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データで比較する大谷と現役メジャー最高打者

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
メジャーを代表する打者のトラウト(左)、ハーパー(右)と大谷(三尾圭撮影)

 大谷と現役メジャー最高投手を比較する記事が好評だったので、今度は打者・大谷と現役メジャー最高打者を比べてみたい。

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 現役メジャー最高投手は30歳のクレイトン・カーショウ(ドジャース)と33歳のマックス・シャーザー(ナショナルズ)だったが、30代の投手とは異なりメジャー最高打者の称号は20代の選手に与えたい。今回、大谷と比較する2人の打者はエンゼルスのチームメートのマイク・トラウトと、シャーザーの同僚のブライス・ハーパーだ。

【基本データ】

◎大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)…193センチ、92キロ。23歳。メジャー1年目。右投げ左打ち。指名打者

◎マイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)…188センチ、107キロ。26歳。メジャー8年目。右投げ右打ち。中堅手

◎ブライス・ハーパー(ワシントン・ナショナルズ)…191センチ、100キロ。25歳。メジャー7年目。右投げ左打ち。右翼手

 投手編でも指摘したが、ここでも大谷の身体の線の細さが目立つが、160キロの速球を投げ、140メートルのホームランを放つパワーを持っているので、この体重が大谷には最適なのかもしれない。

 野球選手と言うよりは、アメリカンフットボール選手のような筋肉隆々の身体を誇るトラウトは、大谷より5センチ身長は低いが、15キロも体重が重い。トラウトのような強靭な肉体を持つ選手はメジャーの中でも特別な存在なので、比較するのはフェアではない。それでもこの先、大谷がどこまで身体を大きくするのかは気になる。

NFL選手のような鍛えられた体と桁外れに高い身体能力を誇るマイク・トラウト(三尾圭撮影)
NFL選手のような鍛えられた体と桁外れに高い身体能力を誇るマイク・トラウト(三尾圭撮影)

【年俸】

◎大谷…54万5000ドル(約5886万円)。

◎トラウト…3325万ドル(約35億9100万円)。6年総額1億4450万ドル(約156億円)(2015~20年)。

◎ハーパー…2163万ドル(約23億3604円)。

 トラウトの契約は今年から年俸が大きく跳ね上がり、昨季の1925万ドルから今季はメジャーの打者最高となる3325万ドルまで昇給した。

 トラウトの年俸推移を見ると、今後の大谷の年俸がどのように上がっていくのかの参考になる。2009年のドラフト1巡目全体25位でエンゼルスに入団したトラウトの契約金は122万ドルで、マイナー契約を結んだ。2011年7月にメジャーへ初昇格した時はメジャー最低年俸。12年には新人王に選ばれたが、この年もメジャー最低年俸で、今年の大谷と同じように低年俸ながらMVP級の活躍を見せた。それでも13年もメジャー最低年俸。メジャーリーグでは実働3年目を過ぎると年俸調停の権利を手にできるが、トラウトの1年目はシーズン途中からの昇格だったために、14年オフまで調停資格がなかった。エンゼルスは14年開幕前に、15年シーズンから始まる6年契約を提示。15年は525万ドルだったが、16年は1525万ドルと3倍増、18年から20年までの3年間は年間3325万ドルを手にできる。

 トラウトの契約を参考にすると、大谷は来季もメジャー最低年俸で、3年目は100万ドル程度。だが、3年目のシーズンが始まる前に6年1億5000万ドル以上の契約を提示されそうだ。もし、大谷がこの契約を拒否すると、3年目から6年目までは年俸調停となり、6年目のシーズンが終わると、フリーエージェントの資格を与えられる。

