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梨泰院・渋谷で起こったSNSの甚大なる“集人”効果

田代真人編集執筆者
(写真:ロイター/アフロ)

先日起こった梨泰院(イテウォン)の圧死事故。150名を超える死者を出したなんとも痛ましい事故である。現在、当局が詳細な事故原因を調べているが、明らかなのは狭い場所に過剰な人員が集まってしまったことにある。

日本でもコロナ前、ハロウィンの夜の渋谷では異常なほどに人が集まり、乱闘・暴行事件、ひいては自動車をひっくり返すような暴動までもが起こっていた。そのままコロナ禍に突入しなければ、今回の梨泰院での事故が先に渋谷で起こっていてもおかしくはなかっただろう。

しかし、これまでここまでの規模で1か所に人が集まることはなかったのではないだろうか。少なくとも2000年代前半までは。

では、なぜこれほどまでに過剰に人が集まってしまうのだろうか。私は、スマートフォンの普及とSNSの誕生にあると考えている。

2007年のiPhone販売開始後、インターネットを手中に収めた私たちは、2004年にスタートしパソコンで普及し始めていたFacebookをスマートフォンで閲覧し、発信することを覚えた。その後、2006年にスタートしたTwitterはスマートフォンの普及とともに爆発的にユーザーを増やしていった。

もはや流行りを伝えるメディアは雑誌やテレビだけではなく、SNSへと拡大していったのである。発信される情報の真偽が事前に検証されることなく。そしてその情報が世の中にどのような影響を与えるのかどうかも予測されない。人々の欲望のままに情報が発信される時代になっていった。

その欲望は楽しみだけではなく、自由を求めるものもあった。2010年、アラブ各国で起こった「アラブの春」は民衆がSNSを使って集い、革命を起こしたとも言われ、次々と独裁政権を倒していった。

雑誌やテレビだけしかなかった時代、事故や事象の情報は一過性のものであり、事前告知以外は常に起こったあとに報道・紹介されるものであった。ハロウィンの騒ぎも、その翌日のニュースで知るものであり、事前に示し合わせてその場所に集う人々は一定の人数に過ぎなかった。

しかしSNSがある現代社会では、リアルタイムに情報が発信・拡散され、その場所に“集人”される。時間の差はあれど、イベントが起こっているその場所に、その時間集まることができるのだ。

今回の梨泰院の事故では、有名人が事故現場にいるとの情報が駆け巡り、人波が押し寄せて原因を作ったとの話もある。真偽のほどはまだわからないが、この情報も人々が手にするスマートフォン上に駆け巡ったことは想像にかたくない。

SNS以前であれば、ぜいぜいクチコミで伝わるだけなので、遠くへは伝わらない。しかしいまは遠くへも伝わる。となれば、多くの人々が遠くからも押し寄せるという物理的な行動が巻き起こる。その輪の中心にいる人々は周りから押され、その力は次第に強くなり、もはやコントロール不可能の力が体中を圧迫することになる。

いま、二度とこのような事故が起こらないように国や自治体は対策を取ろうとしている。しかし、人が集まる原因の1つがSNSであり、SNSは言葉だけではなく、人々を動かす原動力になっていることを理解しておかないと、再びこのような事故は起こるのではないだろうか。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にて初代Webマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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