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なぜ福原愛さんは幼い子どもと離れ離れでも平気そうなのか? 日本と異なる台湾的子育て事情

中島恵ジャーナリスト
結婚当時の福原愛さんと江宏傑さん(写真:ロイター/アフロ)

 元卓球選手で五輪メダリストの福原愛さんの母・千代さんが昨夜(3月20日)、台湾から羽田空港に帰国したとの報道がありました。

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 報道によると、福原さんの夫の江宏傑さんが、2人の子どもとともに台北・松山空港まで千代さんを見送りにきたとのことですが、2人の子どもはそのまま台湾に残りました。

 上記の記事を見た日本人読者からは「3歳と1歳の子どもたちと2ケ月以上離れ離れなど、どんな事情があろうとも、私なら耐えられない」、「まだ3歳と1歳の子どもを置いて、何か月も…本当に信じられない」といった批判的なコメントが多数ありました。

 介護が必要な母親のこともそうですが、それ以上に、多くの日本人(とくに女性)の目から見ると、3歳と1歳の子どもを置いて……という点に否定的な反応や嫌悪感を示していることがわかります。

 もちろん、最初は会社設立のための「出張」で、おそらく福原さんも、こんなに長い間、子どもと離れることになってしまうとは夢にも思わなかったでしょうし、ご本人も、かわいい盛りのお子さんたちに会えず、とてもつらい思いをしていらっしゃるのでは……と推察します。

 しかし、台湾の報道やSNSを見ると、その点に関して、そこまで否定的な反応をしている台湾人は少ないように感じます。というのは、台湾を始め、中国など中華圏では、母親がずっと幼い子どもと一緒でなければならない、という考え方はあまりないからで、もし何らかの事情で母親が育児をできない場合、他に助けてくれるところがいくつもあり、母親がそこを頼っても、別に誰にも非難されないという、お国柄があるからです。

台湾では、子育ては一家で行うもの

 台湾の場合、以前は夫婦双方の両親(祖父母)が子どもの世話を全面的に買って出るというのは「当たり前」のことでした。近年、台北などの大都市では核家族化が進み、24時間ケアしてくれる産後シッターを活用したり、子どもが少し大きくなってからは、台湾で「保母」と呼ばれるベビーシッターに預けたりするなど、必ずしも祖父母に頼らなくても育児できるような制度が整っていますが、それでも伝統的な考え方はまだ残っており、祖父母は積極的に孫の育児を手伝おうとします。とくに、福原さんが住んでいた南部では、その傾向が強いといわれています。

 育児は夫婦2人で、あるいは、どんなに大変でも母親が中心になって行うものだ、という日本的な考え方はなく、親戚も含めて、一族みんながワンチームのようになって、複数人で助け合って行うもの、子どもは社会の宝だ、という認識や家族観があるのです。

 現に、福原さんのところも、江さんのご両親が一緒に子育てを行っていたようですし、そのような家庭は台湾ではごく一般的です。そういう子育てのやり方について、台湾人の母親は「祖父母が子育てに過干渉している」とか「祖父母が口を出し過ぎる」というふうには思いません。

 台湾では、夫婦共働きであることが基本なので、たとえ祖父であれ、叔母であれ、親しい身内に子どもの面倒を見てもらうことは母親にとって安心で、助かることなのです(しかし、日本人はそう思わないことも多いため、台湾人男性に嫁いだ日本人女性は、子育てのやり方にあれこれ口出しする祖父母や親戚たちに対し、うんざりしてしまうことも多いようですが……)。

母親が長期で家を留守にすることも……

 また、幼い子どもがいる母親がフルタイムで働いている場合、今回の福原さんのように「出張」で遠出することも、台湾や中国などの中華圏ではよくあることです。

 日本人女性ならば「まだ子どもが1歳なので、泊まりの仕事はちょっと……」というためらいがありますし、乳飲み子を抱えているので、物理的に出張は無理、との考えがありますが、台湾では(他に育児を担当してくれる人が複数いるため)、そうした気持ちになる母親は、ほとんどいないといってもいいでしょう。1泊2泊の出張はもちろん、かなり長期にわたって母親が家を留守にすることも、決して珍しいことではありません。

 私の知り合いの台湾人女性は、以前、仕事で3年間の東京赴任となり、その際、幼稚園児だった一人娘を、台北の夫と夫の両親に預けて、一人で東京にやってきました。

 SNSで頻繁に連絡を取っていても、女性は「子どもに会えなくて寂しい」といっていましたが、母親がいないことについて、台湾に住む夫や義理の両親、そして台湾の地方に住む自分の両親も、とくに問題はない、と話していたそうです。ここまで述べてきたように、子育ては「母親がしっかり行うべき」といった考え方を、そもそも持っていないからで、家族皆で助け合えばいい、と思っているからです。

 日本では、幼い娘を夫に託し、しかも夫の両親にも育児を頼むというのは、あまりないことですし、もし家族がそれを認めたとしても、世間が許さない、といった風潮があると思います。そして本人にも、「夫の両親に子育てを任せっきりにしたくない」といった気持ちがあると思いますが、そこには、「子育ては、誰が行うべきものか?」といった根本的な考え方や価値観の違いがあると思います。

 福原さんは、冒頭で書いた通り、もともと長期で子どもと離れるつもりはなかったと思いますし、子どもと離れて平気な母親など、どこにもいないと思います。しかし、台湾で、福原さんや江さんの個人的な行動(不倫疑惑やモラハラ疑惑)に対する批判はあっても、子育ての部分について、福原さんにあまり批判が起きていないのには、そういう子育て観の違いがあるからだと思います。

参考記事:

「何があっても愛ちゃんを支持する!」 なぜ中国人はここまで無条件に福原愛さんを応援するのか?

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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