 高校1年生終了時に高校卒業資格を取得して、17歳で2年制の短期大学に進学したハーパーは2010年のドラフトでナショナルズから全体1位指名を受けたが、代理人のスコット・ボラスが625万ドルの契約金を含む5年総額990万ドルのメジャー契約を引き出した。ハーパーもメジャー1年目は4月28日にメジャーデビューを飾ったために、メジャー登録日数の関係からフリーエージェント資格を得るが1年遅れて、メジャー7年目の今季終了後にフリーエージェントとなる。この冬はハーパー争奪戦が繰り広げられる。ボラスは12年総額5億ドルの超破格の大型契約を狙っていると噂されるが、そこまで出せる球団はなくとも、4億ドルはあり得るかもしれないし、メジャー初の年俸4000万ドル選手となるだろう。

このオフは史上最高額となる500億円超えの大型契約を狙うブライス・ハーパー(三尾圭撮影)
このオフは史上最高額となる500億円超えの大型契約を狙うブライス・ハーパー(三尾圭撮影)

【実績】

◎大谷…メジャーでの実績なし。NPBではMVP1度(2016年)、オールスター戦MVP1度(2016年)。

◎トラウト…MVP2度(2014、16年)、新人王(2012年)、オールスター戦MVP2度(2014、15年)、打点王1度(2014年)、盗塁王1度(2012年)。

◎ハーパー…MVP1度(2015年)、新人王(2012年)、本塁打王1度(2015年)、得点王1度(2015年)。

 3選手ともに20代前半でMVPに選ばれたが、大谷は投手での活躍も加味してのもので、純粋な打者としての実績は22本塁打を放った2016年に指名打者部門で選ばれたベストナインくらい。

 トラウトは2度のMVPに加えて、MVP投票2位も3度ある。ハーパーはトラウトほどの安定感はないが、打率.330、42本塁打でMVPに選ばれた2015年は史上最年少の23歳で満票を獲得した。

MVPに2回輝いただけでなく、投票2位が3回もあるトラウトは26歳にしてメジャー最強打者の称号を得る(三尾圭撮影)
MVPに2回輝いただけでなく、投票2位が3回もあるトラウトは26歳にしてメジャー最強打者の称号を得る(三尾圭撮影)

【昨季までの通算成績】

◎大谷…NPBで5年間、403試合、1035打数、296安打、48本塁打、166打点、150得点、13盗塁、打率.286、出塁率.358、長打率.500、OPS.859。

◎トラウト…7年間、925試合、3399打数、1040安打、201本塁打、569打点、692得点、165盗塁、打率.306、出塁率.410、長打率.566、OPS.976。

◎ハーパー…6年間、768試合、2756打数、785安打、150本塁打、421打点、507得点、62盗塁、打率.285、出塁率.386、長打率.515、OPS.902。

 トラウトはホームランを打てるだけでなく、打率も残せる万能タイプ。選球眼にも優れており、2016、17年と2年続けて出塁率がリーグ1位だった。二刀流の大谷は規定打席に達したことがないので、成績自体は物足りないが、単純な成績では表せない魅力の持ち主。豪快なホームランを打つイメージの強いハーパーだが、実は年間30本塁打以上を記録したのは、42本を打って本塁打王に輝いた2015年の1回だけ。

ホームラン打者のイメージが強いハーパーだが、年間30本以上は1度だけ(三尾圭撮影)
ホームラン打者のイメージが強いハーパーだが、年間30本以上は1度だけ(三尾圭撮影)

【今季成績(4月25日時点)】

◎大谷…11試合、42打数、14安打、3本塁打、11打点、5得点、0盗塁、打率.333、出塁率.378、長打率.619、OPS.997。

◎トラウト…24試合、91打数、28安打、10本塁打、18打点、20得点、5盗塁、打率.308、出塁率.418、長打率.692、OPS1.110。

◎ハーパー…24試合、74打数、19安打、8本塁打、19打点、20得点、2盗塁、打率.257、出塁率.454、長打率.595、OPS1.048。

 トラウトとハーパーは各リーグで本塁打1位。出塁率と長打率を足したOPSが1を超えているのは流石だが、一流の目安と言われる9割を超えている大谷も負けてはいない。ハーパーは打率.257と低迷しているが、3つの敬遠を含む30四球を選んでいるために、出塁率ではトラウトをも上回っている。

