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歴史的選択の時――スリランカ2024年大統領選挙と未来への行方

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
最新の世論調査でリードしているとされるアヌラ・クマラ・ディサーナーヤカ(写真:ロイター/アフロ)

2024年9月21日、スリランカで行われる大統領選挙は、2022年の経済危機からの復興を目指す同国にとって重要な岐路となります。この選挙は国民にとって、新たなリーダーを選び、経済再建と社会安定の道筋を定める大きな機会です。今回の選挙では、経済再建策や緊縮財政の是非が最大の争点となり、選挙戦は非常に熾烈なものになっています。

< スリランカ、デモ隊が大統領公邸を襲撃。大統領が逃避し、公邸のプールで泳ぐデモ隊員。>

スリランカの「保健政策研究所(IHP)」が実施した最新の「スリランカ世論追跡調査(SLOTS)」では、NPP/JVPのリーダーであるアヌラ・クマラ・ディサーナーヤカが36%の支持率でリードしており、最大野党SJBのリーダーであるサジット・プレーマダーサが32%と僅差で追随しています。現職のラニル・ウィクラマシンハ大統領は28%の支持にとどまり、前大統領ラジャパクシャの息子であるナマル・ラジャパクシャはわずか3%という結果です。この数字は、経済危機後の国民の不満が現職に強く影響していることを示しています。

また、今回の選挙は、過去最多の38名が立候補しており、スリランカの政治に対する多様なビジョンと国民の不満を反映しています。これにより、票が大きく分散する可能性が高く、50%の過半数を獲得できない場合には、上位2名の候補者による再集計が行われる見通しです。注目の候補者は以下の通りです。

ラニル・ウィクラマシンハ――経済再建の経験を武器に再選を目指す

現職大統領のラニル・ウィクラマシンハ
現職大統領のラニル・ウィクラマシンハ写真:ロイター/アフロ


現職大統領のラニル・ウィクラマシンハは、2022年の経済危機後にIMF(国際通貨基金)との協力により、インフレ抑制や燃料供給の安定化を成功させました。特に、彼の国際的なネットワークを駆使した外交政策が評価されています。しかし、国民生活に負担を強いる緊縮政策は、特に庶民層からの反発を招いています。世論調査によれば、ウィクラマシンハ大統領の支持率は28%と低迷しており、再選を果たすにはさらなる支持基盤の強化が必要です。特に、彼がどのように庶民層の不満を解消し、支持を広げるかが焦点となります。

サジット・プレーマダーサ――庶民の味方としての訴え

最大野党のリーダーサジット・プレーマダーサ
最大野党のリーダーサジット・プレーマダーサ写真:ロイター/アフロ

最大野党SJBのリーダー、サジット・プレーマダーサは、庶民層の生活を支援することを最優先に掲げ、IMFとの融資条件の再交渉を訴えています。プレマダサは、緊縮財政に反対し、税負担の軽減や社会福祉の充実を約束しています。彼の政策は地方部や低所得層の支持を強く集めており、世論調査では32%の支持を得ています。この数値は、ウィクラマシンハ大統領に次ぐものであり、彼が庶民層に対してどれだけの説得力を持ち続けられるかが、選挙結果に直結するでしょう。

アヌラ・クマラ・ディサーナーヤカ――反腐敗と改革を掲げる若者の支持

人民解放戦線のリーダーであるアヌラ・クマラ・ディサーナーヤカ(写真中央)
人民解放戦線のリーダーであるアヌラ・クマラ・ディサーナーヤカ(写真中央)写真:ロイター/アフロ

NPP/JVP(人民解放戦線)のリーダーであるアヌラ・クマラ・ディサーナーヤカは、反腐敗を掲げ、特に若年層からの強い支持を集めています。彼の公約は、透明性を重視し、社会的な公正と公平を訴えるものであり、現体制に不満を抱く若者を中心に支持が拡大しています。世論調査によると、ディサーナーヤカは36%の支持を獲得しており、今回の選挙でリーダーとしての存在感を強めています。彼の改革路線がどこまで支持を広げられるかが、選挙結果に大きく影響を与えるでしょう。

ナマル・ラージャパクシャ――ラージャパクシャ家の名誉回復を目指す

親中派として知られるラージャパクシャ一族の末裔ナマル・ラージャパクシャ
親中派として知られるラージャパクシャ一族の末裔ナマル・ラージャパクシャ写真:ロイター/アフロ

親中派として知られる元大統領マヒンダ・ラージャパクシャの息子であるナマル・ラージャパクシャも立候補しており、若者支援やデジタル経済の強化を訴えています。しかし、2022年の経済危機の責任がラージャパクシャ家にあるとされており、彼の信頼回復は困難な状況にあります。世論調査では彼の支持率は3%と低迷しており、彼の家族の名誉を取り戻すための挑戦は厳しいものとなっています。

再集計制度と56%の女性有権者が鍵を握る

2024年のスリランカ大統領選挙では、候補者が50%の過半数を獲得しない場合、上位2名による再集計が行われる制度が採用される可能性があります。今回の選挙には39名もの候補者が立候補しており、票が大きく分散することが予想され、この再集計制度が初めて適用されるかもしれません。このシステムは、国民の最終的な選択をより明確にするために設計されています。

さらに、有権者の56%が女性という事実も選挙の行方を大きく左右します。スリランカは世界初の女性首相、シリマヴォ・バンダーラナーイカを輩出した国ですが、現代の政治における女性の影響力は依然として限られています。今回の選挙には女性候補者はいないものの、女性有権者の投票行動が結果に大きな影響を与えると予測されています。

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経済再建と地政学的バランスを左右する歴史的選択

2024年のスリランカ大統領選挙は、同国の経済再建と政治的安定を決定づけるだけでなく、インド洋全体の地政学的バランスにも大きな影響を与える重要な選挙です。

国内において、各候補者が掲げるビジョンは国民に強く訴えかけていますが、票の分散が予想されており、再集計の可能性も高まっています。そのため、選挙結果の見通しは不透明です。しかし、この選挙がスリランカの未来を大きく左右する歴史的な分岐点となることは間違いありません。国内問題としては、経済危機からの回復や失業率の改善、政治改革が緊急の課題となっており、新政権がこれらの課題にどのように取り組むかが国民の関心を集めています。

一方、中国とインドという二大国との関係構築は、インド洋地域全体の安全保障と経済においても重要な鍵を握っており、スリランカにとって最優先の課題です。ラージャパクシャ政権時代に培われた中国の影響力は弱まったものの、依然として根強く、新政権が今後どのような外交政策を展開するかが、地域の安定にどの程度寄与するかが注目されています。国際社会もスリランカの新リーダーの動向に注視しており、その決断がインド洋地域全体、さらには世界にどのような影響を与えるか、計り知れません。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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