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日本デス・メタル界の重鎮DEFILED(ディファイルド)が新作アルバムを発表

山崎智之音楽ライター
DEFILED / pic by Shigenori Ishikawa

もっと激しく、もっと速く、もっと重く。結成30年を超えて、今なおメタル・ミュージックの極限を求めて前進を続けるのがDEFILED(ディファイルド)だ。妥協を知らぬエクストリームな音楽性は他の追随を許さないが、一度その渦巻(メエルストロム)に呑み込まれた者は抜け出ることが出来ない。

バンド唯一のオリジナル・メンバーであるギタリストの住田雄介は激音から想像しがたい折り目正しい口調で、ニュー・アルバム『The Highest Level』について語ってくれたが、その発言からは鋼鉄を鍛造するのに等しい熱気が感じられた。

DEFILED『The Highest Level』(DIW on METAL / 現在発売中)
DEFILED『The Highest Level』(DIW on METAL / 現在発売中)

<常に扉を開け放つデス・メタル>

●日本においては漫画・アニメなどの影響によって“デス・メタル”という言葉だけが一人歩きして、初心者がデス・メタルを聴こうと思っても「何を聴けばいいの?」と困ってしまいます。DEFILEDの『The Highest Level』はエクストリームなサウンドで歌詞も英語ですが、初めてデス・メタルを聴く層から重度のフリークまで、幅広いリスナー層のニーズに応えるアルバムですね。

そうですね、あらゆる音楽趣味、年齢、国籍の人に聴いていただきたいですね。どなたでも大歓迎です。間口を狭くすることなく、デス・メタルなどのバックグラウンドのない方が聴いても楽しめる作品を意識しました。DEFILEDは常に扉を開け放っていますし、今回は特に1曲目「Off-Limits」のストレートな構成で招き入れて、気が付いたら迷路をさまよっている...という構成にしています。バンド結成以来、英詞で歌っているのも、日本人に限らずより多くの人に聴かれることを意識しています。英語だけが世界共通語と決めつけてはいないですが、メタルを聴いて育ってきて、英語で歌うのが一番自然だと感じました。歌詞を書くにあたって参考としているのは、『アライズ』の頃のセパルトゥラのように抽象的な単語を連ねるスタイルです。そうすることで、英語が母国語でない人にもメッセージが伝わりやすいのではないかと思いました。楽曲に関して目まぐるしく慌ただし過ぎとの声もあるのは承知していますがメリーゴーラウンドや走馬灯のように情景が変わっていく効果を狙っています。それが個性になっていると思いますし。

●1992年にバンド結成、メンバー交替を経て30年を超えるキャリアを誇りながら、ファースト・フルレンス作『Erupted Wrath』(1999)と変わらない、あるいはそれ以上の殺傷力を持っているのに驚きます。そんなアグレッションを維持するエネルギー源は何でしょうか?

私達は自分達のやりたいこと、好きなことだけをやっています。それに尽きますね。自分達の好きな音楽を貫き通すことが何より大事なのです。カッコいい曲が出来た、ライヴでプレイしたらどんな反応があるだろう?...などなど。自分達の関心に忠実にやりたいことだけを夢中で追ってきました。ふと気がつくと30年が経っていたという感じでした。20代の頃は、自分が50代になってもうるさい音楽をやっているイメージが全く湧きませんでした。少しずつアプローチは変えながらも、基本的にやりたいことは変わっていないので、バンドとしての一貫性は保たれていると思います。

●少しずつアプローチが変わったというのは、どんな部分でしょうか?

アルバムを作っているときのインスピレーションで、シンプルにしようとか複雑にしようとか...まあでも、DEFILEDとしての軸はブレていませんね。一言でメタルと言っても時代によって流れも変わりメインストリームのみならずアンダーグラウンドでもいろんなトレンドがあります。それらもチェックしていますし新しい音楽を聴いたりもしますし、「カッコいいな!」と思ったりはしますけど、それらがバンドの音楽性には影響されないように意識しています。良い曲ができた!と思ってもどこか他のバンドの楽曲に似ていると思ったらボツにしますし。へそ曲がりで頑固な部分があるんですよ(笑)。誰かのコピーになることを回避しながら自分達なりにメタルの文脈に合った音楽を構築していくのは難しいですね。だからこそ30年以上追求する価値があったのだと思います。

●『The Highest Level』は、どんなアルバムだと説明しますか?