 三振率(三振数/打席数)を見てみると、振り回すイメージの強いハーパーが13.9%で最も少なく、トラウトは19.1%、3人の中では26.7%の大谷が最も三振率が高い。

 メジャーでは長打力を計るのに長打率以外にも、長打率から打率を差し引いたISOという数字も使われる。今季ここまでの3選手のISOは、トラウトは.385、ハーパーが.338、大谷は.286。ISOは.250を超えると一流選手と言われており、トラウトとハーパーは超人的な数字だ。

 大谷は打席数が少ないので、本塁打や打点など積算する記録では不利だが、打率や長打率のように率を求める記録だと一流の数字を残している。その大谷を軽々と上回る率を記録しているトラウトとハーパーは人間離れしている。

自身3度目のMVPに向けて邁進するマイク・トラウト(三尾圭撮影)
自身3度目のMVPに向けて邁進するマイク・トラウト(三尾圭撮影)

【打球の初速】

◎大谷…平均95.1マイル(152.2キロ)(メジャー10位)、最速112.8マイル(180.5キロ)(メジャー52位)。

◎トラウト…平均92.1マイル(147.4キロ)(メジャー39位)、最速111.8マイル(178.9キロ)(メジャー73位)。

◎ハーパー…平均91.0マイル(145.6キロ)(メジャー68位)、最速111.5マイル(178.4キロ)(メジャー85位)。

 打球がバットから離れる瞬間の速度(打球の初速)が速くなるほどに、ヒットになる確率が高まることはデータで示されている。

 バットスイングが早ければ早いほど打球速度は上がるが、意外なことに平均打球初速でメジャーでトップ10にランクインしたのは3人の中で大谷だけ。大谷は毎打席でフルスイングしていることが分かる。メジャー1位はブルージェイズの控え外野手、テオスカー・ヘルナンデスの97.1マイル(155.4キロ)。レギュラークラスだとハーパーのチームメート、ライアン・ジマーマンの96.3マイル(154.1キロ)が続く。

 今季、打球初速が最速なのはヤンキースのジャンカルロ・スタントンが叩き出した117.9マイル(188.64キロ)だが、スタントンの平均は94.5マイル(151.2キロ)で、大谷より遅い。メジャーでは打球速度が95マイル(152キロ)を超えると「ハードヒット」と呼ばれるが、ハードヒットが全打球の5割以上を占める打者はメジャー全体で33人しかいない。大谷は56.7%がハードヒットで、これはメジャー12位にランクする。(トラウトは46.5%、ハーパーは46.0%)

メジャー・トップクラスの打球初速度を誇る大谷翔平(三尾圭撮影)
メジャー・トップクラスの打球初速度を誇る大谷翔平(三尾圭撮影)

【打球飛距離】

◎大谷…平均160フィート(48.8メートル)(メジャー184位)、最長449フィート(136.9メートル)(メジャー11位)。

◎トラウト…平均230フィート(70.1メートル)(メジャー5位)、最長441フィート(134.4メートル)(メジャー21位)。

◎ハーパー…平均173フィート(52.7メートル)(メジャー138位)、最長425フィート(129.5メートル)(メジャー72位)。

 平均打球飛距離は、ヒット、アウトに関係なく打球がどれだけ飛んだかを計るが、イチローのように内野安打が多いと記録は伸びないので、打者の能力を計るものではないが、打者のタイプは分かる。近年、メジャーではフライボール革命という打撃理論が流行っており、ゴロよりもフライを狙って打つ打者が増えている。打球のゴロ・フライ比率を見てみると、大谷は1.00でゴロとフライの数が均等、0.42のトラウトはフライボール打者、ハーパーは0.80でややフライが多いが、平均飛距離はその通りの結果が出た。ちなみに、250フィート(76.2メートル)で平均飛距離がメジャー1位だったのは、「ベルトの21球」で紹介したジャイアンツのブランドン・ベルトだった。

