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「何があっても愛ちゃんを支持する!」 なぜ中国人はここまで無条件に福原愛さんを応援するのか?

中島恵ジャーナリスト
結婚会見をしたときの福原愛さん(写真:ロイター/アフロ)

「離婚しようが、しまいが、我々は愛ちゃんを応援するのみだ!」

「愛ちゃんが、無名だった台湾人の夫にいじめられて、ひどい目に遭っている!」

「愛ちゃん、あなたは謝る必要なんかないよ!」

「愛ちゃんがすることは、すべて間違っていないのだ」

「なぜ、日本のメディアで、彼女がこれほど批判されなければならないんだ!?」

 3月3日、元卓球選手で五輪メダリストの福原愛さんの不倫疑惑に関するニュースが日本中を駆け巡ったが、それは台湾や中国でも同様だった。とくに、福原さんの出身地である日本でもなく、家族がいる台湾でもない中国では、微博(ウェイボー)で一時検索ランキングのトップとなり、福原さんを応援する意見が上記のように大量に書き込まれるなど、まるで自国のアイドルに起きた事件であるかのような騒ぎだった。

中国では圧倒的に「愛ちゃん支持派」が多い

 日本と台湾の報道を見ていると、賛否両論、さまざまな意見があるが、日本では、どちらかというと、「幼い子どもを置いてきた」、「夫の家族が(福原さんの)母親の世話をしている」、「離婚していないのに、男性と2連泊」という点に眉をひそめ、否定的な意見が多かったように見える。

 しかし、中国のSNSを見ていると、圧倒的に福原さんを応援しているコメントが多い。もちろん、すべてではないが、中国のメディアでは、日本の新聞や雑誌記事をそっくりそのまま中国語に翻訳していることが多いので、日本に関心がある中国人は、日本の報道をかなり詳細なところまで把握している。

 それらを読んだ上で、日本や台湾で彼女が厳しい立場に置かれていることに憤りを感じ、むしろ「自分たちだけは、何があっても愛ちゃんを応援するから!」といった“全面支援”の論調が目立った。

 以前から、福原さんが中国で人気があることは、日本でも知られていたが、それにしても、今回の報道の反応により、改めて、中国での「無条件」といってもいいほどの福原さんの人気の高さがうかがわれた。それはなぜなのだろうか?

 そこには、福原さんの中国での存在感、そして、卓球王国・中国との関係がある。

中国人にとって、身内のような存在だった

 福原さんと中国との関係が始まったのは、幼い頃からだ。報道によれば、福原さんの兄が最初に卓球を始めたが、兄のコーチが中国人だったので、福原さんにとっても中国人は身近だった。福原さんが初めて中国に渡ったのは、6歳のときだったといわれる。

 2005年、17歳のときに中国超級リーグの遼寧省チームに入団したことは、日本でも大きく報道された。中国超級リーグといえば、日本の「プロ野球リーグ」のようなもので、中国人にとって憧れのスポーツだ。そこで、福原さんは、外国人でありながらチームのメンバーたちと寝食をともにし、中国語をほぼ完璧にマスターし、チームに溶け込んだ。これにより、彼女は中国人から、“身内”のように受け止められ、認められたのだ。

 同じ時期、中国で有名な日本人は何人かいたが、その多くは政治家(小泉純一郎氏など)や、女優・アイドル(酒井法子さんなど)で、中国人の懐に深く入っていくような身近な存在、つまり、「まるで自分の妹のように」低い目線で感じられる日本人は一人もいなかった。

 流暢な中国語(しかも、日本の学校で学んだ教科書通りの中国語ではなく、遼寧省の東北なまりという、多少田舎っぽさを感じさせる中国語)を話す福原さんへの中国人の“親近感”は半端なく、その頃から、福原さんは「小愛」(シャオアイ=愛ちゃん)、「瓷娃娃」(ツーワーワー=陶器のお人形さん)、「愛醤」(アイジャン=愛ちゃん)という愛称で呼ばれるようになり、中国人にとって、特別な日本人となった。

