かくいう私は横浜市在住で、この3月にめでたく敬老パス(正式名称は横浜市敬老特別乗車券)を入手できた。横浜市の敬老パスは、横浜市内限定だ。

私が取得した敬老パス。ゴールドの帯があり、ゴールド免許証のような演出がある。もうゴールド免許証が交付されない70歳以上には、ちょっとうれしい。筆者撮影
私が取得した敬老パス。ゴールドの帯があり、ゴールド免許証のような演出がある。もうゴールド免許証が交付されない70歳以上には、ちょっとうれしい。筆者撮影

 横浜市の敬老パスは、個人の所得状況などによって利用者負担額が異なり、年間の合計所得額が150万円以上250万円未満で市民税課税の人は、1年間8000円。合計所得が250万円以上500万円未満でも1年間9000円なので、負担は小さい。

 東京都よりだいぶ安いのは、利用可能範囲が横浜市内に限られ(神奈川県内全域ではない)、利用できる交通機関が東京都より少ないからだろう。それでも、横浜市には市営地下鉄のブルーラインとグリーンラインがあり、金沢シーサイドラインも利用できる。バス路線も豊富なので、敬老パスだけで動ける範囲はかなり広い。

 私の場合、JRや私鉄を使わずにバスと横浜市営地下鉄だけで目的地まで到達しようとすると、かなりの迂回コースを取らなければならないケースが多く、迂回することで所要時間は倍くらいになる。

 それでも、いずれ時間を持て余す生活になったら、暇つぶしにちょうどよいのではないかと考えている。シニア、それも年金生活の70歳以上になると、物事の捉え方が変わるのだ。

 してみると、使い勝手が非常によく、年間2万510円の東京都のシルバーパスより、多少使い勝手が劣っても年間8000円とか9000円の横浜市の「敬老パス」のほうが、自分には好ましいというシニアは多いのではないだろうか。

 そもそも行政が敬老パスを発行するのには「70歳以上の外出を促す」目的もある。お金はないし、免許も返上したが、時間はあるという70歳以上にとって、時間はかかるが交通費は節約できる「敬老パス」はありがたい。

 実際、横浜市内のバスに乗ると、通勤、通学で乗車する人が一気に減る昼間の時間帯は乗客の半数以上が敬老パス利用者という印象。「70歳以上の外出を促す」効果は実際に出ているわけだ。

敬老パスで迂回ルートなしで生活しやすい駅は

 迂回ルートでの長い乗車中、横浜市内で敬老パスを使って生活しやすいのはどこかを考えたら、2つの駅名が浮かんだ。横浜市都筑区に位置する港北ニュータウンのセンター南駅とセンター北駅だ。この2駅は、横浜市営地下鉄のブルーラインとグリーンラインの2路線を利用できる。ブルーラインを使えば、新幹線に乗り換えできる新横浜駅まで10分程度。新幹線の各種シニア割引で旅行に行きやすい。

 さらに、ブルーラインは横浜駅にもつながっており、横浜駅からバスを利用すれば、行動範囲は大きく広がる。

 グリーンラインで中山駅まで行けば、バスで横浜動物園「ズーラシア」に行くことができる。散歩コースとして最適なズーラシアの年間パスポートは横浜動物園・金沢動物園共通利用でき2000円(一般入園料は1回800円)だ。

 敬老パスの年間負担金が8000円の人は動物園の年間パスポートと合わせて1万円ポッキリである。若い頃から「ポッキリ」の客寄せ看板に弱いシニアにはうれしい設定ではないか。

 センター南駅もセンター北駅も駅前に広いロータリーがあり、バス路線が豊富。さらに、駅から段差なしで移動でき、歩行者専用通路の範囲が広いのだが、より広いのはセンター南駅のほうだろう(冒頭の写真は、センター南駅の歩行者専用通路)。駅の近くに都筑区役所と都筑郵便局があるし、「ロピア」や「オリンピック」といった財布にやさしいスーパーマーケットもある。

 加えて、昭和大学横浜市北部病院という地域の中心となる大病院があるのも、シニアにとって好ましい点だ。

 というのも、シニアになれば、自分が通院する機会が増える。通院しながら、他の科で診てもらうことが生じたりするので、総合病院のほうがなにかと便利だ。さらに、配偶者が入院したとき、毎日のように見舞いにゆく病院は近いにこしたことはない。

 以上、敬老パスでフットワークがよくなること、生活利便施設が駅周辺に集まって歩行者専用通路が広いこと、そして大きな総合病院があることの3つが、「シニアになったら、横浜市のセンター南駅が暮らしやすい」と判定される理由である。

敬老パスを発行してくれる自治体は少ない

 ちなみに、敬老パス(シルバーパス)があるのは、全国で20ある政令指定都市のうち15ほどとされている。

 横浜市の隣、川崎市にも敬老パス(名称は高齢者フリーパス)がある。こちらは1カ月1000円の負担金で、記名式のSuica、PASMOに高齢者特別乗車証を登録する方式だ。

 一方で、政令指定都市である千葉市とさいたま市には残念ながら「敬老パス」の制度がない。千葉市の場合、駅から離れた旧・公団(現・UR)住宅が多いので、敬老パスのような制度があれば、助かる人が多いと思われる。

 逆に制度がない現在は、それがネックになって、UR賃貸に入居する高齢者が減るかもしれない。

 バス利用のUR賃貸がかかえる問題のひとつだろう。

 利用者に喜ばれている敬老パスだが、横浜市は、現在、運用の見直しを行っている。それは想像される以上に利用者が多くなったから。1日に何回(何十回?)も敬老パスで乗車する人がいて、市やバス会社の負担が大きくなっているからとされる。今後は、料金を上げる、もしくは年間利用回数を制限するなど方策がとられる見通しだ。

 横浜市敬老パス愛好者としては、回数制限を設けて負担金は変えずにいてほしいと、切に願うところである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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