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「ブギウギ」涙が止まらない。無垢な赤ちゃんと、これまでにない「ラッパと娘」の歌声

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

喜びと悲しみが交錯

ドラマチックに描きすぎるのではないか と懸念もあったが

「第18週は喜びと悲しみが交錯するなかでも、できるだけ明るく前向きな感じにしたいと思ったものの、やはりそう簡単なことではなく、試写では泣いている方が多かったです」

朝ドラこと、連続テレビ小説「ブギウギ」の制作統括の福岡利武チーフプロデューサーがしんみり語るように、この1週間は重かった。脚本家の足立紳とも議論を重ねて作ったという。

「スズ子(趣里)のモデルである笠置シヅ子さんは、史実では出産する2週間ほど前に、婚約者の吉本頴右さんが亡くなっていて、その事実も出産前に告げられたということです。ドラマでは出産と愛助の死をほぼ同時のタイミングにして、告知も出産後に行われるというふうに少しアレンジしました。産まれて死んで……というのはドラマチックに描きすぎるのではないか、ドラマの仕掛けがにおうのではないかという懸念もありましたが、足立さんの中ではあれが『ブギウギ』らしいと選択されました」

おりしも雨が降ってきて……というのも仕掛けのひとつで、脚本打ち合わせのとき、演出の二見大輔さんが足立さんに依頼して、雨を降らすことにしたそうだ。

悲しみのなかにも希望を、というところで、羽鳥家の子供たちの無邪気さも暗闇に光を灯す。羽鳥家以外の子供のエキストラが出てくるシーンもあって、この週は“子供”のイメージがそこここにある。

「子供たちは無邪気でとてもかわいいのですが、その後、スズ子にもたらされる悲しみを知っていてその場面を見ているので、切なくて切なくて……複雑な気持ちでした」という福岡CP。作り手もそこまで物語に没入してしまうほど悲しいエピソードだった。

悲しい知らせを受け取るスズ子ではあるが、生まれた赤ちゃんがとてもかわいくて、癒やされる。朝ドラに出てくる赤ちゃんはいつもほんとうに演技力(?)があって感心してしまう。

「赤ちゃんはかわいくて、居るだけで現場が和みます。でも、演技ができるわけではないから、寝ている、喜んでいる、泣いている……と台本に書かれた状態にうまく持って行くために助監督たちが頑張っています。寝ているときに無理に起こしてはいけないし、寝ているシーンで起きてしまったらNGになってしまうし、赤ちゃんのいる撮影現場は独特の緊張感になるんですよね。赤ちゃんも自分の家と違う場所に来ていることがわかりますから、その緊張をうまくほぐして撮影しています」

ほっこり和む表情は、スタッフの努力が生み出しているのだ。

趣里さんに赤ちゃんが馴染んでいたように見えたが。

「趣里さんは、本当に『かわいい かわいい』と言っていて、赤ちゃんをずっと抱っこしていました」

なんといっても、「ラッパと娘」の歌声が、ステージバージョンとはまったく違って、胸に響いた。

「あのシーン用に歌を録ったときは、愛助と子供の3人の幸せな形を夢に見ながら歌っているという状況を二見が説明して録りました。趣里さんの声のきれいさと相まって、母になった感じもすごく自然に感じられてよかったなと思います。切ない中でも前に進んでいくための目印のような、小さな明かりが見えるイメージの歌声になりました」

スズ子と愛助と赤ちゃん3人が一緒に生活している夢も泣けるものだった。

「笠置さんも出産前に頴右さんと『ラッパと娘』を歌っている夢を見たそうなんですよ。その夢をどう表現しようかと考えて、舞台で赤ちゃんを含めて3人で踊っているみたいな非現実的なものよりも、日常の中で幸せをかみしめるほうが『ブギウギ』らしいかなと。歌って踊って元気を届けるというテーマと同時に、生活描写もすごく大事にしたドラマでもあるので、ああいう形に落ち着きました」

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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