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「ひつじのショーン」作り手たち、京アニへ愛よ届け。「われわれアードマンの火災と比べてはいけないが…」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ポール・キューリー(左)とジム・パーキン。マカオ国際映画祭にて。(撮影/筆者)

今週末(12/13)、日本でも劇場公開される『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』。大人気シリーズの劇場版第2作はマカオ国際映画祭でも上映され、プロデューサーのポール・キューリーと、クレイ・アニメーターのジム・パーキンがインタビューに応じた。

インタビューの最初に、ポール・キューリーが語り出したのは、日本でのあの悲劇についてだった。

「われわれアードマンは、京都アニメーションの作品を愛しています。そして、アードマンも10年以上前ですが、火災の悲劇を経験しました

映画祭でのイギリス映画のパーティーには、ショーンとティミーも参加。(撮影/筆者)
映画祭でのイギリス映画のパーティーには、ショーンとティミーも参加。(撮影/筆者)

アードマンは、この「ひつじのショーン」や「ウォレスとグルミット」などを製作してきた、イギリスのアニメーション・スタジオ。今から14年前の2005年、このアードマンの倉庫で大火災が発生した。倉庫は全焼。「ウォレスとグルミット」シリーズのセットや小道具の数々、受賞したトロフィーなど倉庫内の物がすべて焼失してしまったのだ。クレイ(粘土)モデルを少しずつ動かすストップモーション・アニメが持ち味のアードマンにとって、「現物」は大切な遺産。それが失われたショックは計り知れないほど大きかったはずだ。

大ヒットが知らされた日に、大切な物たちが焼失した

この2005年は、「ウォルスとグルミット」の初の長編映画『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』が公開された年であり、火災が起こった10月10日は、同作がアメリカで初登場1位が確定した日でもあった。日本を含め世界中のアードマンのファンが大きな衝撃を受けたのである。

「もちろん京都アニメーションの悲劇を、われわれアードマンの火事と比べてはいけないと思います。才能ある多くの若き命が失われたわけですから」と、ポール・キューリーは続ける。「私たちは京都アニメーションの悲劇に寄り添っているような気持ちです。彼らが少しずつでも未来に向かって進み、またすばらしい作品を完成させることを祈るのみです。国を超えたアニメーションの仲間として、深い愛を捧げ、サポートできることを探したいです」

クレイ・アニメーターのジム・パーキンも神妙な面持ちで次のように付け足した。

「京都で起こったことに、私も信じられないショックを受けました。心の奥からシンパシーを感じています」

ルーラとショーンには不思議な絆が生まれ、大アドベンチャーを繰り広げる。(c) 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.
ルーラとショーンには不思議な絆が生まれ、大アドベンチャーを繰り広げる。(c) 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.

『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』では、ショーンたちが暮らす町に宇宙船が着陸。宇宙人のルーラはショーンと仲良くなるが、「宇宙人探知省」がルーラを捕獲しようとする物語。ショーンの世界がSFと合体しつつ、いつもながら、いや、いつも以上に遊び心が溢れ、名作へのオマージュもたっぷりというアードマンのファンを喜ばせる仕上がりだ。

新キャラであるルーラは、従来の宇宙人のイメージを変えるキュートすぎる外見。ジム・パーキンによると「一見、シンプルなデザインですが、この小さなモデルの中に複雑な金属の構造が隠れているんですよ。3Dプリンターや新たなデジタル技術も、この皮膚の内側に役立っており、それは初期に作ったショーンやティミーのモデルとだいぶ違いますね」と、ルーラを手にしながら説明する。

細かすぎる仕事だからこそ、遊び心は重要

デジタル技術が使われているといっても、モデルを少しずつ動かして撮影する手法は変わっていない。「今でも、平均して一人のアニメーターが、1日、1.6秒の映像を完成させることを目標にしています。しかもこのサイズのモデルが、劇場のスクリーンでアップになるわけですから、眼球の動きにも細心の注意が払われるわけです」と、ポール・キューリー。

テーブルにモデルを置いてインタビューに答える。(撮影/筆者)
テーブルにモデルを置いてインタビューに答える。(撮影/筆者)

そしてキューリーは、アードマンでつねに失ってはいけないことに「遊び心」を挙げる。「今回の原題『Farmageddon』(ファルマゲドン=アルマゲドンを文字ったもの)は、みんなでジョークを言い合っていたときに、ニック・パーク(※)が思いついた言葉です。SF映画へのオマージュにしても、そんな風にワイワイ話しながら、アイデアを出していった感じ。われわれクリエイターは、基本的にSFオタクですからね」

ストップモーションの撮影は、細心の注意と、熟練のテクニックが要求されるので、神経を擦り減らす作業であることは間違いない。だからこそ、遊び心を忘れない環境が不可欠なのだろう。

今後も「ひつじのショーン」シリーズは新作を製作し続ける予定だと語るポール・キューリー。「いつか実写化するのもいいかもしれませんね。その時は、ぜひ日本の牧場で撮影させてください」と、インタビューでもアードマン流の遊び心は忘れないのであった。

※ニック・パーク:1985年にアードマンで「ウォレスとグルミット」の最初の作品『チーズ・ホリデー』を完成させた。アカデミー賞を4度受賞した、アードマンの中心的クリエイター。今作では製作総指揮に名を連ねている。

(c) 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.
(c) 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.

『映画 ひつじのショーン UFO フィーバー!』

12 月 13 日(金)、全国ロードショー

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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