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トランプの言葉を編集するSNS企業たち

田代真人編集執筆者
(写真:ロイター/アフロ)

 先頃、米ツイッター(Twitter)と米フェイスブック(Facebook)は、“トランプ派”の民衆による米連邦議会議事堂襲撃を煽ったとされ、重大な規約違反として、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領のアカウントを凍結した。この措置に対して、ツイッターやフェイスブックを非難する人たちが多い。つまりは「表現の自由」を侵害されたという主張だ。

 しかし別に「表現の自由」は侵害されていない。もう少しわかりやすく理解するために、この問題をネット以外のメディアに限って考えてみよう。

 ネット以外のメディアといえば、いわゆる“マス4媒体”と言われる、ラジオ・テレビ・新聞・雑誌が主である。もしトランプがこれらのメディアだけで意見を表出していたとしよう。その場合、少なくともメディア側にトランプの意見をそのメディアに掲載するかどうかが委ねられる。米大統領であれば、その意見は世間の耳目を集め、メディアの販売数や視聴率増加が期待できるので、各メディアはこぞって掲載するであろう。

 しかし、その内容が次第に偏りはじめ、暴力的になってきたとする。しかもカルト的人気を極め、彼の言うことであれば、考えることなく過激に追随していく民衆が増えていく。そのとき、メディアに販売増や視聴率増以外の“民主主義的良心”があれば、危機感を覚え、その意見の掲載を見送ることになろう。

 これは彼が、どこかでなにかを言ったというニュース報道に限らず、コラムを掲載する雑誌などでも同じである。月刊誌で毎月コラムを書いていた超有名な著者が、あるときからその考えに変容を来し、内容が過激になっていく。その場合、まっさきに担当編集者がその真意を質し、場合によっては編集長に確認して、著者が表現を改めなければ、最終決断として編集長が掲載を見送るということになる。編集権の行使である。編集とは、言葉を変える、表現を変える以前に、その言葉を掲載するか否かの判断をすることだ。

 ネットがなく“マス4媒体”しかなかったころはこの流れしかなかった。つまりはある人物の「表現を世に広く伝える」という役割の生殺与奪権はメディアの責任者が持っている。しかしこれは、その人物の「表現の自由」を奪ったわけではない。メディアへの掲載を拒否したに過ぎない。

 翻っていま、主にメディアの役割を果たしているのはSNSだ。これまで彼らは責任を負いたくないがために自身のことを“プラットホーム”と呼んでいた。メディアではないと……。

 しかし今回の件で、ツイッターもフェイスブックも過激な表現を振りまく人物のアカウントを凍結した。つまり、その人物の言葉を掲載しないという“メディア”的振る舞いをしたわけだ。いや振る舞いではなく、これはメディアそのものである。彼らはメディアであると認めたくないだろうが、明らかに彼らは編集権を行使したわけである。

 私たちはSNSをもはや社会のインフラだと思っている。しかしそれは大いなる勘違いだと認識したほうがいい。彼らも営利企業であり、民間企業である。であれば己の損得を考え、行動する。このまま場所を提供し続ければ利用者離れが進むのは明らかであれば、当然、場所の提供を拒むだろうし、彼らにとっての邪悪なアカウントは凍結するわけである。

 これは“マス4媒体”であっても同じである。ここに「表現をその(民間企業である)メディアを利用して広める」権利は剥奪される。しかし、トランプ大統領の表現の自由は剥奪されてはいない。彼がなにを話そうが、ネットに書き込もうがその権利はあるのだ。

 となれば、彼は自分自身でメディアを立ち上げるしかない。当然のステージである。しかし、今後、親トランプメディアがネットメディアとして生き残れるのだろうか? これからの状況を注視していきたい。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にて初代Webマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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