新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?
テレビではよく「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化」と報道されていますが、何をもって「重症」なのかというのはあまり知られていません。「酸素を吸っている人は重症だと思う」とよく理解されていますが、実はこれは重症ではなく中等症です。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5.1版」(https://www.mhlw.go.jp/content/000801626.pdf)によると、重症とは「ICUに入室あるいは人工呼吸器が必要」な状態のことを指します。
ニュースでも、「人工呼吸器」という言葉が連呼されていますが、実は一般の人に、その管理の実態はあまり知られていません。
想像したくないと思いますが、たとえばみなさんがCOVID-19にかかってしまって、自宅療養中に酸素飽和度(指に挟むパルスオキシメーターの測定値)が低くなってきたとしましょう。これは体の中にうまく酸素が取り込めていないということを意味します。この時点で、保健所に連絡をして、入院の段取りをすすめてもらいます。自治体によってこの速度の差があるのは、報道されている通りです。大阪府では、「中等症II」(下図)にならないと実質的に入院できません。
まずは酸素療法
酸素飽和度が93%以下の場合、これは体内の酸素が少し不足していることを意味します。健康な人でも、パルスオキシメーターを指につけたまま、頑張って息こらえをすると、93%を下回ることが可能ですが、息苦しくてしんどいなぁと思うのがこのあたりの数値です。肺炎を起こしていると、それが安静時でも常態化することがあります。現場では、90%を下回りそうな場合に酸素療法を適用することが多いです。
中等症IIの場合、まず開始されるのは酸素療法です。多くの場合、鼻に「カニュラ」というヒモのようなチューブを通して酸素を吸ってもらいます。スポっと鼻にフィットするので、あまり違和感はありません。ただ、あまり加湿がかからないため、鼻の中がカピカピに乾燥してしまうことがあります。鼻カニュラによる酸素療法だけでなく、点滴で抗ウイルス薬やステロイドが投与されます。COVID-19には、いろいろな治療薬がありますが、どれもこれも、決して特効薬というほどの劇的な効果があるわけではありません。
酸素を吸わないといけないほどのCOVID-19は、重症でしょうか?いいえ、先ほどの手引きによれば、「中等症II」という区分になります。このくらいの重症度になると、10~14日間の入院を余儀なくされます。第3波までは、中等症の患者さんの病状は、ほとんどが想定通り回復しました。しかし第4波は、ちょっと変異ウイルスが悪さをしているのか、回復が遅い、あるいは重症化しやすい印象を持っています。
不運にも、ここからさらに酸素飽和度が下がってしまうと、次はカニュラではなく、「マスク」での酸素投与となります。マスクにはいろいろな種類があるのですが、基本的には下にある写真のようなイメージで間違いありません。マスクを装着しても、食事を摂取したり、テレビやスマホを見たりすることは可能です。
近年よく使われる高流量酸素療法
マスクの酸素投与でも酸素飽和度が上がらないとなると、肺がアップアップ溺れている状態ですから、次の手を打つ必要があります。ここまで来るとほぼ「重症」に近い状態と言えます。
現場では、ここで人工呼吸器の装着に踏み切る病院が多いと思いますが、近年、高流量鼻カニュラ酸素療法(ネーザルハイフロー)というデバイスがよく使われます。これは、先ほどのカニュラよりも少し太いチューブから大量の酸素を投与するもので、マスクによる酸素投与とは比べ物にならないくらい効果的に酸素を吸入することができます。
鼻から大量の酸素を投与すると、鼻がツーンとしてしまいそうな気がしますが、かなり加温と加湿をかけて投与するので、ビュービューと音はしますが、快適だと感じる患者さんが多く、ご飯を食べることもできます。ただ、専用の機器が必要になるため、「全員これを使えばいいんじゃね?」というわけにはいきません。
人工呼吸器の装着
「重症」の定義にある人工呼吸器の装着というのは、もはや通常の酸素療法では体中の酸素が足りなくなっていることを意味しますので、呼吸努力で疲弊する体を休憩させるためにも、いったん機械に肺をあずける形になります。人工呼吸器は、濃縮した酸素を、圧でもって肺に押し込む機能があります。そのため、たとえ呼吸が止まった人であっても、肺をふくらませて換気することが可能です。
具体的には、集中治療室のように広い場所に移動して、のどから気管までチューブを通します。一人では到底不可能な処置で、上の写真のように複数の医療従事者が参加します。平均的には、医師2人、看護師2~3人が必要で、全体の処置に要する時間はおおむね1時間を超えます(人工呼吸器の装着だけではなく、その他にいろいろな処置が必要になるため)。
のどに入れる気管チューブの長さは25cm程度、太さは細めのキュウリくらいです。想像するだけでオエっとなりそうですが、基本的に眠たくなる薬(鎮静薬)と痛くなくなる薬(鎮痛薬)組み合わせて、意識を落とした状態で機械につなぎます。気管チューブの中は人工呼吸器や自らの呼吸する空気が通るよう穴があいていて、これが24時間つなぎっぱなしになります。
人工呼吸器を装着している間は寝たきりになりますので、1人の患者さんを管理するために複数の医療スタッフが必要になります。
ごはんはどうするのか?
人工呼吸器につながれている状態では、ごはんは食べられません。なので、鼻から栄養を注入するチューブを胃のあたりまで約50cm入れて、そこからドロドロにしたごはんを入れます。あるいは、首から太めのカテーテルを入れて、栄養をおぎなう高濃度の点滴をおこないます。
排泄はどうするのか?
鎮静薬を使って寝ているだけでなく、人工呼吸器と24時間つながっているため、排便は基本的にオムツです。排便があるたびに、医療スタッフがこまめに交換します。排尿については、回数が多くオムツの交換が大変になるため、膀胱バルーンカテーテルといって、尿道に管を通します。私も、過去に手術を受けたとき、これを入れられたことがありますが、起きている状態でこれを尿道に挿入されると、男性は結構痛いですね。
お風呂はどうするのか?
人工呼吸器を装着している患者さんは、残念ながら入浴できません。物理的には可能かもしれませんが、とんでもない人手が必要になるので、コロナ禍ではほぼ無理な注文であり、基本的には医療スタッフがこまめに清拭する形になります。
人工呼吸器からの離脱
COVID-19の場合、ウイルス性肺炎が治癒すれば、1週間程度で急速に肺が回復してきます。その時点で、人工呼吸器と接続された気管チューブを抜き、あなたは寝たきりの状態から解放されるでしょう。もちろん、足腰がかなり弱ってしまっているので、その後リハビリや療養が必要になります。
2~3週間経っても人工呼吸器から離脱できない場合、気管チューブが入った状態が長引くと、声門から細菌が侵入して別の新たな肺炎を起こしやすくなります。そのため、のどに穴をあけてそこから気管チューブを入れる「気管切開」という処置をおこなうことになります。
高齢者の場合、こうした医療行為が延命につながることもありますので、一律全員に「人工呼吸器をつけましょう」と提案する医療従事者はいません。私の住む大阪府ではCOVID-19の患者さんが激増していますが、誰に人工呼吸器を配分するかという「命の選別」だけはできるだけ避けたいと思っています。
まとめ
COVID-19が重症化すると、その患者さんのケアに要するマンパワーは相乗的に増えます。重症病床と比較して、患者さん1人あたりの医療従事者数が相対的に少ない軽症中等症病床では、多くの重症患者さんをケアするということは現実的に難しく、これが大阪府の医療逼迫につながっています。