「僕たちは若くもイケメンでもない」 BTSのRMが「神」と呼ぶTABLOに単独インタビュー
BTSのRMが「ゴッド(神)」と慕う人がいる。「ゴッド・ブロに贈っていただきました」とRMがTwitterに投稿した写真。愛おしそうに抱きしめているのは、『BLONOTE』という本だ。
(デビュー3年目のRM。左の写真にはTABLOの「toナムジュン 疲れたときに少しでも力になれば」というメッセージが書かれている)
2016年に韓国で発売されて以来、ロングセラーに。日本でも今年3月に出版された本書の著者は、3人組ヒップホップグループEPIK HIGHのリーダー、ゴッド・ブロことTABLO(タブロ)だ。
BTSをはじめ若者に人気のR&Bシンガー・DEANなど多くのアーティストがリスペクトを公言する、韓国音楽界のフロントランナー。PSYの最新アルバムでのコラボでも注目を浴びる彼に、BTSとの交流や、音楽の原点、そして言葉を紡ぐ原動力について聞いた。
「RMの予期せぬ投稿がうれしかった」
――出版当時、RMさんがTABLOさんにプレゼントしてもらった本書を大切に持っているツイートが話題になりました。
何人かに本をプレゼントしたんです。RMさんがSNSに載せたのを見て、びっくりしました。まったく予想していなかったので。気に入ってくれて、すごくうれしかったですね。当時は挨拶を交わしたことがあるぐらいで、まだそれほど親しくなかったんです。だからこそ感動しました。
――『BLONOTE』はご自身のラジオ番組「TABLOと夢見るラジオ」の人気コーナーを書籍化したものです。そもそもこのコーナーを設けた背景とは。
ラジオの番組のほとんどは、最後に曲を流してあいさつをして終わります。でも、僕の番組は深夜0時に終了するので、1日を終えるにあたって何かを問いかけ考える時間になれば、と。
すごく仲がいい友だち同士でも「ご飯食べた?」「今日何するの」のような質問をするだけで、相手の心に問いかけたり気づきを与えたりする機会はあまりないですよね。自分に刺激を与えてくれる友だちがずっとほしかったんです。だから、僕が誰かにとって問いを投げかける友のような存在になれたらいいと思いました。
――本を読んで気になったのは、BIGBANGのG-DRAGONさんや映画監督パク・チャヌクさんをはじめ、多くの人がページに書かれた文章を直筆で記していることです。有名な方のサインがあると同時に、一般の人の文字やイラストも載っています。本に盛り込んだ経緯を教えていただけますか。
僕の文章だけをページに記すと単なる個人的な話として受け止める方がいらっしゃるのではないかと思ったんです。他の人たちの文字も載せたら、読者に「TABLO個人のことではなく、読んでいるわたしの話でもあるんだ」と思っていただけるのではないかと。誰にでも当てはまる話だと伝えたかったので、有名な人だけでなく一般の人にも参加してもらいました。
――G-DRAGONさんの手書き文字があるページの言葉は、「天使にとって悪魔は天使でないけど、悪魔にとって天使は悪魔だ」です。
G-DRAGONさんのようなスーパースターは、愛される一方で彼を攻撃する人も多いですよね。スターだけでなく、すべての人が同じだと思います。会社や学校で人気があれば、それをよく思わなかったり、叩いたりする人がいる。G-DRAGONさんが一番共感して豊かに表現してくれると思ったからです。
――TABLOさんご自身が一番気に入っているのはどの文章ですか。
「雨降る空が君に教えてあげたいのは 君だけがそうじゃないってこと」。雨が降る日はさみしいという人もいますが、僕は子どもの時から大好きなんです。雨の日に家で雨が屋根や窓に当たる音を聞くと、屋根があるありがたさを感じるから。屋根や天井があることの大切さを、雨は教えてくれるんです。
EPIK HIGHとして活動を始めたばかりの頃は、すごく狭い部屋に3人で住んでいたこともありました。一生懸命努力してもっと良い場所に住むようになりましたが、いまに至るすべての過程で、雨に打たれることなく暮らせていることに感謝してきました。だから、それを多くの人に伝えたかったんです。
「BTSは僕らの音楽を聴き、僕はBTSの音楽を聴く」
