テスラとネットメディアの共通点
先週、2022年9月8日電気自動車テスラ『モデルY』が日本で発売された。このモデル自体は、すでにアメリカでは2020年から発売されている人気ミドルサイズSUVである。その後、中国では昨年から、欧州でも今年から発売を開始しており、オーストラリアやニュージーランドを含む右ハンドル仕様はこの6月に予約受注を開始していた。
私自身テスラは試乗でしか乗ったことはないが、そのときはEVらしい力強いトルクと非常にシンプルな内装に好感をもった。しかし、注目すべきは、テスラCEOであるイーロン・マスクだ。彼は常々Twitterでの発言やその奇行で世間を賑わしている。しかしながら彼は、数々の宇宙飛行士を宇宙へと届けるロケットを開発する民間ロケット会社スペースXのCEOでもある。
2020年11月16日、野口聡一さんを乗せたクルードラゴンがISS(国際宇宙ステーション)へ飛び立ったのも記憶に新しい。そのスペースXに度肝を抜かれるのが、都度打ち上げに使われるファルコン9ロケットが地球に帰還するシーンだ。コスト削減のためにロケット自体を再利用することが目的だが、これはもはや映画の世界としか思えない。打ち上げ動画を逆回ししたように着陸する様子をYouTubeなどで見ることができる。
このような発想をするCEOが生み出すEVがテスラなのだ。そのテスラのEVは、ハードウエアもソフトウエアも適宜更新されることで有名だ。既存の自動車メーカーのように年に1回のマイナーチェンジというわけではなく、バッテリーの種類から生産方式、その構造までもが変更されていく。ソフトウエアはスマートフォンのようにアップデートされていく。
これはいままでの自動車メーカーではできなかった方式だ。テスラのEVをリバースエンジニアリング(解体して技術を解明する)することで有名なサンディ・ムンロ氏の解説によると、現在テスラは“ギガキャスティング”という製造方法で、通常100以上の部品からなる車台の部品を1つにして、大幅な時間とコストの削減を成功させている。
これは既存の自動車メーカーでは難しい製法である。なぜなら、部品の削減は、メーカー城下町に存在する下請け工場の削減を意味することになるからだ。いままで長い間、一緒に仕事をしてきた仲間をそう簡単に切れないので、新たな製法を取り入れることができないわけだ。
それが業界になんのシガラミもないベンチャー企業であれば、結果がついてくる限り、CEOの一存で効率的な製法を取り入れることができる。
もちろん新しい製法で、自動車自体の品質が担保されるには時間もかかるし、まだまだ既存の自動車と同等だとは言えないかもしれない。ただし、世界中で好調な売れ行きを見せるテスラは多くの利用者に受け入れられているとも言える。
私は、この様子に既視感を覚えた。つまり私がいるメディア業界でも同様のことが21世紀に入って起こっている。それは新聞とネットメディアの関係である。
とくに全国紙は全国に販売店があり、宅配を行っている。その仕組みや販売店で働く人たちのことを思えば、そう簡単に変わることができない。以前、ある全国紙の役員と話したとき「全国紙は恐竜みたいなものだからね」と言っていたことを思い出す。
それに比べ、ベンチャーが多いネットメディアは、少人数ですぐに立ち上げられるし、万一、間違いを掲載しても、すぐにネット上で訂正できる。もちろん常日頃から間違いだらけだと信用はされないが、ちゃんとした仕事をしていれば、信用は積み重なっていく。
日本にはいろいろな業界で“恐竜”のような企業、もしくは企業城下町がまだ多い。結局、そう簡単には変わらない、変われないという状態が続いていくのだろう。