Yahoo!ニュース

グッチ裕三氏のメンチカツ店問題から「知らないふり紹介」を考える

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

自身が役員を務める店を絶賛

Yahoo!ニュースのトピックで<「グッチ裕三」紹介のメンチカツ屋、自身がオーナーだった 周囲からは苦情>が取り上げられました。

内容は以下の通りです。

テレビのバラエティ番組などで浅草のメンチカツ屋を大絶賛。おかげで、行列の絶えない名物グルメ店となったものの、食べ歩き客があふれ、他の店舗から苦情が出ているという。しかも、このお店、実はグッチ裕三自身がオーナーで、そのことを隠して、宣伝していたのだ。

出典:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170711-00523483-shincho-ent

グッチ裕三氏は、自身がプロデュースする居酒屋については公にしていますが、自身が役員を務める店については、公にしていないとすれば、とても残念なことです。

少し前に、食べログの有名レビュアーが特定の店から過剰接待を受けており、公平感を欠いた採点になっているのではないかと批判がありましたが、この記事が本当であるとすれば、それどころの騒ぎではありません。

今回の件では、放送されることによって最も恩沢に浴する人間が、全く利害関係がないように振る舞っていたことになるので、次元が違ってくるでしょう。

続編もトピックに

それから数日後、<ステマはよくある話?テレビ番組は芸能人オススメ店の事前調査をしないのか>でも、この問題が取り上げられていました。

こちらの記事タイトルへの回答としては、「事前調査をしない」がほとんどを占めており、そうであるからこそ比較的「よくある話」になっていると私は考えています。

前者「事前調査をしない」は、そもそも今のテレビ制作の現場では昔と異なり、事前調査するだけの人もお金も時間もないからです。

事前調査しないことをよいとは言いませんが、その都度その都度、紹介者と、紹介される店や食べ物との関係を調べていったら、テレビに限らず、コンテンツ制作の現場は回らなくなるのではないでしょうか。あくまでも、紹介者の善意と常識に委ねられている部分があります。

知らないふりをして紹介

話を戻しましょう。

グッチ裕三氏は自身が関係する店を紹介しましたが、この問題の本質は「知らないふり紹介」、つまり、紹介者が、紹介する店の関係者とつながりがあるにも関わらず、全く知らないふりをして紹介していることです。

視聴者や読者を欺くということでは、ステルスマーケティング(ステマ)と言えるでしょう。ただ、今回の件は、金銭やそれに類するものを受け取った対価として宣伝しているわけではありません。

金銭やそれに類するものの授受がないにも関わらず、ステルスマーケティングを行うのは、どのような場合があるでしょうか。

紹介する店が、紹介者にとってどのような関係にあるかを分類してみます。

  • 自身や親類の店
  • 知人の店
  • それ以外の店

私の見聞きしている範囲で、それぞれについて考えてみましょう。

自身や親類の店

まず始めに、紹介者自身や親類が所有する店を紹介する場合です。今回のケースでは、紹介者の妻が代表を務めていたとあるので、これに属します。自身や親類の店を、紹介者が非利害関係にある第三者として評価し、紹介することは最も悪質でしょう。何故ならば、紹介者自身が大きく利益を得るからです。

ただ実のところ、このケースはそれほど多くないように思います。理由は単純で、インフルエンサー(紹介者)とオーナーなどが一致することは稀だからです。加えて、紹介者がインフルエンサーや著名人である場合には、知らないふりをするよりも、逆に自身の店であることをアピールして注目を浴びようとするので、むしろ隠さないことが多いでしょう。

知人の店

次は知人の店ですが、頻度としてはこれが最も多いのではないかと考えています。店の関係者が知人であることは全く触れずに、店を頻繁に紹介しているケースを、実際に私も知っています。

紹介者としては、知人の助けになるとして、親切心から紹介したとは思いますが、第三者として紹介するようにみせるのは受け手に対して不義理です。

この場合には、知人がオーナーとなっている店は素晴らしい店であり、応援もしているので紹介したと述べた方がよいと考えています。

紹介者はインフルエンサーであるので、そのインフルエンサーの知人である方が、受け手にとっても親近感や興味を持つのではないでしょうか。

ただ、知人の店というケースでは、どこまでの知人であれば明示しておくべきかという線引きが難しいです。店をオープンする前からの知人であれば、昔からの知人がオープンした店であると明示しておいた方がよいでしょう。

しかし、二度三度も取材すれば当然のことながら既知の仲となりますし、それ以上取材していれば自然に親しくもなるので、線引きが難しいところです。

私としては、プライベートで出掛けるくらい親しいのであれば、第三者として紹介するべきではないと考えています。

それ以外の店

金銭やそれに類する類を受け取らないのに、自身や親類、ましてや知人でもない店を、知らないふりをして紹介する場合はあまり思い付かないかもしれません。

ただ、実際のところ、ないことはありません。知人や仕事で付き合いのある人から紹介して欲しいと頼まれることがあれば、金銭やそれに類するものを授受しなくても紹介することはありうるでしょう。

今回は、紹介者が知らないふりをして紹介することに焦点を当てているので、知らない人の店を紹介するこのケースについては、これ以上は深く追いません。

基本的には周知するべき

芸能人が関係している店について言及すれば、はるな愛氏はお好み焼きや鉄板焼など複数の店を、小倉智昭氏は焼肉店を、デビット伊東氏はラーメン屋を経営しており、それぞれ自身がオーナーであることを堂々と公表してセールスポイントにし、成功を収めています。

今の情報化社会では、いずれかは誰がどの店を経営しているのか分かってくるものなので、隠しておくことはできません。

もちろん、芸能人であっても店の経営に失敗することはありますが、グッチ裕三氏ほどの知名度と料理の腕前があれば、おそらく自身の店であると周知した方がよかったのではないでしょうか。

知っているのに知らないふりをして紹介した場合、グルメ業界では著しく信用を落とします。それだけのリスクを犯してまで隠して紹介するメリットはないはずです。グルメを紹介する立場にある者はよく気を付けなければなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事