EPIK HIGHのリーダーとして2003年にデビュー。以後、黎明期にあった韓国のヒップホップをけん引してきた。BTSは、デビュー2年目にリリースしたヒップホップへの愛を歌う「Hip Hop Phile」(2014)の歌詞で、自分たちのロールモデルとしてEPIK HIGHの名を挙げている。
――EPIK HIGHの代表曲のひとつが、2005年にリリースした「Fly」です。BTSのSUGAさんは、この曲にインスパイアされ、EPIK HIGHに影響を受けたと明かしています。TABLOさんご自身は、EPIK HIGHはBTSにどんな影響を与えたと思っていますか。
RMさんやSUGAさんとは親しいのですが、「EPIK HIGHの曲を聴きながらアーティストを夢見た」と話してくれました。いまでも、月に1、2回「昔のアルバムを聴いてます」とSNSでメッセージが届きます。「悩んだり心が穏やかでなかったりするときにEPIK HIGHのアルバムを聴く」と。
いまでは僕がBTSの曲を聴いています(笑)。BTSの曲を聴くと、気分がよくなるんです。面白いですよね。BTSは僕らの音楽を聴き、僕はBTSの音楽を聴く(笑)。
彼らは、EPIK HIGHの音楽の影響を受けたと語っていますが、BTSがカッコイイのは、そのインスピレーションから曲を生み出し、多くの人たちに影響を与えているところ。すごく不思議で、感謝しています。
――サウンドや歌詞など、ご自身の音楽のどんなところがBTSに影響を与えたと感じていますか。
歌詞が一番大きいと思います。SUGAさんの場合は、僕の思想をポジティブに受け入れてくれたのではないでしょうか。SUGAさんは、時代をリードする英雄のような雰囲気がありますよね。
対して、RMさんは静かに世の中を変えていく文学少年のようです。EPIK HIGHはその両方のイメージを持っているので、彼らの心に響いたのかもしれません。
――SUGAさんをプロデューサーに迎えて「Eternal Sunshine」(2019)を制作したこともありますが、彼らの曲作りの哲学や歌詞の世界観とTABLOさんの音楽で重なるのはどんなところだと思いますか。
SUGAさんはラッパーとしてだけでなく、プロデューサーとしても非常に秀でています。でも、BTSというグループの存在感があまりにも大きいため、プロデューサーとしての彼の才能はなかなか可視化されません。彼はビートや音楽を作るのがすごく上手いので、SUGAさんと組んだら絶対にいい音楽ができるはずだと思ってタッグを組んだら、本当に素晴らしい曲が生まれました。
SUGAさんは子どもの頃からずっと僕の音楽を聴いていますが、僕たちの世界観に似ているというよりは、いろいろなものにインスパイアされながら非常に広大で神秘的な世界を構築していて、BTSは無限の世界に向かって進んでいるように思えます。
――プライベートでもよくやりとりされているのでしょうか。
はい。今年2月に『Epik High Is Here 下, Pt.2』をリリースした時もRMさんがSNSにキャプチャーしてシェアしてくれました。アルバムが出るたびにそうしてくれるんです。逆にBTSの新作が出ると僕たちがSNSでシェアします。
でも、僕たちがBTSを宣伝するよりも、BTSがEPIK HIGHを宣伝してくれるほうが、一億倍ありがたいですね(笑)。SNSで「ありがとう」とメッセージを送ると、「こちらこそありがとうございます」と返事がきます。心から感謝しています。
――『Epik High Is Here 下, Pt.2』には、ご自身を投影した曲が多く含まれているそうですね。
いつになく、自分のことを盛り込みました。子どもの頃の話や、つらかった時代のこと、それから日常のこと。パーソナルなアルバムです。
――なかでも一番TABLOさんらしい曲は。
僕の気持ちをそのまま歌っているのが「Family Portrait」です。10年前にとてもつらい出来事があったんです。インターネットで叩かれて……。父親がそれをきっかけに体調を崩し、亡くなってしまいました。
そのことをこんなにもストレートに語ったのは、この曲が初めてです。僕も当時の感情を受け入れられず、時々話すことはあっても、これほど細やかに自分の気持ちを整理したことはありませんでした。時間が経つにつれて、現実を受け止めなければならないと感じるようになり、思いを曲にしたんです。
