最新の観測でビッグバンはなかったと話題に?実際はどうなのか
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ビッグバン宇宙論否定説が再熱、その真相とは」というテーマで動画をお送りしていきます。
●ビッグバン宇宙論と定常宇宙論
現在、この宇宙の姿を説明する理論としては、「ビッグバン宇宙論」が主流となっています。
ビッグバン宇宙論では、現在の宇宙は膨張していると解釈されています。
そして膨張しているからには、この宇宙には始まりがあったとされ、終焉も訪れると考えられています。
始まりの瞬間、この宇宙は超高温・超高密度の火の玉(ビッグバン)の状態でした。
ビッグバンと対立する概念として、この宇宙は膨張しておらず、終わりも始まりもない永遠不変のものであるとする、「定常宇宙論」があります。
20世紀半ば頃まではこの定常宇宙論の方が定説でした。
ですが後述する様々な観測事実から、現在ではビッグバン宇宙論が定説となっています。
そして現在大活躍中の最新最強の「ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が撮影した深宇宙の観測から、ビッグバン宇宙論が間違いであるとする結果が得られたと一部の界隈で話題になっているようです。
結論から言うと確かにJWSTの観測により、既存の宇宙論では説明できない結果が得られたのは事実です。
ただしこれはビッグバン宇宙論を否定するものではありません。
今回は最新のニュースを交えつつ、ビッグバン宇宙論と定常宇宙論のそれぞれの立場を整理していきたいと思います。
●定常宇宙論派の主な主張
○疲れた光仮説
遠方の天体からやってきた光の波長ごとの強度(スペクトル)を調べると、地球から遠い天体からの光ほど波長が伸びていることがわかっています。
これは「赤方偏移」と呼ばれる現象です。
ビッグバン宇宙論においては、赤方偏移は「宇宙膨張」によるものであると解釈しています。
地球に届くまでの過程で、空間の膨張の影響を受けた光はその波長が伸びてしまう、というわけです。
一方定常宇宙論派は、赤方偏移を「光が宇宙を旅する過程で他の何かと作用し、エネルギーが減衰した結果」であると解釈しています。
このように遠方から来た光はエネルギーが減衰しているという仮説を「疲れた光仮説」と呼びます。
疲れた光仮説が正しい場合、宇宙が膨張していなくても赤方偏移を説明できるため、これは定常宇宙論と矛盾しません。
この疲れた光仮説が正しいとするのが定常宇宙論派の主な主張となります。
○最新のJWSTの観測結果
JWSTが本格的な科学観測を開始してから最初に公開されたこちらの画像は、「SMACS 0723」と呼ばれる銀河団が存在する領域を撮影したものです。
以前にもハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影したことがある領域です。
ノッティンガム大学などの研究チームは、JWSTの極めて高い観測性能により、HSTでは理解できなかったこの領域に存在する銀河の詳細な形状を調べました。
その結果、遠方の宇宙において、天の川銀河やアンドロメダ銀河のように円盤状の形をした「円盤銀河」が従来の予想の実に10倍も高い割合で存在していたことが判明しました。
円盤銀河は特に地球から近傍の宇宙に多くみられており、形状に統一性がなく小さい「矮小銀河」が多数の衝突を繰り返すことで、徐々に銀河が成長して形成されるものであると従来の宇宙論では考えられてきました。
ですがJWSTによる最新の観測では、この定説を覆す驚くべき結果が得られています。
これを発表した論文でも、タイトルに「Panic!」という単語が含まれているほどです。
そんなJWSTの観測結果が拡大解釈され、「ビッグバン宇宙論は間違いだった」と話題になっているという現状です。
●ビッグバン宇宙論を裏付ける観測事実
定常宇宙論派に対し、ビッグバン宇宙論派の主張は様々な観測事実に裏付けられています。
観測事実はいくつもありますが、ここでは「遠方の銀河の表面輝度」と「宇宙背景放射」の2つを掘り下げます。
○遠方の銀河の表面輝度
仮に宇宙が膨張しておらず定常の場合、地球から見た天体の見た目の大きさも、見た目の明るさも、どちらも地球からの距離の2乗に反比例します。
ある天体が本来の大きさや明るさをそのままに、地球から元の2倍離れた場合、見た目の大きさも明るさも4分の1になり、元の3倍離れた場合どちらも9分の1になります。
つまりある天体の単位面積当たりの明るさ(表面輝度)は、宇宙が定常である場合、距離に寄らず常に一定ということになります。
一方、宇宙が膨張している場合、宇宙膨張による赤方偏移や、天体そのものが遠ざかっていることなど、様々な効果によって単位面積当たりの明るさは距離が遠いほど暗くなります。
そして実際の観測結果から、遠方の天体ほど単位面積当たりの明るさが暗くなっていることがわかっています。
これは疲れた光仮説では説明できず、ビッグバン宇宙論を支持する観測事実の一つです。
○宇宙背景放射
宇宙マイクロ波背景放射、または単に宇宙背景放射とは、全方向からほぼ等しい強度でやってくる電波(マイクロ波)です。
まだ定常宇宙論の支持派も多かったころ、宇宙背景放射は理論的に存在が予言されていました。
そんな中発見された背景放射は、予言されていたものと非常に高い精度で性質が一致していました。
宇宙背景放射が検出されて以降、ビッグバン宇宙論は定説としての立場を確立していったとされています。
背景放射はビッグバン宇宙論を裏付ける最も強い観測的事実であるとも言われています。
宇宙背景放射は、この宇宙がかつて超高温の状態であったことの名残です。
そんな宇宙が膨張して現在のような広大で冷たいものに進化したと考えるほか、背景放射の存在を説明できる理論は存在しません。
○JWSTの最新の観測結果の解釈
そしてビッグバン宇宙論が間違っているという主張の根拠として扱われている「JWSTの最新観測結果」ですが、実際はこれも依然としてビッグバン宇宙論を支持し続けています。
初期宇宙においては、現代と比べて銀河の大きさの平均が非常に小さいことがわかっています。
これは過去に銀河が存在しない状態から、徐々に形成されていったとするビッグバン宇宙論の主張と矛盾しません。
確かにJWSTの観測により、宇宙のかなり初期から形の整った円盤銀河が多数存在していたことはわかっていますが、これで銀河形成のメカニズムなどの理解が覆ることがあっても、ビッグバン自体が否定されることはありません。
ということで今回はJWSTによる最新のニュースを交えつつ、ビッグバン宇宙論と定常宇宙論の主張についてまとめました。