今までの作品では聴きやすい部類に入ると思います。いくつもトラップは仕掛けていますが、難しいものを難しく聴かせるのではなく、分析できずとも流して聴いてもそれなりに楽しめて、細かいところに気付くとさらに楽しむことが出来るように心がけました。もちろん自分達以外誰にも判らないネタを仕掛けても意味がないですし、“判りやすさ”は意識しました。私はメタリカの『ライド・ザ・ライトニング』や『マスター・オブ・パペッツ』に心を打たれてメタル人生になった人間です。音楽を深く聴いてきたマニアックな人はもちろん、全然メタルを聴いたことがない人も好きになれるアルバムを目指しました。

●なるほど。

そのために、何度も繰り返し聴いてもらえるようなアルバムにしようと考えました。前々作『Towards Inevitable Ruin』(2016)は自信を持って制作したアルバムでしたが酷評もそれなりに受けまして。それは1曲目にポリリズムが入り組んだ「Subversion」を持ってきたことが一因だったとの自己分析をしました。レビュー記事で曲構成を的確に分析し触れているものはひとつもなかったのです。何度もリピートしたくなるアルバムでないとその魅力はなかなか伝わらない、と思いを新たにしました。その様なこともあり前作『Infinite Regress』(2020)では判りやすい曲を1曲目から3曲目に固めたりという試みをしました。今回は更にそれを突き詰めるように心がけました。

●アルバムのサウンドは良い意味で加工していない、生のライヴ・サウンドを良い音で収めたアルバムのように感じました。

ありがとうございます。それはSTUDIO NESTの菊池賢治さんにエンジニアをお願いした部分が大きいですね。1980年代、日本でハードコアやスラッシュ・メタルが盛り上がってきた時期にCASBAHやGENOAのレコーディングを手がけてきた大ベテランで、うるさい音楽の変遷を現場でずっと見てこられた方ですし、DEFILEDの最初のデモ・テープから最初の2枚のアルバムのレコーディングをお願いしてよく知っている仲でしたので、作業はすごく速くやりやすかったです。

DEFILED / pic by Shigenori Ishikawa
DEFILED / pic by Shigenori Ishikawa

<現代の監視社会に対する警鐘をメッセージに>

●『The Highest Level』の歌詞では、どのようなテーマが取り上げられていますか?

現代の監視社会に対する警鐘がメッセージとして込められています。社会派のメッセージを込めることで、聴き手が自分の生活と関連づけることが可能になります。その一方で、あまりに現実的過ぎて精神的に落ち込んでしまう内容にはしたくなかったというのもあります。ですからサイエンス・フィクション小説や映画などをモチーフにして、エンターテインメントとして楽しめる範疇内に留まるよう意識しています。アルバム裏ジャケットのバンド写真は窓ガラスがグリッド(格子)の様になっているビルを背景にしてみました。それもまた社会に監視されていることの象徴にも捉えられます。そのような細かいこだわりもあります。

●「Entrapped」の歌詞にある“big brother is watching you”(ジョージ・オーウェル『1984年』(1949)の一節)などはその例でしょうか?

ええ。『1984年』は近未来ディストピア小説の傑作です。監視社会のテーマが現代の世界を予見していることで、21世紀の今こそ改めて注目されるべきだと考えています。『1984年』は『Infinite Regress』の「Masses In Chaos」でもテーマにしていまして、“ignorance is strength(無知は力なり)”というアイロニーなフレーズを引用しました。新作の「Red World」のビデオでも『1984年』に登場する“101号室”を想起させる部屋が登場します。

●他にSF小説や映画から触発された楽曲はありますか?

直接的なものはないですが、インスピレーションやヒントになった作品はいくつもありますね。映画『トロン』(1982)はコンピュータの中に取り込まれるという設定ですがザックリ言いますと悪玉が世界を管理下に置こうとする話です。CG技術がない時代にサイバーな映像表現をしていた名作です。あと映画『ブレードランナー』(1982)と原作のフィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1968)からも大いに触発を受けています。

●「The Highest Level」ではゲッセマネの園が言及され、「Inquisition」(=異端審問)という曲もあるなど、キリスト教的なモチーフが使われていますが、歌詞で宗教観は反映されていますか?

DEFILEDはアンチクライストというより無神論的虚無主義からの歌詞が多いですね。邪悪なモノを内包しているという意味合いを込めてバンドロゴにはヤギの蹄と悪魔の尻尾がありますが悪魔崇拝をテーマにしたバンドでは決してないのです。歌詞のテーマとの整合性を考えればロゴのデザインは失敗したかもしれません。陰謀論的世界観の中で世界を牛耳るグローバルエリートが密かに悪魔崇拝をしているという設定はありますが、先述の通りデス・メタル、ブラック・メタルによくあるアンチクライストがメインテーマというわけではありません。ただ世界の数多くの人々にとって宗教は生活の一部ですし、宗教が権威として社会、政治を支配してきたことへの皮肉をこめた歌詞は多々あります。

『The Highest Level』のジャケットはずっと一緒にやってきたウェス・ベンスコーターによるものでして、今回は新規に描いてもらったものではなく、彼が既に描いた作品の中からアルバムのイメージと合ったアートワークを選びました。山羊の頭のキャラクターが十字架を持って、その側に銃を持った男がいるというのは、意味深ですよね。捉え方は様々ですが人間の歴史において宗教の名の下に破壊や殺戮が行われてきたことも暗示しています。

●アルバムのラスト「The Speech」で元米大統領フランクリン・ルーズヴェルトの演説が使われていますが、これにはどのような意図があるのでしょうか?