すると、すごく多くの人たちが自分の家族や大切な人を失ったときの気持ちをインターネットなどに書きはじめました。その人たちも、初めて思いを明かしたそうです。気持ちを吐き出すことが、癒しの第一歩。曲を聴いた人たちも、僕と同じように感じたんですね。
――自分自身のつらいことを曲にするのは、苦しくなかったですか。
むしろ心に秘めているほうが苦しく、誰かに話すと少し楽になったような気がします。
「宮崎駿作品や坂本龍一にインスパイアされた」
TABLOは、親の仕事の関係でインドネシア、スイス、香港などを転々としながら幼少期を過ごした。高校時代には、校内の文芸誌編集長に。作家のドバイアス・ウルフの教えのもと、スタンフォード大学創作文芸・英文学科を首席で卒業した後、英文学科の修士課程を修了。演劇、文芸誌、短編映画など大学内外でのさまざまな活動を経てニューヨークで独立映画の助監督として活動していた頃、ハーレムでの生活を機に音楽の世界に足を踏み入れた。
――幼少期にいろいろな国に住んだ経験は、曲作りにどのような影響を与えていますか。
さまざまな国で暮らした経験によって、幅広い視野を得ることができました。一方で、親の仕事であまりにも頻繁に引っ越しをしたので、友だちができても1年以内に別れを告げて別の場所に行かねばならず、友だちを作るのが怖くなりました。人と親しくすることを恐れ、孤独な性格になった。それが僕の曲や文章にいまも大きな影響を与えています。
――書き始めたきっかけは?
幼いころから文章を書いたり、本を読んだりするのが好きでした。小学校6年生か中学1年生ぐらいから、詩だけでなく短編小説とかいろいろ、家で書いていました。両親は仕事がとても忙しく、兄と姉とは年が離れていて、ひとりでいる時間が長かった。だから、僕ができることといえば、本を読み、文を書く。それだけだったんです。
――文章や歌詞を作るときの原動力は何ですか。
僕は耐えるのが苦手。表現しないと耐えられないという気持ちが原動力だと思います。文章を書きたいからではなく、書かずにはいられない、耐えられないと感じたときに書くのです。
――耐えられないほどあふれてくるのは、怒り、喜び、愛? どんな感情でしょうか。
一言で表せるものではなく、複雑な感情です。僕が語る幸せには寂しさが宿り、僕が話す不幸にはささやかな希望があります。感情を分けて考えたことがないんです。
うれしいと同時に悲しく、幸せであると同時に恐れを感じる。なぜなら、あまりにも幸せで失うのが怖いから。あるいは、すごくうれしい気持ちに終わりが訪れるのではないかと思うから。いつもいくつかの気持ちが同時に動いていて、どうすることもできないのです。
――幼いころの寂しさを救ってくれた本はありますか。
いっぱいあります。好きだったのは、ヘミングウェイ。日本の本もたくさん読み、村上春樹も読破しました。日本の昔の本もかなり読んでいます。映画も好きで、小津安二郎監督、黒澤明監督の作品はすべて見ました。
ありきたりに思えるかもしれませんが、宮崎駿監督の作品も大好きですし、好きな音楽家のひとりが、宮崎監督の作品の曲を多く手掛けている久石譲さんです。『もののけ姫』、『ハウルの動く城』『となりのトトロ』。宮崎監督作品は、ファンタジーであり、美しく平和でありながら、すごく悲しいですよね。悲しみが混じっているのが、僕の感情と重なって心に響くのだと思います。
――EPIK HIGHの「Fly」は、渋谷系のサウンドを取り入れて韓国のヒップホップファンのすそ野を広げたと言われています。音楽面でも日本の影響を受けた部分も大きかったのでしょうか。
はい。当時日本のミュージシャンと頻繁に会っていて、dj hondaやm-floとも交流がありました。幼いころから聴いていたJ-POPやいろいろな国の音楽が僕の中で溶け合って「Fly」のような曲が生まれました。
ひとつのグループに影響を受けたというよりも、m-floやNujabes、そして子どものころから大好きだった坂本龍一さん、そして久石譲さんなどいろいろなアーティストにインスパイアされました。
――韓国でEPIK HIGHといえば、ヒップホップを大衆的なシーンに広めて愛された先がけで、アイドルをしのぐファンダムを形成したことで知られています。BTSはヒップホップとアイドルの間で逡巡したといわれていますが、TABLOさんも同じような経験はありますか。
