シリアのアル=カーイダの宗教警察がイドリブ県の反体制派支配地域で活動を再開
シリアのアル=カーイダの宗教警察
反体制系サイトのシャーム・ネット(SNN)は5月11日、同機構に所属する宗教警察の「サワーイド・ハイル」(善なる腕)のメンバーが、シリア北西部のイドリブ市内で活動を本格的に再開したと伝えた。
シャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)は国連安保理や米国務省によって「シリアのアル=カーイダ」に指定されている組織。
「シリア革命」の旗手を自認し、同じくアル=カーイダ系の「信者を煽れ」作戦司令室やトルキスタン・イスラーム党、「穏健な反体制派」として知られたイッザ軍、そしてトルコの後援を受ける国民解放戦線(国民軍)と各地で共闘している。また、イドリブ県を中心とする反体制派支配地域、いわゆる「解放区」のほぼ全域で、2019年初め以降、軍事・治安権限を握っている。
サワーイド・ハイルは「解放区」におけるシャーム解放機構の権威を浸透させ、支配を維持・強化することを目的に結成され、2017年半ば頃から活動を行っていた。
「勧善懲悪委員会」とも称されるメンバーはサウジアラビア人男女が多いという。
ファラーフ・センター
活動を再開したサワーイド・ハイルのメンバーは「ファラーフ(繁栄)・センター」を名乗り、シャーム解放機構の治安部隊の全面支援を受けて、イドリブ市内の市場、市街地、理髪店、水タバコ屋、婦人服店などで監視・取り締まり活動を始めた。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が入手した活動項目にかかる文書のコピーには、ファラーフ・センターが以下のような行為の監視にあたると列記されているという。
- レストラン、オフィスなどでの男女の同席を禁止。
- 不浄な女性が店舗内で店主と一緒にいることを禁止。
- 男性による婦人服の販売を禁止。
- 式場や遊技場を監視し、禁止行為を禁止。
- 街、店舗、レストラン内で水タバコを吸い歓談することを禁止。
- 猥褻な刈り上げの禁止と理髪師への厳罰。
- ハラスメント、軽率な嫌がらせ、学校やオフィス前での待ち伏せを禁止。
- 店舗などでの禁止行為や写真・絵を禁止。
- 教育機関での男女生徒の同席を禁止。
住民の反発に遭っていたシリアのアル=カーイダ
しかし、シリア人権監視団は、ファラーフ・センターの活動に対する住民の不満が高まることは必至だろうとしている。
事実、SNNによると、ファラーフ・センターの前身であるサワーイド・ハイルの行き過ぎた活動は、たびたび住民の反発に遭っていた。
2017年6月には、イドリブ市内の市場でサワーイド・ハイルの女性説教師が行っていた「説教」を少女たちが拒むと、シャーム解放機構が少女たちを戦闘員として徴用するとして、彼女らを侮辱、逮捕、また説教師らを救済すると銘打って、彼女らにシャリーア法廷で処罰を与えることを求めるデモを組織した。
2018年2月には、サワーイド・ハイルのメンバーが、イドリブ市内にあるピタゴラス専門学校で男女が同席していたとして強制的に立ち入り、教員の1人に暴行を加え、経営者にシャリーアへの違反があったことを認める文書に署名を強要した。
サワーイド・ハイルはまた、市内のウルーバ女子学校にも同様の理由で強制的に立ち入り、学校を閉鎖した。
これに対して、閉鎖を不服とする教員や女子生徒が、学校前で拒否する抗議デモを行ったが、シャーム解放機構が実弾を使用してこれを強制排除、その際に住民1人が負傷した。
また、病院や医療機関への行き過ぎた介入に対しても反発が高まり、医師、薬剤師、医療機関従事者が、イドリブ市以内の医療機関へのサワーイド・ハイルの立ち入りを拒否する声明を出していた。
シャーム解放機構は、3月5日の停戦合意が定めているM4高速道路でのロシア・トルコ軍合同パトロールの実施をめぐって、これに反対する「尊厳の座り込み」を組織し、住民を代弁しようとする一方、シリア政府支配地との通商用の通行所の設置をめぐっては抗議デモに直面している。
宗教警察の活動再活性化は、こうした状況下においては両刃の剣であり、住民の反発が高まれば、シャーム解放機構の影響力が低下する可能性もある。