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学校の見直しが進む今がチャンス 「強制ゼロのPTA」に生まれ変わる方法

大塚玲子ライター
強制をなくした吹上小PTA、運動会の片付けの様子(写真提供:下方丈司さん)

 全国の学校で休校が続き先の見えない状況ですが、ICTを活用した授業の推進など、学校のあり方について前例踏襲を排した根本的な見直しが進められています。

 PTAについても同様です。この春は、総会や委員(クラス役員)決めを見送ったPTAも多いでしょう。今年度から思い切って強制ゼロに舵を切ってはどうでしょうか。ある意味、今がチャンスです。

 やってみたいけれど、どこからどう手を付ければいいのか? という方のため、今回は、4年ほど前からPTAの適正化を進めてきた、名古屋市立吹上小学校PTAの取り組みを紹介します(*1)。

 吹上小PTAの適正化の取り組みについては、過去にも断片的に紹介してきましたが、今回は元PTA会長・下方丈司さんのお話(下記の講演内容等)をベースに、全体像をまとめさせてもらいました。

 「吹上小PTAを参考に適正化を進めた」という話も既に複数聞いています。ぜひ、参考にしてもらえればと思います。

*「もう、このやり方では続けられない」と思ったワケ

 吹上小PTAは、みんながかかわり方を自由に選び、主体的に参加できる仕組みです。「必ずやってください」ではなく、すべての活動は「エントリー制」で、やりたい人がやる形です。入会ももちろん自動ではなく、本人の意思にもとづきます。

 最初からこうだったわけではありません。2016年度までは、吹上小PTAもほかの多くのPTAと同様、全員自動加入で、「子ども1人につき1回は委員を引き受ける」という不文律がありました。

 委員は各クラスから2名、名簿をもとに投票で選んでいました。選ばれて「引き受けられない」と判断した人は、自ら次点の人に電話をして、代わってもらうよう交渉しなければならなかったそう。

 下方さんが会長になって2年目の2016年。この春とうとう、「委員を引き受けられないし、次点の家庭に電話もしない」という申し出が2件ありました。このときはとりあえず役員さんが次点の人に連絡をしましたが、これを機に「今後はもう、このやり方では続けられない」という認識が、役員間で共有されることとなったのでした。

写真提供:井上哲也さん(PTA適正化実行委員会代表)
写真提供:井上哲也さん(PTA適正化実行委員会代表)

 やり方を改めようと決めたのには、もう一つ理由がありました。翌2017年の春から改正個人情報保護法が施行され、PTAも個人情報取扱事業者として適切な対応を求められることがわかっていたのです。そうなると、学校がもつ個人情報の流用を前提とする自動加入方式は、いよいよアウトになります。

 このような背景から、吹上小PTAの役員さんたちは「一切強制のない、適法なPTAをどう組み立てるか」ということを考え、話し合いを始めたのでした。

 以来、吹上小PTAが取り組んできたのは、大まかにわけると3つの方向での「適正化」でした。「活動参加の適正化」と「運営の適正化」、そして「目的と活動の適正化」です。

*1「活動参加」の適正化―――“エントリー制”の導入

 1つめの「活動参加の適正化」では、まず委員(委員会)の仕組みを廃止することにしました。活動を強制するのでなく、「やってもいいと思った人が、やってもいいと思ったことを、やってもいいと思ったときに」参加するやり方にしたのです。この方法を、同PTAでは“エントリー制”(*)と呼びます。

  • * 手挙げ方式、プロジェクト制、この指とまれ方式などとも呼ぶ
2016年度に行った意識アンケート(図版提供:下方丈司さん)
2016年度に行った意識アンケート(図版提供:下方丈司さん)

 適正化にあたっては、まず意識アンケートを行いました。結果を見てわかるのは、約半数の人はPTAを「必要・あったほうがいい」と感じており、また「委員や役員の経験は有意義だった」と感じる人も多い(75%)ということ。そのわりに、「委員や役員をやりたい」と思う人は11%と少ないのですが、とはいえ「11%はいるわけだから、本部役員くらいは、これでまわるだろう」と、下方さんらは考えたそう。

 各クラスから選出する委員の廃止が決まったのは、2017年1月に開いた臨時総会でした。なお、この時点では地区ごとに選出する委員(地区委員)だけは残っていたそうですが、2019年度にこれも廃止したということです。

 翌2017年度は “エントリー制”を導入するためにまず、これまで委員がやってきた活動をリストアップし、「その都度、募集すればいいもの」と「一定期間に活動するもの」に分類して、一覧表を作成しました。

 会員はこの一覧を見て自分が参加したいものを選び、「参加アンケート」に記入し、提出します。なおこの参加アンケートでは、「都合がつけばどれかに参加するつもり」という“ゆるい選択肢”も敢えて用意したそう。これなら、まだ先の予定が見えない人も、後で参加を検討しやすくなります。

 個々の活動の参加者の管理は、主にメールシステム(マメールという有料サービス)で行ってきました。このサービスは、出欠確認やアンケート、集計なども簡単に行えるので、とても重宝しているといいます(詳しくは以前書いたこちらの記事をご参照ください)。