僕はいつも好きなことをやってきたのですが、いろいろな声がありました。僕らのヒップホップ的な部分が好きな人たちは、「大衆的すぎる」と言い、大衆的な音楽が好きな人たちは、ヒップホップファンと対峙する。僕は好きなことをやっているだけなので、たとえ叩かれても関心がありません。
(4月29日にリリースされたPSYのアルバム『PSY 9th』では「forEVER (feat. TABLO)」でコラボ。作詞にも参加している)
「若者は声を代弁する人を求めている」
――ヒップホップというジャンルでは「オーセンティシティー(本物であること)」が問われます。TABLOさんにとってのオーセンティシティーとは何ですか。
「ヒップホップ的なオーセンティシティー」というもの自体が、偽りだと思います。なぜならラッパーはそれぞれ好きなもの、嫌いなもの、スタイルなどひとり一人が異なります。「ヒップホップ的なもの」とひとくくりにするのは正しくないと僕は考えています。
昔も今も、「こうすれば本物のヒップホップだ」「あれはニセモノだ」と言う人たちがいますが、それはすごく馬鹿げていて、そういう考え方こそが、ニセモノではないかと思うんです。
本当は楽しい曲や大衆的な音楽も好きなのに、ヒップホップをやるからといって、楽しい曲や大衆的な音楽を避けたり嫌いなふりをしたりすれば、その瞬間から嘘をついていることになる。僕は最初からそういったこだわりはなく、好きなことを自然体でやってきただけです。
――韓国では日本よりもヒップホップが大衆に根付いています。その理由は何だと思いますか。
日本ではアニメが愛されさまざまな作品がありますよね。でも、韓国ではアニメといえば、子ども向けの作品がほとんどです。では、なぜ日本では大人も楽しめる作品があるのに韓国ではないのか。それと同じで、答えはひとつではないと思います。
ただ、思い出すのは20年前に僕がヒップホップを始めたとき、みんなに「ヒップホップは流行らない」と言われたこと。記者たちも、ヒップホップをする人たちさえも半信半疑でした。でも、僕は「ヒップホップはいつか一番人気があるジャンルになる」と確信していました。
なぜなら、当時の音楽のほとんどがラブソングだったから。人間の感情はもっと複雑で多彩で、愛の歌だけを聴きたいわけじゃない。何か別のものが必要だ。そんな思いからヒップホップを始めたんです。その後どんどんヒップホップのすそ野が広がり人気が高まるのを目の当たりにして、信じていた通りになりました。
僕は、若者たちが自分の声を代弁してくれる人を求めていると感じていたのですが、それは正しかったのだと思います。
――今年4月には、PSYさんのニューアルバム『PSY 9th』に収録されたコラボ曲「forEVER (feat. TABLO)」がリリース。またアメリカ最大の野外音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」では韓国のアーティストとして初めて3度目のステージに立ちました。韓国の音楽シーンをけん引し続けるTABLOさんが考える、K-POPが世界で人気を得ている理由とは。
まず、本当に一生懸命、必死に努力しているからだと思います。才能もある上にしっかり練習している。またBTSの場合は、ラップに込められた世界観や感情が響いているのかもしれません。
ただ理由はさまざまです。パフォーマンスがずば抜けているグループもあるし、ファッションが魅力的なグループもある。それらすべてがK-POPという世界的な現象を起こしているのではないでしょうか。
――では、EPIK HIGHが世界で人気の理由とは。
僕たちも一生懸命やっています。あとは、少し「違う」ところ。僕たちは他のグループのようにダンスが上手いわけでも若くもイケメンでもない。そんな「足りない」ところから生まれる感情や感性があるのではないかと思ってます。
(2016年、2020年に続き、今年3度目の出演を果たした「コーチェラ・フェスティバル」)
『BLONOTE』(世界文化社)
TABLO著、清水知佐子訳
本の題字は娘が書いたもの。妻は『オールド・ボーイ』(2003)や『トンマッコルへようこそ』(2006)で知られる女優のカン・ヘジョン。