話題の音声SNS「Clubhouse」を飲食店はどう使えばいいのか?
Clubhouseは音声型のSNSサービス
音声型のSNS『Clubhouse』が話題になっている。2020年春にアメリカ・サンフランシスコの『Alpha Exploration』がリリースしたSNSアプリ。従来のSNSは原則としてテキスト(文字)と画像ベースでやりとりするが、Clubhouseは音声のみ。しかも、アーカイブが一切残らないリアルタイムのやり取りがポイントだ。日本でも2021年1月より人気に火がつき始め、芸能人やインフルエンサーなどの多くがアカウントを開設し、にわかに注目を集めている。
現時点ではPCでの利用が出来ず、スマートフォンもiPhoneしか利用が出来ないサービスだが、他のSNSサービスと同様にClubhouseの利用はすべて無料となっている。スマートフォンが普及したSNS時代、飲食店が自店の情報発信のためにTwitterやInstagramを使うのは当たり前になっているが、Clubhouseも同様に使うことが出来るのだろうか。詳しい仕組みや使い方は他に詳しいので割愛し、飲食店にとってClubhouseは利用価値があるのか、どう活用すれば良いのかにフォーカスして考察してみる。
飲食店にとってはアイコンと登録名が重要
まずはAppleのApp storeよりClubhouseのアプリをダウンロードしてアカウントを取得しよう。アカウントをアクティブにするには既存ユーザーの紹介もしくは承認が必要となるが、アカウント取得しておけばすぐに誰か知り合いが承認してくれるはずだ。
アカウントの作成で重要なのはアイコンの設定と登録名だ。アイコンは自店のロゴマーク、もしくは自身の顔が良いだろう。Clubhouseは他のSNSと違い、ビジュアルデータを掲げられる場所がアカウントのアイコンしかない。そして他ユーザーと共にアイコンが列挙されるシチュエーションが多い。ここで自店のイメージが決まるので慎重に決めたいところだ。なお、飲食店アカウントでありがちな商品写真は、同ジャンルの飲食店と被ってしまうので、よほどの差別化が図れない限りはやめたほうが賢明だ。
登録する名前は本名登録が原則となっているが、もう一つ「クリエイターエイリアス(creator alias)」を設定する事が出来る。言わばニックネーム、通り名のようなものだ。飲食店の場合は本名で登録して、クリエイターエイリアスに屋号を設定するのも良いだろう。ちなみに@以降のいわゆる「ユーザーネーム」は任意の文字列で構わないが、他のSNSを運用しているならば、認知度を上げる意味でも揃えられるのなら揃えておいた方が良いだろう。
その他の情報としては「バイオグラフィー(bio)」が自由に記入出来るので、自己紹介や店の紹介をしっかりと書いておこう。店名や所在地、営業時間、どんなお店なのかなどを書いておくと良いだろう。また、他のSNSでは「Twitter」「instagram」のリンクを貼る項目があるので、必ず繋げておこう。というのも、Clubhouse上にはDM機能などは用意されておらず、リアルタイムでの会話以外の連絡手段がない。会話の中で繋がった相手とコンタクトを取る時に、TwitterやInstagramでのやりとりが必要となってくるからだ。それらのSNSのアカウントを持っていない人は、このタイミングで必ず取得しておこう。飲食店にとってTwitterやInstagramは今や必須のアイテムだからだ。
SNSは「情報収集」と「情報発信」の両面で
まず、SNS全般に言えることだが、飲食店におけるSNSの用途は「情報収集」と「情報発信」の二つに大別され、これはClubhouseでも同じ事だ。そのどちらの側面においても、飲食店にとってSNSは強力な武器となる。情報収集という観点で言えば、成功した飲食店経営者が語るノウハウなどは、有料のセミナーレベルであることも少なくないし、消費者のリアルな声を聴くことも出来る。情報発信に関しては、YouTube同様に伝えたい内容をストレートに発信することが出来る。それを全て無料で使えるのだから、やらないという選択肢はない。
Clubhouseでまずやるべきことは、関係性の高い人や情報源となるであろう人をフォローすることだ。自分がベンチマークしていたり、リスペクトしている飲食店経営者や業界関係者、インフルエンサーなどはフォローしておきたい。コネクションを構築するのはもちろんのこと、フォローをしておけばそれらの人たちが情報発信している時にチェックがしやすくなるからだ。