最後にアルバム全体を総括するメッセージを入れたかったのです。このルーズヴェルトの発言は実際に発言されたモノとされていて陰謀論的ファンタジーが実はリアルかもしれない、という暗示でアルバムを締め括る、という役割があります。それがアルバムの世界観に深みをもたらすと考えました。聴いた方々それぞれが考えて、結論を導き出して欲しいですね。そうすることもアルバムの楽しみ方のひとつだと思います。

●2023年4月から5月にかけて国内ツアー、6月のヴェイダー来日公演、7月のエグジュームド来日公演にも同行するなど、精力的にライヴ活動を行いますが、『The Highest Level』を聴いて興味を持ったリスナーにDEFILEDのライヴをどのように説明しますか?

デス・メタルですので楽曲は攻撃的で激しいですし、歌詞も暗い世界観ではありますが...バンドとしてのリスナーの皆さまへのスタンスとしては決して排他的ではなく、多くの人に耳を傾けて頂きたいと考えています。30年前からの年季の入ったファンからこのアルバムで初めてDEFILEDを知った若いリスナーまで、誰もが楽しめるアルバムになればとの思いで制作しました。間口はなるべく広くしたつもりです。メタルはもちろん、いろんな音楽のファンに体感してもらいたいですね。ぜひ私達の生のライヴを観にきて欲しいです。

●ライヴでは新旧さまざまなバンドと対バンするのも楽しみですね。

はい。日本のメタル・シーンは若いバンドも多くて、すごく活気があります。たとえばINVICTUSなどは世界標準でどこでも戦えるバンドだと思います。彼らとの共演でエネルギーを分けてもらっていました。長くやっているバンドもたくさんいまして、8月5日(土)新大久保アースダムでDEFILED、BASSAIUM、DEADLY SPAWN、兀突骨、TERROR SQUAD、ZOMBIE RITUALでライヴをやることも決まっています。国内シーンもとても熱いですし希望が沢山あります。

●アンデス(UNDEATH)が米“デシベル・マガジン”誌で2022年のベストに選ばれるなど、デス・メタルは世界的にも盛り上がっていますね。

そうですよね。1980年代からデス、モービッド・エンジェル、キャニバル・コープスなどデス・メタルの流れは脈々と、多様化しながら現代に受け継がれています。海外でライヴをやると親子に声をかけられて「親子2人ともDEFILEDのファンだ」と言われたこともあります。

●DEFILEDは海外でも積極的にライヴを行ってきて、欧米はもちろんインドやバングラデシュ、ボルネオ、ブルネイ、UAEなどさまざまな国でプレイしてきましたが、国ごとにオーディエンスの反応は異なりますか?

これまでかれこれ30カ国以上でプレイしてきましたが、どの国でも盛り上がりました。メタルに国境がないことがよく判ります。ここ最近はコロナ禍の余波やインフレの影響もあったりでまだまだ大変ですが、また行きたい国ばかりです。残念ながらまだ南米ではライヴをやったことがないので、いつかはやりたいです。2024年には日本国内・海外とも可能な限り活動していきたいですね。

【新作アルバム】

DEFILED(ディファイルド)

『The Highest Level』

DIW on METAL

2023年5月3日(水)発売

【バンドBandcamp】

https://defiledjapan.bandcamp.com/

【ツアー情報】

"The Highest Level" Japan Tour 2023

4月28日(金)神奈川 西横浜 EL PUENTE

4月29日(土)東京 新大久保 EARTHDOM

4月30日(日)宮城 仙台 SOLFA

5月1日(月)福島 郡山 PEAK ACTION

5月2日(火)新潟 FLOWER POP

5月3日(水)長野 THE VENUE

5月4日(木)愛知 名古屋 DAYTRIVE

5月5日(金)京都 TRUST

5月6日(土)大阪 西心斎橋 HOKAGE

5月7日(日)香川 高松 TOONICE

5月8日(月)山口 周南 RISE

5月9日(火)福岡 天神 REFLEX

5月10日(水)岡山 ARK

courtesy of DEFILED
courtesy of DEFILED

AN ACT OF DARKNESS IN ASIA 40 YEARS ANNIVERSARY

VADER / HATE / THY DISEASE / DEFILED

6月9日(金)東京 渋谷 WWW

6月10日(土)愛知 名古屋 HOLIDAY NEXT

6月11日(日)大阪 梅田 ZEELA

courtesy of DEFILED
courtesy of DEFILED

TO THE DEAD JAPAN TOUR 2023

EXHUMED / DEFILED / THE CONVALESCENCE / INFERNAL HATE

7月7日(金)仙台 FLYNG SON※

7月8日(土)大阪 SOCORE FACTORY

7月9日(日) 福岡 GRAF※

7月10日(月)名古屋 HUCK FINN

7月11日(火)東京 WILDSIDE

7月12日(水)東京 WILDSIDE

※仙台、福岡はDEFILEDは出演しません。

courtesy of DEFILED
courtesy of DEFILED

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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