 気になるのは、参加者の有無です。よく「強制をやめたら誰もやらない」という人がいますが、本当にそうだったのでしょうか? そんなことはありませんでした。2017年度以降毎年、ほぼすべての活動に参加希望があるそう。

 一定期間活動するもの(「広報づくり」「セミナー企画」)は3~5人と少人数でしたが、特に問題はありませんでした。どの活動も「できるなりにやればよい」ですし、やる気のある人が集まったので、少人数でも企画やアイデアはどんどん出てきたのです。

*2「運営の適正化」――会則や手続きなどの整備

 2つめの「運営の適正化」。これは、会則や入退会届けの整備、個人情報保護法の対応など、書類や手続きの関係です。

 まず行ったのは、2017年5月から施行された改正個人情報保護法への対応です。個人情報の取扱規則や保護方針をつくって会則に明記。使用目的をはっきりと示したうえで提供者の同意を得るようにし、さらに会費引き落としのため学校と業務委任契約も行いました。

 そして会則については、まず会員の条件を修正しました。それまでは「本校の会員は学校に在籍する児童の保護者と教員とする」という全員加入を前提としたような文言だったため、これを「会員になることができる者は~」という言い回しに変えたのです。

 また「入会(退会)する者は、申込書(退会届)を提出しなければいけない」という入退会手続きについての条文も会則に加え、これと同時に、入会申込書と退会届のフォーマットも作成。入会申込書は、会費の引き落としを学校に委託することと、PTAが個人情報を取り扱うことへの同意確認も兼ねています。

 会則にはほかにも、「保護者の属性等で児童を差別せず平等に扱う」「法令を遵守し、強制のない運営を行う」ことを定めた項目を追加。前者は、非会員家庭の子どもへの差別を防ぐため、後者は「後年、元の強制のPTAに戻っちゃった」という展開を避けるためのものです。

*「目的と活動の適正化」――PTAの目的を考えて伝える

 3つめの「目的と活動の適正化」は、「PTAの目的を改めて考える」というものです。

 吹上小PTAの会則には、目的として「児童の福祉の増進」「父母への成人教育・学区の社会教育」「教育環境の整備」といったものがうたわれていますが、このほかに「児童教育についての父母と教員の聡明な協力」というものもあります。

 下方さんは、この「聡明な協力」こそがまさにPTAの真の目的=「P(保護者)とT(教職員)でAする(協力して信頼関係をつくる)こと」ではないかと考え、この目的をこそ、会員によく伝える必要があると話します。

 そのためには、最初が肝心です。入会案内資料やビデオを作製し、これからPTAへの加入を検討する新入生の保護者には、こういった目的をしっかり伝えることにしました。

 そして、この目的に沿った活動として、校長先生から「学校がどのような教育を行おうとしているのか」をプレゼンテーションしてもらうセミナーや、「なごや子ども条例」についての学習会などを開催してきました。学習会には、先生たちも何人か参加していた(もちろん自らの希望で)ということです。

*今後の課題は「強制のないPTAという文化の定着」

 以上のような適正化を行ってきた結果、吹上小PTAは2019年度、全家庭の95%が入会し、70%がメールに登録、55%が活動に参加、5%が運営している、という状況だったそう。

 保護者でも教職員でも「全員必ず」加入しなければいけないわけではないし、会員でも「全員必ず」メール登録や活動をしなければいけないわけでもありません。すべて、本人が決めることです。

 全ての円の大きさを一致させる必要はありません(図版提供:下方丈司さん)
全ての円の大きさを一致させる必要はありません(図版提供:下方丈司さん)

 吹上小PTAがめざしてきたのは「さわやかなPTA」だと下方さんは話します。「さわやかなPTA」というのは、「適法で強制のない、主体的で自由な活動」であり、且つ「保護者と教職員の信頼関係づくりを志向するもの」だということです。

 いまの吹上小PTAに、「強制的にやらされる」「仕方ないからイヤイヤやる」「やらない人ズルい」「押し付け合い」「義務の免除」といった、かつての面影はありません。めざしてきた「さわやかなPTA」になったからでしょう。

 これからの課題は「強制のないPTAという文化を定着させていくこと」「役員選出のハードルを下げて、強制ではないのに“やってみたい”と思えるようなPTAにしていくこと」「保護者と教職員・保護者同士の信頼関係づくりの活動を工夫していくこと」などだそう。

 特に難しいのは「強制のないPTAという文化の定着」です。3年やってきてもまだ、「絶対に誰かがやらなければいけないという固定観念から解き放たれていない部分がある」ため、今後会員が入れ替わっても元に戻らないように、気を付けていく必要があります。

 この春、下方さんはお子さんが小学校を卒業したため、吹上小PTA会員ではなくなりました。でも、今の会長や役員さんたちも「一切強制のないPTA」を十分に理解しているので、もうPTA の運営には口を出さず、あとのことはすべて現役のみなさんに任せるということです。

  • *1 吹上小の児童数は約340人、世帯数は約270世帯です(2019年度)
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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