20年連続で年越し台風なし 令和2年の台風は、発生数が平年より少なく、上陸数は12年ぶりのゼロ
熱帯域の雲
今年もまもなく終わりますが、日本の南海上には台風の卵となる積乱雲のかたまりがなく、20年連続で年越しの台風はなさそうです(タイトル画像参照)。
台風の統計がある昭和26年(1951年)以降、越年した台風は5個あり、このうち4個は昭和、1個が平成です(図1)。
そして、後述する平成12年(2000年)の台風23号以降、年越しの台風はありません(図2)。
つまり、20世紀後半には10年に1個くらいあった越年台風は、21世紀になってから20年もないのです。
ちなみに、越年台風5個のうち、3個はフィリピン南部に上陸しています。
新型コロナウイルスの影響がなかった昨年までであれば、フィリピンへは越年ツアーで多くの観光客がおとずれますが、台風はありがたくないというか、迷惑をかける越年客です。
台風番号
台風には昭和28年以降、台風番号がつけられています。そして、昭和26年(1951年)と昭和27年(1952年)は遡って台風番号がつけられています。
台風に関する各種統計が昭和26年(1951年)から作られていることが理由の一つになっています。
台風番号は、年毎に台風が発生するたびに1号、2号、3号…と発生順につけられた番号です。
一旦、台風に番号がつくと、その番号はその台風がどのような形態になっても同じ番号が使われます。
台風が“熱帯低気圧”に衰弱し、その後再発達して台風となった場合は、最初に付けられた台風番号が再び使われます。
極端な話、年末に台風第X号が“熱帯低気圧”に衰弱し、年が変わってから再発達して台風となった場合があったときも、この台風はその年の第1号ではなく,前の年の第X号です。
21世紀最初の平成13年(2001年)の正月、フィリピンの東海上に台風23号があって北東に進んでいます(図3)。
新年早々の台風ですが、21世紀最初の台風である台風1号ではなく、20世紀最後の台風23号で、越年した台風です。
平成12年12月30日9時にフィリピンの東海上で発生したもので、2000年で23番目の発生から台風23号と名付けられ、年が変わっても同じ番号で呼ばれているからです。
20世紀最後の台風である台風23号は、発生が12月30日9時と、最も遅い発生日時の台風です。
令和2年(2020年)の台風
令和2年(2020年)の台風シーズン前半は、台風の統計を取り始めた昭和26年(1951年)以降ではじめて7月に台風発生数がゼロとなるなど、発生数が少なく経過しました。
しかし、台風シーズン後半は、10月に過去最多タイの7個が発生するなど発生数が増えたのですが、平年並みには届きませんでした(表)。
ただ、令和2年(2020年)の23個という発生数は、極端に少ないというわけでもありません。
平成22年(2010年)の14個、平成10年(1998年)の16個と、近年、台風発生数が少ない年が増えてはいますが、昭和の時代でも、21、22個という台風発生数の年は珍しくありません。
また、台風の上陸は、平年であれば2から3個あるのですが、令和2年(2020年)の上陸数は、平成20年(2008年)以来、12年ぶりの0個でした。
ただ、上陸数が0といっても、台風の影響がなかったわけではありません。
特別警報が発表になるかもしれないとされた台風10号をはじめ、4号、5号、8号、9号、12号、14号と、合計7個の台風が接近し、その都度、台風被害が発生しています。
特別警報発表かといわれた台風10号
日本に接近した台風のうち、台風10号は九州のかなり近くを通過し、南西諸島や九州を中心に観測史上1位の値を超えるなど記録的な暴風となりました。
また、宮崎県などで大雨となり、広範囲での停電も発生しました。
台風10号が日本の南海上にあった9月3日21時の予報では、9月5日午後には南大東島の南海上で、中心気圧915ヘクトパスカルの猛烈な台風に発達し、特別警報級の勢力になり、特別警報級の勢力を維持したまま9月6日には九州の南海上に達し、場合によっては、九州に上陸するおそれがあるというものでした(図4)。
台風のエネルギーは、台風の中心付近の積乱雲の中で水蒸気が凝結して水滴になるときに発生する熱です。
このため、熱帯の海上など、水蒸気が豊富な場所で発生・発達します。
台風が発生・発達する目安となっている海面水温は27度ですが、台風10号が発生した小笠原近海の海面水温は、31度もあり、水蒸気が豊富な30度以上の海域を通って北上する予報でした。
令和2年(2020年)の9月上旬は、日本の南を中心とした海域の海面水温は、平年より2度以上も高く、特に、関東南東方、四国・東海沖、沖縄の東の海域では、解析値のある昭和57年(1982年)以降で最も高くなっていました。
このため、台風10号は記録的に発達すると思われたのですが、九州に接近する頃から衰えはじめ、上陸もしなかったことから特別警報の発表はありませんでした。
進路予報誤差の経年変化
台風進路予報の精度は、その年の特徴に起因する様々な変動があり、進路予報が難しい台風が多い年は、予報誤差が大きくなりますが、計算機の飛躍的な性能アップと、気象衛星からの詳細な観測データ取り込みを背景に年々小さくなっていました。
台風の予報円表示が始まった昭和57年(1982年)は、24時間先までしか発表していなかったのですが、予報誤差が200キロ以上ありました。それが、現在では3分の1の誤差です。
3日先までの予報が始まった平成9年(1997年)の3日先予報の誤差は約400キロでしたが、約200キロと、昭和57年(1982年)の24時間先までの予報と同程度の誤差のところにきています。
気象庁が発表した、令和2年(2020年)の台風23号(台風11号から23号は速報値)までの進路予報誤差は、1日先で81キロ、3日先で189キロ、5日先で301キロメートルとなっています(図5)。
最近の6年間でいえば、3日先までの進路予報の精度向上はあまりありませんが、4日先、5日先の進路予報は精度向上がみられます。
5日先までの進路予報の精度は、25年前の48時間先までの精度に匹敵しています。
台風の最大風速や中心気圧などの強度予報は、台風の進路予報よりも難しく、5日先までの強度予報が始まったのは令和になってからです。
台風進路予報が5日先までに延長になった10年後の昨年からです。
台風強度予報(最大風速)の誤差は、1日先で毎秒5.6メートル、3日先で毎秒8.6メートル、5日先で毎秒10.4メートルです(図6)。
台風の進路予報のように、目に見えての精度向上は見られませんが、近い将来、5日先の強度予報が、現在の48時間先の強度予報の精度に匹敵する時代がくるのではないかと思っています。
令和2年(2020年)の台風10号は、幸いにも特別警報の発表には至りませんでしたが、今後、特別警報が発表となる台風がでてきます。
その時までに、更なる精度の良い台風進路予報や強度予報の実用化が進んでいることを期待しています。
タイトル画像、図4の出典:ウェザーマップ提供。
図1の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。
図2、図5、図6の出典:気象庁ホームページ。
図3の出典:気象庁資料。
表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。