「大阪都構想否決」から学ぶ経営改革の難しさ ~反対するほうが100倍ラクの事実
■なぜこの結果は後味が悪いのか?
「大阪都構想」の住民投票が11月1日に行われ、賛成67万5829票(49.37%)、反対69万2996票(50.63%)で否決された。
私は経営コンサルタントであるため専門外である。この件に関し、詳しく言及するつもりはない。
ただ、もしこれが企業の組織改革であったらと思うと、複雑な気分になった。というか、どちらかというと重苦しい気分になった。そこで本日は「大阪都構想否決」から、企業経営者は何を学ぶべきか、解説したいと思う。
なぜ複雑な気分になったかというと、多くの人たちが何か勘違いをしているのではないかと思わされたからだ。しかも尋常ではない数の人たちが。
それは「これまで通りの努力をすれば、私たちは現状を維持できる」という勘違いである。
企業の生産性も、政府が打ち出すコロナ対策も、DX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透度も、先進国の中で我が国日本は大幅に遅れをとっている。
いくら世界第3位の経済大国とはいえ、日本が先進国の最後列にいることは疑いもない事実である。すでに「衰退途上国」であることを自覚し、現状を維持するためには相当の努力をしなければならないと知るべきだ。
■なぜ反対するほうが100倍ラクなのか?
大阪都構想の中身はともかく、今回の住民投票で違和感を覚えたのは、
1)A案
2)B案
のどちらを選ぶかの構図になっていなかったことだ(たとえそうであったとしても、まるで伝わらなかった)。つまり、
1)新しい案
2)何もしない案
のどちらかを問う住民投票として映った。これは企業における組織改革にもよく見られる光景だ。改革推進派は経営の現状、組織の問題を説明し、どうすれば問題解決するかを提起する。
いっぽう改革反対派は、その問題提起に対して異を唱え、解決策の穴を指摘する。反対派は一枚岩にならなくていいのも大きい。考え方、価値観が違っていても「反対」で一致していれば団結できる。どちらがラクかと言ったら100倍以上、反対派のほうがラクだ。
デメリットのない改革など存在しない。反対派はそのデメリットを「見える化」し、そこに焦点を合わせて戦えばいい。人は「現状維持バイアス」という心理作用が働く。そして人が集まった組織になると、さらに「慣性の法則」が働く。
転がるボーリングの玉と同じだ。よほど大きな力を加えない限り、止まらず同じ方向へ転がり続けるものである。
■反対派は対案を出せ
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。そのための手法(予材管理)を導入しようと試みる経営者は多い。しかし現場の営業組織が猛反発し、断念する経営者もまた少なくない。
私がいつも残念に思うのは、議論の焦点が、
1)新しい案
2)何もしない案
になっていることだ。
当然、反対派も言い分はあるだろう。このままではいいとは思っていない。しかし、その言い分や自分たちが考える解決策を、
「否決してから考える」
ことが大半だ。
だから改革推進派は、不平等感を覚える。私が声高に言いたいのは「反対派は対案を出せ」ということである。相当な努力をしない限り、国も地方も企業も現状維持はない。未来は明るくないのである。
これまでと同等レベルの頑張りでは、私たちの子どもたちは、私たちと同等の生活を送れないのだ。だから「否決してから考える」という姿勢では、相当な努力をする覚悟がないのでは、と私は見てしまう。
■いかに改革が難しいか
外部コンサルタントである私と経営者がタッグを組んで組織改革を断行しようとした際もそう。その改革案に反対するのはいい。しかし、別の改革案を出して対抗してもらいたい。改革案に反対でもいいが、改革そのものに反対であるという姿勢は、断じて受け入れられないからだ。
つまり、
1)A案
2)B案
と対等に案が出れば、平等にジャッジできる。そのほうがフェアだ。
「大阪都構想」がよい案であったかどうなのかは、私は言及しない。ただ、これからも相当な努力をしない限り、現状の大阪を維持できないことは明らかである(もちろん、これは大阪だけの話ではない)。
世界的に見てもブランド価値の高い都市である。筆者も大阪は大好きな街だ。今回は反対派が勝ったわけだが、別のアイデアで改革を続けてもらいたいと切に願う。
企業経営者は組織改革がいかに難しいか、これでわかっただろう。かなりの覚悟をもって臨まなければ、ほとんどの改革案は否決されるか、骨抜きにされるのだ。歴史のある組織ほどそうだ。
私たちは「下りのエスカレーター」に乗っていることを、決して忘れてはならない。