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“武装”して乗車……厳戒態勢の中、再開した武漢地下鉄

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
“完全武装”して座る乗客=楚天都市報のウェブサイトより

 新型コロナウイルスによる感染が最初に拡大した中国湖北省武漢で、地下鉄の6路線が28日、都市封鎖から65日ぶりに運行を再開した。乗客には感染拡大防止に向けた厳しいルールが課せられ、車内には引き続き緊張感が漂っている。

◇厳しいルール

 武漢地下鉄は9路線あり、駅は計228ある。この日に再開したのは6路線の184駅。運行再開に先立ち総計200台の赤外線サーモグラフィーによる検温装置が設置された。

 地元紙・湖北日報などによると、地下鉄に乗る際、利用者は必ずマスクを着用し、まず駅入り口にある「武漢実名登録搭乗QRコード」(健康QRコード)をスキャンする必要がある(写真1=光明網のウェブサイトより)。

写真1
写真1

 その結果を駅係員に提示して「緑」であれば、入構を許可される。

 次に手荷物検査を受ける(写真2=同)。その際にも「緑」の表示を見せる必要がある(写真3=同)。同時に赤外線サーモグラフィーによる体温チェックがある(写真4=同)。37・3度未満であれば通過でき、それ以上であればアラームが鳴り、カメラで撮影される。

写真2
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写真3
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写真4
写真4
写真5
写真5

 その後、改札口を通って(写真5=同)プラットホームに移動し、乗車する。

 車内では乗客同士が接近しないよう、すべての車両の座席に黄色のラベルが張られ(写真6=長江日報のウェブサイトより)、乗客はそこに座るよう指示される。6人掛けの座席には3つのラベルがつけられている。他の乗客と一定の距離を保っていれば立つことも許可される。

写真6
写真6

 各列車に「安全担当者」(写真7=同)が配置され、マスク着用を確認するほか、乗客が集まったり話をしたりする様子を見つければ、注意してやめさせる。

写真7
写真7

 下車の際にもドアガラスに張られたQRコード(写真8=楚天都市報のウェブサイトより)をスキャンし、安全担当者に提示する必要がある。

写真8
写真8

 28日の地下鉄利用者は同日午後5時までで12万人以上だったという。

◇個人情報提供への寛大さ

 健康QRコードのシステムは、スマホ大国・中国ならではの仕組みだ。スマホに表示される「通行許可証」であるとともに、感染が疑われる市民の追跡を含む感染拡大阻止に利用されている。

 利用者がアプリをダウンロードすると、個人情報や健康状態などの入力を求められる。各地にある検問所に設置されたQRコードをスキャンすれば、ビッグデータ解析によって「緑」「黄」「赤」の3種類(写真9=チャイナデイリーのウェブサイトより)で健康状態が識別される。「緑」は異常がない場合「緑」▽「黄」は重点地域からやってきて14日未満の場合▽「赤」は感染の疑いが排除されず隔離が求められる場合――などを表示する。

写真9
写真9

 緑のコードを持つ住民だけが自由に通行でき、黄や赤の場合、市民は一定日数の隔離が義務付けられる。隔離期間中もコードが緑に変わるまで毎日ログインする必要がある。

 このシステムは、中国最大のオンライン決済サービス「アリペイ」や中国大手IT企業テンセントが提供する無料メッセンジャーアプリ「微信」などを通じて利用できる。アリペイや微信のアカウントは携帯電話による認証を経ているため、身分証明書やパスポートのデータが紐づけられている。したがって、このシステムには利用者の移動経路や通信相手、健康状態など数多くの個人情報が蓄積されることになる。

 中国ではネット上の情報は厳しく監視されている。中国政府が問題視するような発言が書き込まれれば、当局はネット関連企業を通して身元を特定して摘発する。例えば、新疆ウイグル自治区では、当局が危険視する少数民族ウイグル族らを監視するため、カメラ映像や携帯電話の記録などを取り込んで解析する大規模システムが構築されている。こうしたビッグデータによる市民の監視は、幾度となく国際社会から批判されている。

 ただ、今回の健康QRコードに関して、中国国内では不満や懸念の声は聞かれない。ネット上には「便利だ」「自分の潔白さを証明するものだ」「先端技術を使うのはいいことだ」という意見が多くみられる。

 そもそも、アプリを使って便利な生活を送ることと引き換えに個人情報を提供するということに対し、中国人の多くが強い抵抗感を抱いているという様子はない。特に、今回のように新型コロナウイルスの感染者追跡・封じ込めに有用であれば、その利用に個人情報が使われることを寛大に受け入れているようにも思える。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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