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親世代が全員少子化世代になる「もう1つの2025年問題」。鍵が1974~75年である訳

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
いろいろおっしゃっていますが(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 一般に「2025年問題」とは第1次ベビーブーム(1947年~49年)生まれの世代が全員後期高齢者になって、年金や医療など社会保障制度の持続可能性が一段と不安視される状況を指します。何しろ年間約270万人が生まれたのです。昨年の出生数が年70万人に届かないと推測されているから、今の4倍近くが産声を上げていた計算となります。

 実はもう1つの「2025年問題」といえるのが「母親の数の減少」です。合計特殊出生率とは1人の女性が一生の間に生む子どもの数を指し、2.07を下回ると次世代の人口が減少します。

 出生率の前提となる女性の年齢は15歳から49歳まで。別の指標である「生涯未婚率」は「50歳時点で一度も結婚をしていない人の割合」です。日本は婚外子の割合が非常に少なく「結婚→出産」の順がほとんどを占めるため、おおよそ50歳で「子は生まない」とみなされています(※注)。

 実はこれらの数値を用いると2025年は母親世代が全員少子化世代になるのです。相当に出生「率」が上がっても分母が減っているため出生「数」は増えません。以下に説明します。

出生率2.07を下回り続ける基点は1974年~75年

 まずは「言わずもがな」ながら大原則を。少々お付き合い下さい。

1)生物学的な性別は男性と女性である

2)生物学的には女性しか子は生めない

3)男性と女性の数はほぼ等しい

 したがって女性が2人以上の子を生まないと次世代の人口は減ります。合計特殊出生率2.07のうち「0.07」は若死にリスクの勘案。

 この2.07を下回った上に以後常態的にそうなった基点はいつかというと1974年の「2.05」から75年の「1.91」あたり。後に一度として「2」を回復していません。先述の統計上の数値である「49歳~50歳」を上限とみなせば、ちょうど50年前から発生している現象で「母親世代が全員少子化世代になる」と申し上げたゆえんです。

肌感覚で憂える余地はなかった

 しかし74~75年時点で「少子化が始まった」と心配する声はほとんどありません。むしろ72年にローマクラブが発表した「成長の限界」で人口増加がリスク因子に挙げられるなど抑制方向を是とする流れの方が優勢でした。

 もっともそうした理論を抜きにしても74~75年時点で少子化を肌感覚で憂える余地はありません。なぜならば第2次ベビーブーム(1971年~74年)と重なっていて回りにウジャウジャと赤ちゃんの泣き声が響いていたからです。

 今から振り返ると第2次ベビーブームは第1次の子ども達、つまり親子という明確な因果関係があって「数」は増えて当然でした。第1次における急増は人口爆発の懸念を生じさせて国も家族計画という名の下で計画性のある出産を推奨していたのです。結果として1957年ぐらいから出生率は「2」前後へと落ち着きます。第2次ベビーブームですら先述のように最終年の74年に2.07を下回っているのです。

次の「ひのえうま」は2026年

 今につながる「少子化が問題だ」との意識がハッキリし始めたのが出生率1.57を記録した89年あたりから。理由は「ひのえうま」という特異な要因で出生率が下がった66年の「1.58」を下回ったので。

 「ひのえうま」生まれの女性は男性を「食う」といった迷信が66年の出生率を急激に押し下げたとみられています。いわば意図的な回避で、それは数字にもあらわれているのです。

1964年 2.05

1965年 2.14

1966年 1.58←ひのえうま

1967年 2.23

1968年 2.13

 このように「ひのえうま」の前後年はその1年前後より有意な上昇がみられます。89年はそうした迷信など何もなかったのに66年を下回ったので「すわっ!」となったのです。

 実は次の「ひのえうま」は2026年。つまり来年に訪れます。としたら前年の今年の出生率または数は上がるかというと「それはない」が定説のようで。純粋に迷信を信じなくなったのもあるし、そもそも66年ですら「数」は136万人と現状の倍近くいたからです。

「2人か多くて3人」から「2人か1人」へとトレンドが変化

 親世代がすべて少子化世代というのは、親世代(とその下)の生まれ育ちで「子は2人」が標準で一人っ子も普通あたりが常識的な環境です。75年からずっと「1」台だから。

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「夫婦の出生子ども数分布の推移」をみると最大値の「2人」が2010年ぐらいまで56%ほどであったのが21年は50.8%。2位は10年まで「3人」であったのを15年から「1人」が逆転。0人もじわじわ増えています。

 つまり「2人か多くて3人」から「2人か1人」へとトレンドが変化しつつあるのです。

夫婦の理想子ども数も右肩下がり

 この傾向は社人研の「夫婦の理想子ども数・予定子ども数、完結出生児数の推移」でもうかがえます。「理想」が右肩下がりを示し、「予定」も「2.01」と2.07を下回った数値で近年推移し、「完結」(結果)は21年で1.94。比較的高めに出る「夫婦」の値でさえこうなっています。

出生数は今後も減少の一途

 以上から理由が何であれ今の親世代は「2人か1人」でほぼ固定され、繰り返すように親世代自体が少子化世代でもあるため分母が年々小さくなっていく以上、出生数は今後も減少の一途をたどるでしょう。直近(23年)の出生率1.20を倍増(2.40)させる「魔法」を発明し得たとしても「数」は66年の「ひのえうま」に及びません

 こうなると政府の「2030年代に入るまでが、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」(23年6月の岸田文雄首相の発言)も甚だ怪しい。分母が縮小し続けるなか何をもって「反転」とするのでしょうか。

「第3次ベビーブーム」は起きたのか

 仮に「ラストチャンス」があったとすれば今年から50歳となって出生率の統計から外れる第2次ベビーブーム世代にあったような。何しろ「数」が多かったので。

 近年の第1子平均出産年齢は約30歳。これを第2次世代へ当てはめると2001年~04年です。ここで「第3次ベビーブーム」が起きていれば。

 出生数に有意な増加はみられず、むしろ減少しています。その理由は出生率の低下。その意味では「第3次ベビーブーム」は来ませんでした。

 ただ前述の社人研のデータをみると萌芽はあったような。この時期のみ「完結」が「予定」を上回る逆転が起きていて夫婦の出生子ども数における「3人」も30%台と前後に比べて高い値を示しています。

 つまり「夫婦」ならば「ブーム」は無理でも「反転」の爪痕ぐらい残せた可能性があるものの世代全体ではそうならなかった。最大の原因は同世代が就職氷河期の直撃に遭ったからではないでしょうか。

今年生まれた子の大卒時点で高齢者数はピークアウトしている

 以上をまとめると親世代の分母が小さく、かつ今後もどんどん縮小していくなかで「数」を増やすという意味での「反転」はほぼ不可能です。「率」にしても「2人か1人」が当たり前の感覚の者に平均「2」以上を求めるのは魔法使いでもない限り達成できそうもありません。

 効果的と思われる少子化対策を打ってもなお「数」が減るならば少ない子どもを大切にするしか方法はないはずです。

 今年生まれた子が大卒(22歳)時点で2047年。少々甘やかして後3年ぐらい面倒を親がみてやるとして2050年。社人研のデータによると、この頃には高齢者数はピークアウトしています。45歳になる2070年の日本の人口は約8700万人。ずいぶんと減るようで「GDPで抜かれた」と話題になった今のドイツより多いのです。国内で比較したら第1次ベビーブームでドカンとかさ上げされた1955年の総人口と同程度。目がくらむほど暗い将来でもないといわばいえます。

※注:あくまでも統計の取り方を示したのみ。高齢出産を認めないといった意図は全くございません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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