データで比較する大谷と現役メジャー最高投手
今週末はロサンゼルスをホームにするメジャーリーグの2チームが本拠地で試合をしている。エンゼルスはジャイアンツとのインターリーグ戦を戦い、ドジャースは今秋のプレーオフでの激突が予想されるナショナルズを迎えている。
4月20日(日本時間21日)、ほとんどの日本人報道陣がエンゼルスの試合に行っている中、私はドジャースの試合に向かった。ドジャー・スタジアムではクレイトン・カーショウとマックス・シャーザー――現役メジャー最高の右投手と左腕――と言う極上の先発対決を撮るためだ。
この2人の投球を撮りながら、彼らと大谷の差がどれだけ開いているのかを考えていた。データを見ながら、3投手の実力を見ていきたい。
【基本データ】
◎大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)…193センチ、92キロ。23歳。メジャー1年目。右投げ。
◎クレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース)…193センチ、104キロ。30歳。メジャー11年目。左投げ。
◎マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)…191センチ、98キロ。33歳。メジャー11年目。右投げ。
大谷とカーショウの身長は同じで、シャーザーもほとんど変わらないが、体重には差がある。メジャーには大きな投手ほど成功する可能性が高いとの通説がある。2人に比べると、大谷は身体の線の細さが目立ち、今後は耐久性を証明していく必要がある。シャーザーはメジャー2年目から昨季まで9年連続で30先発以上しているし、カーショウは2016年に背中の痛みで60日間の故障者リスト入りしたことはあるが、肩や腕の故障歴はない。
【年俸】
◎大谷…54万5000ドル(約5886万円)。
◎カーショウ…3557万ドル(約38億4156万円)。7年総額2億1500万ドル(約232億円)(2014~20年)。
◎シャーザー…2214万ドル(約23億9112万円)、7年総額2億1000万ドル(約227億円)(2015~21年)。
カーショウの今季年俸3557万ドルはメジャー最高年俸。2013年オフに結んだ2億1500万ドルの契約は、14年の時点では投手として最高の大型契約で、現在でも2015年オフにデビッド・プライスがレッドソックスから得た7年総額2億1700万ドルに次ぐ2番目。シャーザーの契約は来季から年俸が跳ね上がり、来季はカーショウの3457万ドルを超える3741万ドルを手にする。
昨オフにエンゼルスと230万ドルの契約金でマイナー契約を結んだ大谷は、メジャー最低年俸しか手にしてない。その際にファイターズには2000万ドルのポスティングフィーが支払われている。ちなみに2017年の年俸は2億7000万円だった。
高校を卒業した2006年のドラフトでドジャースから1巡目全体7位指名を受けて入団したカーショウの契約金は大谷と同じ230万ドル。メジャーデビューを果たした2008年から11年までの4年間の年俸は50万ドル以下でしかなく、12年に750万ドルまで急上昇した。
シャーザーの場合は高校を卒業した2003年にカージナルスから43巡目全体1291位で指名されたが、入団を拒否してミズーリ大学に進学。2006年のドラフトでダイヤモンドバックスから1巡目全体11位で指名されたが、代理人のスコット・ボラスが得意とする戦法に従って独立リーグでプレー。ダイヤモンドバックスからマイナー契約ではなく、4年総額430万ドルのメジャー契約を引き出して入団した。
仮に今季、カーショウが30試合に先発したとして、カーショウが1試合で手にする額は大谷の年俸の2倍となる。
【実績】
◎大谷…メジャーでの実績なし。NPBではMVP1度(2016年)、最多勝1度(2015年)、最優秀防御率1度(2015年)。
◎カーショウ…MVP1度(2014年)、サイ・ヤング賞3度(2011、13、14年)、最多勝3度(2011、14、17年)、最優秀防御率5度(2011、12、13、14、17年)、最多奪三振3度(2011、13、15年)、ノーヒットノーラン1度(2014年)。
◎シャーザー…サイ・ヤング賞3度(2013、16、17年)、最多勝3度(2013、14、16年)、最多奪三振2度(2016、17年)、ノーヒットノーラン2度(2015年)。
カーショウとシャーザーの実績を見れば、なぜ2人がメジャー最強投手なのかは一目瞭然。サイ・ヤング賞を3度も獲得しているのは現役ではカーショウとシャーザーだけで、受賞回数は歴代5位タイ。シャーザーはメジャー6年目の両リーグでサイ・ヤング賞受賞者で、カーショウは3度獲得しただけでなく投票2位が2度、3位も1度ある。
【昨季までの通算成績】
◎大谷…NPBで5年間、85試合、42勝15敗、543投球回数、624奪三振(奪三振率10.3)、与四球200(与四球率3.3)K/BB3.12、防御率2.52、WHIP1.076。
◎カーショウ…292試合、144勝64敗、1935投球回数、2120奪三振(奪三振率9.9)、与四球507(与四球率2.4)、K/BB4.18、防御率2.36、WHIP1.002。
◎シャーザー…305試合、141勝75敗、1897投球回数、2149奪三振(奪三振率10.2)、与四球534(与四球率2.5)、K/BB4.02、防御率3.30、WHIP1.119。