 ここで注目したいのは平均距離ではなく、最長距離。力自慢が多いメジャーの中で、どれだけ打球を飛ばせるかを見てみたい。

 両リーグのホームラン・リーダーよりも大谷の方が打球を飛ばしていることからも、大谷が真のスラッガーであることが分かる。打撃練習でもトラウトより飛ばしており、ファンは今年のオールスターのホームラン競争に大谷が参加することを望んでいる。

全米のファンは大谷翔平が球宴の本塁打競争に出ることを望んでいる(三尾圭撮影)
全米のファンは大谷翔平が球宴の本塁打競争に出ることを望んでいる(三尾圭撮影)

【バレル】

◎大谷…打球のバレル率10.0%(メジャー94位)、打席数のバレル率6.7%(メジャー95位)。

◎トラウト…打球のバレル率16.9%(メジャー22位)、打席数のバレル率10.9%(メジャー23位)。

◎ハーパー…打球のバレル率14.3%(メジャー40位)、打席数のバレル率8.3%(メジャー58位)。

 バレルとは聞き慣れない言葉だが、分かりやすく言うと「バットの芯で打球を捉えること」。

 スタットキャストの導入で開発された新しい指標で、打球の初速と打球角度を基に算出している。打球がヒットになる確率が5割を超え、なおかつ長打率が1.5以上になるものをバレルと呼ぶ。バレルと認められるためには、打球の初速が98マイル以上でなければならない。98マイルの場合は、打球角度が26度から30度の間だとバレルとなる。99マイルだと25度から31度、100マイルは24度から33度という感じで、打球の初速が速くなるとバレル認定角度も広がっていく。

 バレルを記録するためには、スウィングスピードの速さだけでなく、ボールを正確に捉える技術も問われてくる。メジャー屈指の打球速度を誇る大谷だが、バレル率はトラウトとハーパーに大きく劣ってしまった。

大谷翔平が打者として1つ上のレベルに上がるにはバットの芯でボールを捉える技術を磨きたい(三尾圭撮影)
大谷翔平が打者として1つ上のレベルに上がるにはバットの芯でボールを捉える技術を磨きたい(三尾圭撮影)

 メジャーが誇る2人の若手スラッガー、トラウトとハーパーをも凌駕するパワーを誇る大谷は観客を夢中にさせる天性のスラッガーだ。

 純粋なパワーではトラウトとハーパーの方が確実に上だが、それでも大谷が打球の飛距離で負けないのは、ピッチング同様にバッティングでも身体をうまく使って、効果的に力を使えているから。

 投手編でも触れたが、大谷は修正能力が非常に高い。サイ・ヤング賞に2度輝いたコーリー・クルーバーから本塁打を放ったときも、今季の防御率が驚異の0.35を誇るジョニー・クエイトから安打を放った試合も、前の打席で三振に倒れたときに攻略のヒントを得ていたはずだ。

 クルーバーには1打席目は外角ギリギリのフォーシームを見逃して三振。2打席目はそのフォーシームを見事に捉えてホームランとした。

 クエイトとの対決では1打席目はフォーシームの後のチェンジアップにタイミングを狂わされて空振り三振。2打席目は3球続いたチェンジアップにまたしても空振り三振。だが、ここでチェンジアップをよく見たことが、第3打席に繋がり、チェンジアップを片手で捉えて右前安打を放った。

防御率0.35のジョニー・クエイトのチェンジアップを片手で捉えて安打を放つ大谷翔平(三尾圭撮影)
防御率0.35のジョニー・クエイトのチェンジアップを片手で捉えて安打を放つ大谷翔平(三尾圭撮影)

 野球への取り組みが真面目で研究熱心なだけに、シーズンが進むにつれ成績も向上しそうだ。

 打球の初速と飛距離はメジャーでもトップクラスなだけに、今後は正確性を身に付けることができれば、打者としてさらに成長していくだろう。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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