 さらに、中国人に深い印象を残したテレビ番組がある。超級リーグに入った17歳頃に出演した、中国のCCTV(中央電視台=NHKのような放送局)の名物番組『面対面(face to face)』だ。

中国の番組で涙を流したことも

 この番組の中で、福原さんは、自身が受けた卓球のスパルタ教育や、中国のチームの印象などについて率直に語っているのだが、その際、有名キャスターから、彼女の複雑な家族関係や、彼女が経済的に一家を支えているのか?といった厳しい質問が飛び、福原さんが「そんなに難しいことを私に聞かないで。今、私の財布には300円しか入っていません…」といいながら、涙を流したことがあった。これは一部、日本でも報道されたが、中国人にとっても強烈な印象を残し、これを機に、彼女に共感を覚える人が増えた。

 福原さんは、日本人にとっても、幼い頃からメディアで見てきた「泣き虫愛ちゃん」のイメージが強く残っているが、中国人にとっても、子どもの頃からずっと見続けてきたかわいい妹、健気な少女のままだったのだ。

 もう一つ、中国人が福原さんを支持する理由として挙げられるのは、福原さんが他のスポーツの選手ではなく、卓球の選手だった、という点がある。

中国人にとって卓球は特別なスポーツ

 中国人にとって、卓球は特別なスポーツだ。報道によれば、新中国の建国からわずか10年後、1959年の世界卓球選手権で、中国人選手がシングルスで初優勝したことがきっかけで、卓球は中国の「国球」(国の球技)となり、全国的に盛んになっていったとされる。

 1971年には、のちに有名になった「ピンポン外交」が行われた。日本の名古屋で行われた世界卓球選手権に、中国は6年ぶりに参加したのだが、そこで接点のあった米国人の卓球選手を中国に招待し、米国との関係改善につながるきっかけとした外交のことだ。こののち、米国大統領として初めて、ニクソン大統領(当時)の訪中が実現した。

 中国の卓球人口は約3000万人もいるといわれるが、その中から、ごく一握りの才能のある選手だけが、幼い頃に選抜されて、英才教育を受け、オリンピックの金メダルを目指す。中国では、才能のある選手なら、どんなスポーツでも英才教育を受けるが、卓球にはとくに力を入れている。その結果、中国は1996年のアトランタ・オリンピックから2016年のリオデジャネイロ・オリンピックまで、実に20年間も、男女ともにシングルス、ダブルス、団体ですべて金メダルを獲得しており、いまだに「卓球王国・中国」の地位は健在だ。

 それほどまでに国家が力を入れている特別なスポーツである卓球を、日本人である福原さんも愛し、中国のチームにも参加し、卓球を通じて中国のことを理解してくれていたことは、中国人にとって誇らしく、うれしいことだったのだ。

 2008年、中国の胡錦濤・国家主席(当時)が来日した際、早稲田大学で講演を行い、福原さんと卓球の交流試合をしたことがあった。そこで、胡・国家主席は福原さんに次のような言葉をいったとされる。

「あなたは私のことを知らないかもしれないが、私はあなたのことをよく知っていますよ」

 これは中国で大きく報道されたが、つまり、それくらい、福原さんは中国で絶大な人気があったということだ。だから、東北なまりの中国語を話す福原さんが、台湾人と結婚したときにはショックを受けた人が多かったのだが、今回の不倫疑惑は、むしろ「愛ちゃんが私たちのもとに帰ってくるかも」「台湾なまりの中国語は、やっぱり愛ちゃんには似合わない」と喜んでいるようなフシもあった。その証拠に、ネットには、こんな書き込みがあった。

「離婚は結婚の反対語ではない。結婚は幸せになるためのものだが、離婚もまた、幸せになるための選択なのだ」

 福原さんのウェイボーには500万人以上のフォロワーがいるが、日中台で大きな影響力を持つ福原さんは、果たして、これからどんな選択をするのだろうか?

参考記事:

なぜ福原愛さんは幼い子どもと離れ離れでも平気そうなのか? 日本と異なる台湾的子育て事情

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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