大谷の成績はメジャーでなく日本のプロ野球、しかもカーショウとシャーザーが10年間なのに対して、大谷は5年間と半分なので単純比較はできないが、参考までに昨季までの通算成績を並べてみた。
【今季成績(4月21日時点)】
◎大谷…3試合、2勝1敗、15投球回数、19奪三振(奪三振率11.4)、与四球4(与四球率2.4)K/BB4.75、2被本塁打(被本塁打率1.2)、防御率3.60、WHIP0.800、WAR0.2。
◎カーショウ…5試合、1勝3敗、33投球回数、35奪三振(奪三振率9.5)、与四球3(与四球率0.8)、K/BB11.67、4被本塁打(被本塁打率1.1)、防御率2.45、WHIP0.970、WAR0.8。
◎シャーザー…5試合、4勝1敗、33投球回数、47奪三振(奪三振率12.8)、与四球7(与四球率1.9)、K/BB6.71、2被本塁打(被本塁打率0.5)、防御率1.36、WHIP0.758、WAR1.5。
まだ開幕して3週間しか経っていないのでサンプルサイズは小さいが、それでもある程度の傾向は明らかになっている。二刀流の大谷は中6日で投げているので、中4日登板のカーショウとシャーザーよりも先発が2試合も少なく、投球回数は半分にも満たない。このペースだと25試合程度しか先発できない。メジャーリーグでは30先発して、初めて一人前の先発投手として認められる。奪三振率は二桁を超えており、イニング辺りに許した走者数を表すWHIPは1以下と一流投手に求められる数字は残していて、カーショウ、シャーザーと比べても遜色ない。
カーショウは負けが先行しているが、これは打線の援護に恵まれていないだけで、投球内容は悪くない。
シャーザーは勝利数への貢献度を表すWARが、早くも1.5と高水準で、これはナショナル・リーグで1位、メジャー全体でもマイク・トラウト(エンゼルス)とジェド・ラウリー(アスレチックス)の1.7に次ぐ3位だ。
【速球】
◎大谷…47.4%、平均97.2マイル
◎カーショウ…41.5%、平均91.1マイル
◎シャーザー…50.7%、平均93.7マイル
大谷の速球の速さが際立つが、球が速いだけではメジャーで成功できない。メジャーの平均速球は93マイルと言われており、シャーザーはほぼ平均、カーショウの速球は平均以下でしかない。それでも彼らが成功できるのは、回転数の多いキレがある速球を投げるからだ。
フォーシームのメジャー平均回転数は2226rpm(分速2226回転)。大谷のフォーシームは2193rpmで、メジャー有数のスピードを誇るのに回転数は平均を下回っている。対照的なのがシャーザーで、球速は平均的ながらも、回転数は2500を超える。シャーザーは92マイル前後の速球が多いが、ここぞというときには98マイルまでアップして三振を奪う。
大谷がシャーザー並の回転数を身に付けることができれば、打者が手を出せない魔球となるだろう。
【スライダー】
◎大谷…21.7%、平均82.0マイル
◎カーショウ…40.6%、平均87.7マイル
◎シャーザー…11.7%、平均85.0マイル
カーショウの高速スライダーは打者の手元で鋭く変化するので、バッターが捉えるのが難しい。投球全体の4割がスライダーで、生命線とも呼べる球だ。速球との球速差が少ないので、打者は見分けるのに苦労している。カーショウのスライダーはメジャーでもトップレベルだが、大谷のスライダーもその域に近づいている。
【カーブ】
◎大谷…2.4%、平均73.5マイル
◎カーショウ…16.8%、平均73.2マイル
◎シャーザー…7.1%、平均78.0マイル
カーショウと言えば、大きく縦に落ちるカーブが代名詞だったが、投球比率は年々減っており、今年は16.8%しか投げていない。大谷のカーブも変化は大きいが、メジャーではほとんど投げていない。シャーザーは変化の幅を自由に操り、カーブでストライクを奪える。
【その他】
◎大谷(スプリッター)…28.5%、平均87.5マイル
◎カーショウ(チェンジアップ)…1.1%、平均85.4マイル
◎シャーザー(カッター)…15.5%、平均88.1マイル
◎シャーザー(チェンジアップ)…15.0%、平均83.6マイル
大谷にはスプリッターと言う伝家の宝刀があり、この球でメジャーの打者からも多くの三振を奪っている。シャーザーは7%以上の割合で投げる球種を5つも持っており、打者を錯乱させる。大谷は速球、スライダー、スプリッターの3つの球種しか投げてないので、カーブの割合を増やせれば、打者は狙い玉を絞るのが難しくなってくる。
カーショウは投球動作の途中で一瞬ポーズするので、打者はタイミングが取り難い。加えて、ボールの出所も見にくい。スリークォーターから投げるシャーザーは、全ての球種を同じフォームから投げるので、打者にとって球種の見極めが非常に難しい投手である。アンオーソドックスなフォームで投げる2人に比べ、大谷の投球フォームは綺麗で無駄がない。
カーショウとシャーザーは修正能力が高いので、調子が悪いときでも試合中にアジャストするので抜群の安定感を誇る。大谷の修正能力の高さも、今季初登板で証明済みで、カーショウとシャーザーに近いレベルにあると感じた。
2人のように先発登板数やイニング数が多くないので、1年目からサイ・ヤング賞を取るのは難しいが、能力的にはメジャー最高の投手にも引けを取らないものを持っている。