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大阪府コロナ第4波 「医療逼迫」から2週間 現場の声は

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

大阪府の軽症中等症病床で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者さんを診療しています。報告される新規感染者数が下げ止まっている感じはあるものの、2021年5月10日夜時点では、現場としてはいったんピークアウトを実感しつつある状況です。実効再生産数も0.8台まで低下しています(1を切ると今後の新規感染者数が減少に転じると予測される)。

4月29日に、かなり医療が逼迫した現状を以下の記事でお伝えしました。約2週間前は、かなり厳しい状況に陥りつつありました。

■大阪府コロナ第4波、医療現場はどうなっているのか? 医療逼迫の原因、対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210429-00235077/

大阪府内で、医療管理下にない状態で死亡した患者さんは、第1波、第2波はゼロ、第3波は1人だったものが、第4波では17人でした。

踊り場か、ピークアウトか

この1週間~10日間の新規感染者数は、祝日・休日中の検査体制の影響もあるため、ピークアウトしていると判断するには時期尚早かもしれません。しかし、大阪府内の人出が緊急事態宣言後に急減しており()、新規感染者数抑制に一定の効果はあると思われます。

梅田の滞在人口の推移(第48回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より[http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/48kaigi.html])
梅田の滞在人口の推移(第48回大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より[http://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku_keikaku/sarscov2/48kaigi.html])

当院は50床以上のコロナ病床を有しており、どのくらい「新規入院」の要請があったかで逼迫度合いを実感することができます。たとえば4月中旬からゴールデンウィークまでは、1日3~5件の新規入院要請は当たり前で、そのほとんどが酸素療法を余儀なくされ、そのさなか酸素状態が悪化して人工呼吸器を要する患者さんの対応にあたらなければいけないような状況でした。

早い段階で重症病床も満床になってしまい、軽症中等症病床の限られたマンパワーの中で人工呼吸器を装着した患者さんをケアしなければならない状況は、「医療崩壊」と言っても過言ではないかもしれません。自宅療養中・ホテル療養中の新型コロナ患者さんが救急車を要請しても、人的資源が枯渇した軽症中等症病床では受け入れが困難という場面もよくありました。

人工呼吸器装着患者さんをなぜ軽症中等症病床で診療しにくいのか、その理由は別の記事に書いていますので参照してください。

■新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

2021年5月10日時点でのデータによると、第4波で大阪府下の重症病床に入ることができなかった重症患者さんは5月4日がピークで92人でした。そのときの重症者数は計449人でした。現在、それが足元で400人を切ろうかという水準まで減少してきました()。

2021年5月10日時点の大阪府重症患者数(筆者作成)
2021年5月10日時点の大阪府重症患者数(筆者作成)

当院の1日あたりの新規入院要請例も、現在2人程度と落ち着きを取り戻しつつあります。重症病床で治療を終えた患者さんが軽症中等症病床に戻ってきはじめており、軽症中等症病床~重症病床間の患者移動の歯車が、再度回り始めてきた印象があります。

しかし、現在も重症病床に入院できなかった重症患者さんが56人、軽症中等症病床に在院しているわけですから、医療が逼迫した状況であることには変わりありません。重症病床はまだフル稼働中で、重症病床の医療従事者がピークアウトを実感するのはまだ先になります。

第4波は「嵐」

今回の第4波、たとえるなら「嵐」です。まず、重症病床の逼迫スピードがはやく、軽症中等症病床は「嵐」のごとく戦場と化しました。最前線にいる看護師からは悲鳴が上がりました。この嵐の中心には、N501Y変異株が暗躍していることは明白です。

去年流行した言葉に、「サイトカインストーム」というものがあります。これは、病原微生物から体を守るはずの免疫系(サイトカイン)が、体内で暴走して自分自身をも嵐のように攻撃する(ストーム)ということを意味します。外敵に対する戦意が強すぎて自分自身も攻撃してしまうなんて、なんとも悲しい現象です。

20世紀前半に流した「スペインかぜ」では、1億近い死者のうち、基礎疾患のない若年者の死亡数が際立って多かったことから、サイトカインストームをきたした症例が多かったと考えられています。

第4波の新型コロナ患者さん、入院適応がかなり絞られていたため医療従事者としてのバイアスはあるかもしれませんが、血液検査で「炎症の数値」がとにかく高いのが特徴でした。ドラゴンボールでたとえると、強そうに見えなかった敵の戦闘力が53万あるような印象です。ただこれは、新型コロナが変異株によって強毒化してしまった側面を見ているのか、ただ単に感染者が激増した側面を見ているのか、あるいはその両方が組み合わさっているのか、慎重に検討されるべきかもしれません。

―――とはいえ、緊急事態宣言の発出に踏み切ったことで、全国的にこの大阪の状況が飛び火する事態は避けられるかもしれません。ここからが、勝負だと思います。

新型コロナを収束させるには、海外の動向を見る限り、ワクチンの普及以外に道はなさそうに思います。これまで、どうにか「ハンマー・アンド・ダンス※」でやってきましたが、今回の第4波に関してはハンマーが少し遅れるだけでこのような事態に陥ってしまいました。もし第5波が到来するのであれば、重症病床逼迫は大きな課題になります。

※ハンマー・アンド・ダンス

ハンマー:感染が急拡大した後、休業要請や外出自粛などの制限を行うこと

ダンス:制限を緩和し、経済の回復と感染拡大防止のバランスをとること

迅速なワクチン施策がすすみ、広く国民がワクチンを受けられるよう祈っています。そして、たとえワクチンを接種したとしても、ワクチン後の世界から確実なデータが集まるまでは、油断せずに個々の感染予防を継続するべきだと私は思っています。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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