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入社式のない4月1日、新入社員の皆さんへ・・「作家・山口瞳」からの伝言

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

4月です。しかも4月1日。いつもの年であれば、学校なら入学式、会社なら入社式が行われる日です。

残念ながら今年の4月1日は違ってしまいました。新型コロナ禍のために、入学式も入社式も、ほとんど行われていません。これは東日本大震災のあった2011年以来の事態だと思います。

しかし、昨日まで学生だった皆さんも、今日からは社会人であり、新入社員だったりします。入社式があろうがなかろうが、やはり「新入社員諸君、おめでとう!」と言いたいです。

今から何十年も前の4月1日、私も大学を卒業したばかりの新入社員として、某出版社の入社式に臨みました。といっても、板の間の社長室で、創業社長(故人)のお話を聞いただけでしたが、やはり緊張していたのを覚えています。

大きな会社ではないので、新入社員は男女合わせて7~8人だったと思います。その同期の中に、声の大きいハギワラという男がいて、何年か後、赤坂の本屋さんで再会した時には、「音楽評論家・萩原健太」になっていました(笑)。

当時、毎年4月1日には、作家の山口瞳さんが書いた、新入社員(新社会人)に向けたエッセイが新聞に載ったものです。

山口さんが亡くなって一時中断し、その後は伊集院静さんが執筆されるようになりました。今朝も、新聞で伊集院さんの文章を読ませていただきました。提供は、ずっとサントリーです。

毎年、この時期に読み返すのが、山口瞳さんの『新入社員諸君!』です。手元にあるのは、自分が社会人になった1978年(昭和53年)の春に購入した角川文庫版。下の写真でわかるように、かなりよれよれですが、今年もページを開きました。

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この中に、「新入社員に関する十二章」という文章があります。元々書かれたのが1963年(昭和38年)頃で、今年の新入社員である皆さんにしてみれば、気の遠くなるような歴史の彼方、はるか昔の文章であることは確かです。

しかし、山口さん自身も文中でおっしゃっているように、「時代が変わっても、変わらぬ人生の知恵がある」と思うのです。

以下に、山口さんが新入社員への助言として挙げた、12項目を抜き出してみます。

1 社会を甘くみるな 勉強を怠るな

2 学者になるな 芸術家になるな

3 無意味に見える仕事も厭がるな

4 出入りの商人に威張るな

5 仕事の手順は自分で考えろ

6 重役は馬鹿ではないし敵でもない

7 金をつくるな 友をつくれ

8 新人殺しに気をつけよ

9 正しい文字を書き 正しい言葉をつかえ

10 グチを言うまい こぼすまい

11 思想を持て ビジョンを描け

12 節を屈するな 男の意地をまげるな

これらを眺めるだけでも、かなり色々感じることがあるのではないでしょうか。

たとえば山口師曰く、「まず、会社へはいったら、学校とちがっていろんな人間がいることを知っておいてください」。

そう、キツネもタヌキも、オオカミだって生息するのが会社です。でも、だからこそ、一人ではできない仕事も可能になる面白さがある。

また師曰く、「誠心誠意ではたらき有能な社員になってください。有能な社員とは、役に立つ社員のことです。そして役に立つ社員とは、何か自分のものを持っている社員のことです」。

これも至言です。いま「自分のもの」として何を、どれだけ持っているのか。新人じゃない人でも、常に再点検すべきことなのです。

さらに、山口さんは言います。

「新入社員よ、ボヤキなさんなよ。ブウブウいうなよ。キミタチは新人なんだよ。一所懸命やれよ。勉強しなさいよ。勉強といってもいろんな勉強があるんだよ。それを知るのが勉強なんだ」。

社会に出ると、自分がいかに無知であるかがわかってきます。そんな時、この言葉に励まされました。

とはいえ、皆さんには、まだ「なんのことやら」かもしれませんね。

でも、ちょっとだけ頭の隅に置いておくといいと思います。いつか、きっと何かの形で、心当たりがあるはずですから。

というわけで、我が教え子たちを含む新入社員の皆さん、まずは「一人前」を目指して、スタートしてください。 

いろいろ大変な時代だけど、それでも元気で!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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