【駅の旅】鉄道の聖地・新橋はオヤジの聖地/JR東海道本線・新橋駅
言わずと知れた鉄道唱歌で「汽笛一声新橋を」と唄われた日本における鉄道発祥の地、新橋駅にはJR4系統(東海道本線、横須賀線、山手線、京浜東北線)のほか、地下鉄銀座線、都営浅草線、ゆりかもめが乗り入れ、一日中、多くの利用客で賑わっている。
鉄道発祥の地に今も響く汽車の汽笛
毎日、12時、15時、18時の3回、新橋に汽車の汽笛が響く。駅前のSL広場に静態保存してある蒸気機関車C11が圧縮空気を使って本物の汽笛を鳴動させているのだ。このSLには12月になるとイルミネーションが施され、運転席にはサンタクロースが乗り込む。
日本の鉄道の歴史は、ここ新橋から始まった。1872(明治5)年に新橋~横浜間に正式に鉄道が開通し、陸蒸気が汽笛を轟かして、当時の人々を驚かせてから間もなく150年が過ぎようとしている。その当時の新橋駅は、現在の駅から東に3分ほど歩いた旧汐留貨物駅構内にあった。この場所を汐留シオサイトとして再開発した2003(平成15)年に、開業当時の駅舎が同じ場祖に旧新橋停車場として再現され、内部はレストランと鉄道歴史展示室になっている。この展示室は入場無料で、年に3回程度、企画展を実施している。現在は鉄道写真家の南正時さんの作品展『蒸気機関車のある風景』が3月6日まで開催中。昭和の時代に日本中で活躍した汽車ぽっぽの懐かしい雄姿を見ることができる。また、当時使われていた駅舎の基礎石や石段を見ることができ、発掘された改札鋏、駅で売っていた汽車土瓶などが常設展示されている。
浜離宮は江戸時代の庭園と高層ビルが織りなす不思議な光景
旧新橋停車場から南に5分ほど歩くと、浜離宮恩賜公園がある。これは、元々徳川家の鷹狩場だった場所で、江戸時代の代表的な日本庭園である。汐留地区が再開発され、庭園の新橋駅寄りには巨大な高層ビル群がそびえている。その姿が園内の潮入の池に映り、古代と現代が融和する不思議な光景を見ることができる。特に桜や紅葉の時期は美しく、昼休みには近隣に勤める人々が息抜きにやって来たりする。園内の船着場からは、浅草と日の出桟橋を結ぶ水上バスが発着している。
夜の新橋はオヤジの聖地
そんな新橋も、駅の周辺は近隣サラリーマンの聖地となる。よく、テレビのニュース番組などで街頭インタビューが行われ、酔っ払いのオヤジがほろ酔い気分でマイクの前で話している光景を目にする。かく言う筆者もインタビューを受けてオンエアされたこともあった。特に烏森神社付近には、昭和の佇まいが色濃く残り、新橋駅前ビルやニュー新橋ビルには、汐留の高層ビル街とはまったく異なるレトロな雰囲気が漂っている。
その新橋の数ある店の中で、地酒が豊富で料理のうまいおすすめの店が新橋駅前ビルにある「正味亭尾和」。海鮮や生姜焼きなどの定番のほか、人気なのがナスカレー。昔、銀座にあった喫茶店の人気メニューの味を再現したもので、締めに食べることが多い。つい、この店に来ると食べ過ぎてしまう。ランチタイムも営業しており、近隣のサラリーマンやOLで賑わう。
そして、鉄道の聖地、新橋に相応しい店は、その名も「新橋停車BAR」と「しんばし電車のりば~」。いずれも小さなカウンターだけの店だが、店内には列車の映像が流れ、サボ(行先表示板)などの鉄道用品がズラリと並んでいる。鉄道好きの人が集まるいやしのスポットで、初対面の人とでもすぐに仲良くなれるのが新橋流。「女性車掌」が明るい笑顔で迎えてくれる。姉妹店の両店ではしご酒をすると「飲み継ぎ割引」が適用されるが、コロナ禍のため、「停車BAR」は現在も「運休中」なのが残念だ。