テスラが値引きしてまでクルマを売りたい理由とは?
テスラは、革新的な電気自動車(以下、EV)メーカーとして世界中で急速に成長している。その成功の背後には、単に高性能で環境に優しい車を提供するだけでなく、ビジネスモデルの革新もある。社会への、そのアプローチは従来の自動車メーカーのものとは一線を画するものだ。
従来の自動車メーカーは、高価な車を販売することで利益を追求していたが、テスラは新たなアプローチとしてダイナミックプライシングを取り入れ、より多くの顧客に手に取ってもらおうとしている。ダイナミックプライシングとは、そのときどきの社会状況、需給状況に応じて価格を変動させる手法だ。アメリカでは、今年に入ってすでに6回も値下げが行なわれている。ディーラーを置かず、ネットで直接販売することもその方法を可能にしている。
2023年3月期の決算では増収減益で株価も下がった。中国では多種多様なEVが製造・販売され、世界的にEV競争が激しくなっていることも市場は厳しく評価しているようだ。だが、CEOのイーロン・マスクは意に介していないようにもみえる。というのも彼らのビジネスモデルは、ただクルマを売って稼ぐだけではないからだ。
ここ数日、日本の多くのテスラのソフトウェアがアップデートされている。これは「OTA(Over the Air)」という仕組みでインターネット経由で適宜無料アップデートされるものだ。今回は日本の多くのユーザーが待ち望んでいたと言われる“Apple Music”が搭載された。運転席と助手席のあいだに置かれた15インチの巨大モニターに表示される“Apple Music”で選曲し、ドライブを楽しめるわけだ。
この“Apple Music”を利用するためには「プレミアム コネクティビティ」と呼ばれる携帯通信のLTEサービスに加入しなければ、運転中に快適には利用できない。別途、スマホでWi-Fiテザリングをするか、モバイルWi-Fiサービスに加入すれば利用できるが、利便性は失われる。
この「プレミアム コネクティビティ」サービスは、月990円のサブスクリプションで提供される。実はテスラはこれら“サブスク”で稼ぐこともビジネスモデルの1つだ。彼らは自動車に搭載されたソフトウェアやアプリケーションを通じて、オーナーにさまざまなサービスを提供することができる。これには、自動運転機能のアップデートや、車両の性能向上、エンターテイメント機能の向上などが含まれる。これらのサービスに対して、月額や年額でサブスクリプション料を徴収することで、長期的な収益源となることが期待されるのだ。
また、テスラは、自社で開発した独自の充電インフラ「スーパーチャージャー」を利用することで、オーナーにさらなる利便性を提供している。これにより、顧客は独自の充電ネットワークを通じて、長距離移動を快適に行なうことができる。これもまた、別途充電料を徴収することで、テスラが持続可能なビジネスを展開するための柱の一つとなる。さらに、スーパーチャージャーを利用することで、テスラオーナーは他のEVと比較しても優れた利便性を享受できるため、ブランドの魅力が高まっている。
さらに、テスラは車両と連携したスマートホームシステムや、将来的には自動運転タクシーなどのモビリティサービスも提供することが検討されている。これらのサービスも、アプリを通じたサブスクリプション料の徴収によって、新たな収益源として期待されている。こうした多様なサービスの提供により、テスラは自動車メーカーとしてだけでなく、ライフスタイルブランドとしても成長を遂げることができるわけだ。
テスラは、このようなビジネスモデルで、顧客基盤を拡大し、新たな市場を開拓することができる。低価格での販売により、これまでEVを購入することが難しかった層にもアプローチが可能になり、また、アプリを通じたサブスク料の徴収によって、長期的な収益を確保し、テスラの成長と継続的なイノベーションを支えることができるだろう。
つまり、テスラは価格を下げてまでも自動車を販売することにより、テスラ車の普及を図りつつ、アプリを通じたサブスク料の徴収によるビジネスモデルを展開することで、持続可能な成長を目指している。これにより、テスラは革新的な自動車メーカーとしての地位を維持しながら、新たな市場を開拓し、ライフスタイルブランドとしても成功を収めることが期待されているのである。