地域貢献はライフワーク。バスケットボールを土台として活用しているウィリアムズ
ジャワッド・ウィリアムズのプレーをライブで初めて見たのは、ノースカロライナ大時代の2005年。ミズーリ州セントルイスで行われたNCAAファイナルフォーを制したチームの一員であり、準決勝のミシガン州大戦で20点と大活躍したシーンは、今も記憶の中で鮮明に残っている。そんな彼がプロキャリアの序盤を北海道で過ごし、その後クリーブランド・キャバリアーズの一員としてNBA選手となり、プレーオフデビューとなった試合を筆者は取材していた。
2017年秋、ウィリアムズはアルバルク東京のメンバーとして、再び日本でプレーすることになった。そんな彼のホームページをチェックしていくと、読み応えのあるブログがあることと、地域貢献活動に力を入れていることがすぐにわかる。母校ノースカロライナ大に関連した出版物でコラムを書くなど、ライターとしての才能を発揮しているウィリアムズは、子どものころから文章を書くことや読書が大好き。アフリカ系アメリカ人学(黒人の歴史)を専攻した大学時代も、レポートやエッセイの提出でまったく苦労しなかったという。
「ずっと前から好きだね。読書は(空き時間に)いつもやっている。今シーズンもここまで7冊は読み終わっているし、昔からある番組を除いてテレビもほとんど見ていない。いろいろな知識を得られる読書は、私にとって大きな意味がある。(書くことも)自分の中へ簡単に入り込んでいく。ブログを書くのにかかる時間はせいぜい20〜30分さ。ネタが頭の中で浮かべば、ヘッドフォンをして音楽をかけながらやれば、パソコンに向かってすぐに仕上げられるものさ。妻は驚くばかりだけど、私にしてみれば心の中にあるものを(パソコンに)移すだけのことさ」
NCAAディビジョン1でプレーするには、一定の学業成績を残さなければならない。しかし、ウィリアムズはNCAAトーナメントを制覇したチームの先発メンバーであると同時に、評定平均値も4.0満点中3.0という成績で卒業。オンコートでもオフコートでも一生懸命に取り組むことが大事であり、成功するために必要なことを理解し、実行することが学生時代から身についていたのだ。
試合中のウィリアムズは、強面と表現していいくらい厳しい顔でプレーしている。しかし、感情の起伏が激しく表に出ることはない。父と兄が軍人という家庭で育ったこともあり、規律を守ることの大事さは十分理解している。一度コートを離れれば、冷静沈着で穏やかな表情もしばしば見せる2児の父親。また、プロ選手として日本を含めた7か国でプレーし、生活してきた経験から、ウィリアムズは「私はいろいろなことをうまく収拾選択できる。違った意見に対してオープンな気持で対応できるし、それが正しいと分かれば受け入れられる」と話す。
ウィリアムズはシーズンオフになると、自身が運営する「Strive To Excel」というNPO団体の活動を積極的に行っている。訳すと「抜きん出るために努力する」という意味になるStrive To Excelのリーダーを務める原動力となっているのは、クリーブランドの貧しい地域で生まれ育ちながら、大学を卒業し、プロ選手としていろいろな世界を経験したことを子どもたちに還元したいという思いからだ。
「始めたきっかけの一部は両親であり、兄弟や一緒に育った親戚もそうだ。私が生まれ育ったエリアは、大学まで進学できる人が非常に少ない。大学に行けないということだけでなく、殺されてしまうことや罪を犯して刑務所に入ってしまうこと、誤った道を進んでしまったというように、人生がうまく行かなかった人も多い。Strive To Excelはいとこのアイディアで始まったもので、私が活動を大きくさせていった。確か1996年だったかな、いとこがStrive To Excel, Never To Equalというテーマを掲げた。意味としては“他のだれかと同じくらいであればいい”というのでなく、“もっとよくならなければ!”というもの。前にやり遂げた人より、もっとよくなろうということだ」
Never To Equalのわかりやすい例として、ウィリアムズは次のように説明する。
「私の家族で例えてみよう。アスリートの家系だけど、お互いに競い合っている。姉がチャンピオンシップを獲得したら、私は全米チャンピオンになりたいと思い、妹は4度NCAAチャンピオンシップを取りたいという気持で努力するということさ。Never To Equalは“もっとよくなりたい”という意味になるね」
ウィリアムズがStrive To Excelの活動を本格的に始めようと思い始めたのは、キャバリアーズでプレーしていた2010年。NBA選手は「NBA Care」というプログラムを通じて、地域に貢献する活動を頻繁に行っている。ウィリアムズの場合は生まれ育った故郷、クリーブランドを本拠地とするチームでプレーしていたため、子どものころ過ごした場所に何度も足を運んでいた。
「そのころの私は(キャバリアーズの一員として)クリーブランドにいて、地域活動にも積極的に関わっていた。自分が育った街に戻ってきたわけだけど、実家の近所に住む子どもたちはプロのアスリートに会ったことがない。私はあのレベル(NBA)でプレーしてきたけど、1日の大半、練習後や休みの時に自分が育ったレクリエーション・センターに顔を出していたよ。NBA選手であることを見せつけるのではなく、私もみんなと同じような子どもとして、ここで駆け回っていたことを知ってもらう意味でね。クリーブランドでプレーしていた時は、感謝祭で七面鳥を提供するといったことなど、地域に還元するための活動をいろいろやったよ」
Strive To Excelで大きな意味を持つ活動の一つが、子どもたちを対象にしたバスケットボール・キャンプの開催。ただし、バスケットボールのスキル向上を目指すだけのものではなく、「我々はそれをバスケットボール・プラスと呼んでいる。バスケットボールは子どもたちが参加しやすくするためのプラットフォームであり、元アスリートや元警察官など、様々な人生があることを知ってもらうためのスピーチといったことを実行している。また、銀行やクレジット(信用)のことといったお金のことも教える。バスケットボールをプラットフォームにして、選手としてのレベルアップ以上に、いろいろなことを実行しながら人間としての成長を助けることになればと思っている」と話す。
いろいろな国で生活し、様々な文化の違いを体感し、理解してきたウィリアムズは、日本でもキャンプを開催する機会がやってくることを希望している。Strive To Excelは「抜きん出るために努力する」だけでなく、「子どもたちの夢を助ける」活動という意味もあるのだ。ウィリアムズの経験や半生を知ってもらうことは、日本の子どもたちにとっても異文化を知る機会という点で大きなプラス。コート上のパフォーマンスだけでなく、オフコートの地域貢献活動に積極的なウィリアムズは、発展途上のBリーグにとって貴重な存在であり、すばらしいロール・モデルである。