「天才」横山やすしの“謹慎”が「やすきよ漫才」にもたらしたもの
6日放送の『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ)では、「天才漫才師 豪快人生の真実スペシャル」と題して横山やすしが特集された。
彼は中居正広も驚くハチャメチャな芸人人生を送りつつも、西川きよしと組んで革新的な漫才を生み出した。その漫才映像は番組でも紹介され大きな話題となった。
そこで、拙著『売れるには理由がある』の中から、「横山やすし・西川きよし」の「やすきよ漫才」について書いたものを以下に一部修正の上、再掲します。
やすきよ漫才
きっちりとセットされた髪にメガネ姿の強面。真っ青のスーツに赤いネクタイが映える。横山やすしである。
その隣には、揃いの青いスーツ姿で、これでもかと大きな目を見開いた男が立っている。西川きよしだ。
やすしは、大きなアクションをまじえながら、快適なテンポでボケを繰り返しながら漫才をリードしていく。そんな畳み掛けるようなボケにきよしが激しくツッコミを入れると、やすしのメガネが外れて飛んでいってしまう。
「メガネ、メガネ……」
やすしが、床に手をあてながらメガネを探す素振りを見せると観客から大きな笑いがあふれる。
今度はいつのまにやら、きよしがボケに回る。ツッコミとボケがめまぐるしく入れ替わり、観客は息つく暇もない。横山やすしもきよしのボケの勢いに翻弄されていく。さらには、やすしのギャンブル狂いの生活や数々の不祥事などをイジり倒していく。たまらず、やすしは口癖のようになっていたフレーズできよしにツッコむ。
「怒るで、しかし!」
これが、横山やすし・西川きよし流の「どつき漫才」である「やすきよ漫才」だ。
天才少年漫才師
「日本一の天才漫才師」
横山やすしを人はそう呼んで称える。
彼が最初に一躍脚光を浴びたのは、本名の「木村雄二」としてだった。
中学2年生の頃、同級生とコンビを組んでラジオの聴取者参加番組『漫才教室』(ABCラジオ)に出演。中学生とは思えない達者な漫才を披露し、「天才少年漫才師」と絶賛される。
そのまま審査員長を務めていた漫才作家・秋田實に入門。「堺伸スケ・正スケ」としてプロデビューする。その後、横山ノックに弟子入りし、「横山やすし」を名乗ると、吉本新喜劇の研究生として活躍していた西川きよしと漫才コンビを結成したのだ。だから当初、やすし・きよしは間違いなく、天才・横山やすしがリードするコンビだった。
しかし、「やすしさんが天才、天才って言われたって、『やすきよ』なんだよね」とビートたけしは言う。
実際、横山やすしにとって西川きよしは5人目の相方だ。
デビュー以来、天賦の才能を認められながらも、西川きよしと組むまでは、ブレイクすることはできなかったのだ。
西川きよしはもともと「漫才師」と言うよりは「コメディアン」。どうしても動きや喋りが芝居調になってしまう。そこで編み出されたのが、激しい動きを武器にするアクション漫才だった。メガネを落とし、「メガネ、メガネ……」と探すギャグもここから生まれたものだ。
そして、きよしのコメディアンならではの可愛げが、彼らの漫才にポップさを生み出し、コンビ結成の翌年には上方漫才大賞新人賞、さらにそのわずか3年後には同賞の大賞に輝いた。順風満帆だった。
謹慎処分
そんな矢先、やすしが大きな事件を起こしてしまう。無免許の上、酒を飲んで車を運転し、タクシーと接触事故。それどころか、そのタクシー運転手に暴行したのだ。これにより2年4ヶ月にわたる謹慎処分となった。その後も生涯何度となく問題を引き起こした横山やすしは、誰よりも才能が認められた漫才師であるのと同時に誰よりも世間を騒がした男なのだ。
「もうあかんかな」
落胆した西川きよしはマネージャーの木村政雄に本音を吐露した。
木村は落ち込んだきよしを励まし続け、ひとりでも出演できる番組をブッキングし続けた。
「小さなことからコツコツと」と何をするにも力いっぱいに頑張る西川きよしをテレビ側も歓迎し、使い続けた。
きよしはやすしのいない間、番組の司会などを務め上げ、「やす・きよ」の看板を守り続けた。それが彼に大きな自信をもたらした。
そして横山やすし復帰。ふたりの関係性は対等、もしくはきよし上位になっていた。
復帰漫才で事件をネタにし「反省しとらんやないか!」と頭を叩く。
澤田隆治はそう評している。つまりその後の、漫才師自身の本音語りが支持された「マンザイブーム」の漫才のひとつのルーツとなった。皮肉にも横山やすしの謹慎処分が2人の漫才に革新性をもたらした。
彼らは私生活のエピソードを織り交ぜながら、ボケ・ツッコミが自在に入れ替わりながらテンポよく進行する「やすきよ漫才」としか呼びようのない唯一無二の漫才を生み出したのだ。
「日本一の漫才師」
それは横山やすしだけに与えられた称号ではない。横山やすし・西川きよしのものなのだ。
(※以上、戸部田誠:著『売れるには理由がある』太田出版より)