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スリランカに新たな風!腐敗に終止符を打つ革命家、アヌラ・クマーラ・ディサーナーヤカが第9代大統領に

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
アヌラ・クマーラ・ディサーナーヤカ第10代スリランカ大統領(写真:ロイター/アフロ)

スリランカで初めて実施された二回目の集計を経て、アヌラ・クマーラ・ディサーナーヤカ(Anura Kumara Dissanayaka、通称AKD)が同国の第9代大統領に選出されました。これは、長く続いた政治体制を変えたいという国民の強い願いが実現した瞬間であり、スリランカ政治において歴史的な転換点となりました。AKDは、左派政党・人民解放戦線(Janatha Vimukthi Peramuna, JVP)の党首であり、腐敗撲滅と社会正義を掲げたキャンペーンで支持を集め、国民の圧倒的な支持を背景に勝利を収めました。

新大統領決定、スリランカ現地紙の一面を飾る
新大統領決定、スリランカ現地紙の一面を飾る写真:ロイター/アフロ

今回の選挙は、多くの「初」が詰まったものとなりました。AKDは、既存の政治エリートへの強い批判と労働者や貧困層への支援を公約に掲げ、多くの有権者の共感を呼びました。スリランカは近年、経済危機や不安定な政治状況に苦しんでおり、これに対する国民の不満が爆発した選挙でした。特に経済危機により多くの人々が生活に困窮しており、AKDはそうした市民の声を代弁する存在として選ばれました。

AKDの勝利は、スリランカにおける政治の風向きを大きく変えるものであり、既存の政治的なダイナスティ(政治家一族)や、国を長らく支配してきたエリートに対する明確な拒絶の意思表示でもあります。今回の選挙では、民族や宗教の違いを超えて、国民が経済問題と汚職撲滅を主要な争点として選挙を戦ったことが特筆すべき点です。これは、スリランカの政治がより市民の声に寄り添い、現実的な課題に取り組む方向へとシフトする兆しと言えるでしょう。

AKDは、これまでJVPを中心に政治活動を続けてきましたが、その経歴は波乱に満ちています。1987年のJVP暴動以降、彼は学生政治を通じて急速に頭角を現し、1995年にはJVPの中央委員会の一員として活動を開始しました。その後、2000年には国会議員として初当選し、2004年から2005年には農業・畜産・土地・灌漑大臣として政府の一員を務めました。しかし、当時の政治体制に対する批判的な立場を貫いた結果、彼は政府を離脱し、その後も一貫して反体制派として活動してきました。

今回の大統領選挙でAKDが掲げた公約は、特に貧困層や労働者に対する福祉支援、税制改革、そして汚職撲滅に焦点を当てたものでした。IMF(国際通貨基金)との交渉に関しても、AKDはスリランカの利益を最優先に考え、一部の条件の見直しを求める姿勢を示しています。特に、基本的な生活必需品に対する消費税の撤廃や、富裕層への増税を通じて社会の不平等を是正する政策を打ち出しており、多くの国民の支持を集めています。

しかし、AKDが抱える課題は山積しています。スリランカは現在、深刻な経済危機に直面しており、インフレや失業率の上昇、外貨準備の枯渇などが続いています。また、彼の政党JVPは国会でわずか3議席しか持っておらず、安定した政権運営のためには他党との協力が不可欠です。早期の総選挙を実施し、議席を増やすことが最優先の課題となるでしょう。

AKDの当選は、多くのスリランカ国民にとって希望と変革の象徴です。彼の勝利は、腐敗や貧困、経済不安に対する国民の「もう限界だ」という思いが結実したものであり、新たな時代への扉が開かれた瞬間でもあります。これからの数年間、彼がどのようにしてスリランカの未来を切り開いていくのか、その手腕に注目が集まっています。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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