次に自分がフォローしている人が「ルーム(room:チャットルームのようなもの)」を開設していたり、スピーカーとして発言しているルームを見つけたら「リスナー(listener)」として参加しよう。すでに上場企業やチェーン展開をしている飲食経営者も多く参加しており、飲食店経営者同士の会話や討論、あるいはウェビナースタイルでレクチャーをしていたりするので、それらを聴いて日々の営業や経営に役立てよう。
Clubhouse慣れてきたら「スピーカー(speaker)」になってみよう。リスナーは「挙手」する事でそのroomの会話に参加する意思表示が出来る。roomを取り仕切るモデレーター(moderator)に承認されればスピーカーになれるので、質問をしたり自己アピールをしたりしてみよう。そこでコミュニケーションを重ねる中で、自身や自店の存在を知って貰い、新しいコネクションを構築していこう。
自身でルームを開設して定期的な情報発信を
最後は自分自身でルームを開設して、自身や自店のブランディングを高めたり、知見を広げていこう。何を考えて、どのようなスタンスで料理を作り、店を営んでいるのか。それをリアルな言葉で伝えるのにClubhouseは向いている。そのためにも、最終的にはやはり自身でルームを開設して情報発信をしたい。
ルームは「パブリック(public:全公開)」「ソーシャル(social:モデレーターがフォローしているユーザー限定公開)」「closed:クローズド(非公開)」と、公開レベルが3段階あるが、原則としては「パブリック」で開設しておきたい。ただ雑談をするだけで良いのなら、別にClubhouseを使わなくてもLINEのグループ会話で用足りる。
Clubhouseの要諦は誰でも自由に聴ける、誰にでも届けられるツールであることと、新しいコネクションを構築しやすいツールであることだ。会話を通じて今までに出会ったことのない人との出会いが生まれ、そこから身近に感じて貰い、自身や自店のファンを増やしていくことが最終的な目的だ。
その上で強く意識しなければならないのは、他者にとって有益な内容を話すこと。例えば自分の経験上語ることが出来る食文化や食材の話は、多くの人にとってメリットのある情報だ。さらには自身の飲食への取り組みや自店のメニューについてなど、伝えたい想いやメッセージを生の声で伝えていく。または仕込み中にその過程を中継したり、リスナーに質問を投げかけてメニューや営業についてのヒントを貰うのも出来そうだ。飲食経験の長い人なら若い同業者に先輩としてのレクチャーやアドバイスをする事も出来るだろうし、生産者や同業者などと一緒に語り合う事も出来るだろう。
定期的なイベント開催でファンを増やす
そして出来れば突発的にルームを開くのではなく、事前に告知する「イベント(event)」として開設した方が、より多くのリスナーを集める事が出来るだろう。通常のルームを開設する場合は共有できるURLを発行出来ないが、イベントで開設した場合は設定したタイミングからURLを発行することが出来るので、他のSNSなどでも告知が可能となり、リスナーを集めやすい利点がある。さらに可能であれば、理想は毎週月曜日の夜10時からなど曜日や時間を決めておけば、やる側も聴く側も習慣になる。
繰り返しになるが、ルームであってもイベントであっても、あくまでもリスナーのために語ることが大事だ。リスナーは自店や自身のファンの場合もあるし、見込み客の場合もある。いずれにしても、スピーカー側で盛り上がるだけではなく、聴き手にとって有益、有意義な話題や情報を伝えるよう心がけることが肝要だ。現状、飲食店経営者同士の会話などを聞いていると、聴き手が置き去りにされてマニアックな職人話に終始したりするケースも多々ある。あくまでも「番組」「コンテンツ」を作る意識でトークをしてみよう。
何も流暢に上手に喋ろうと思う必要はない。飲食が本業であり、トークのプロではないのはリスナーも理解している。しかし、リスナーを意識して会話をするという事は、言わばコミュニケーションの基本であり、お客さんや従業員に対しても同様にしなければならない、日々の生活や業務の中で必須のスキルだ。物怖じせずに場数を踏んでいく事で、トークやコミュニケーションのスキルが上達して、接客や従業員教育にも役立つのは間違いない。Clubhouseを上手に活用する事で、自身の店がさらに磨きがかかって良い店になっていくはずだ。