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通常国会で「総意」を得ようとする皇族数の確保案とは。主に論じられる2つのポイントを考察

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
一般参賀の様子(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 今年1月24日から始まる通常国会で衆議院議長・副議長間において「安定的な皇位継承に関する」協議を進めて「立法府の総意」をとりまとめる方針で一致したと昨年末に「朝日新聞」が報じました。この件に関して石破茂首相も国会での議論を期待すると既に述べています。

 この「安定的な皇位継承に関する」という言葉が少々誤解を生みやすい。主に議論するのは「安定的な皇位継承策を検討する政府の有識者会議がまとめた報告書」(以下「有識者報告書」)に示された「皇族数の確保を図る」方策です。ややこしいので整理しつつポイントをまとめてみました。

「悠仁さま」までの皇位継承は不変

 有識者会議が一致しているポイントです。皇位継承順1位の秋篠宮さまと次世代の皇位継承資格者(2位)としての悠仁さままでの「継承の流れをゆるがせにしてはならない」と。悠仁さまの次世代(まだ誰も誕生していない)以降は「状況を踏まえた上で議論を深めていくべき」と先送っています。

 要するに悠仁さまとほぼ同世代の愛子さまが皇位を継承する可能性はまったくないのです。ゆえに男系女子(愛子さまが該当)への継承を可能とする皇室典範改正も俎上に乗りません。この点が05年の「男系の子」を認める「皇室典範有識者会議の報告書」と決定的に異なるのです。

天皇の地位は「国民の総意に基く」

 憲法は天皇の地位を「国民の総意に基く」としています。果たして次世代の皇位継承者が悠仁さま一択で愛子さまはあり得ないという前提が「総意」なのでしょうか。少なくともまったく議論する余地がないとまでは言い切れなさそうです。

 立法府(国会)の議員は国民が選び、かつ憲法で国権の最高機関とされているから「国民の総意」≒「立法府の総意」との図式を認めないというのではありません。愛子さまは過去8人即位した「男系女子」で女系天皇でもない。確かにこの辺を05年当時まで巻き戻すと非常に面倒になりますが、愛子天皇待望論が小さくない以上は話し合うべきでは。その結果として従来通りの悠仁さまで行くとなった方が正統性を得られる分だけ悠仁さまにかかるプレッシャーも和らぐ気もするのです。

未婚の内親王および女王が婚姻後も皇族に止まれる

 さて通常国会でまとめようとしている「総意」は「皇族数の確保を図る」の方で「喫緊の課題」だから「皇位継承資格の問題とは切り離」すとしています。理由は簡単で悠仁さま世代にご本人以外の皇族がいなくなる可能性が生じているので。

 なぜそうなるかというと生まれながらの女性皇族(内親王および女王)は現行法だと結婚したらその身分を離れると定まっているからです。そこで現在未婚の内親王および女王が婚姻後も皇族に止まれるように制度を改めるという案が1つ。「有識者報告書」は江戸時代の将軍・徳川家茂と結婚した和宮さまを例示して「皇室の歴史とも整合的なもの」とみなしています。

 現在の未婚の男性皇族は悠仁さましかおられないから該当する愛子さま、秋篠宮家の佳子さま、三笠宮家の彬子さまと瑶子さま、高円宮家の承子さまの計5殿下が結婚するお相手は皇族以外しかあり得ません。としたら配偶者と子も皇族になるのか。その子が男子だと歴史上例のない「女系天皇」になりはしないかと反対論も根強い。

皇族が増えるわけではない

 そこで「有識者報告書」は配偶者と子は一般国民のままという案を示しているのです。でも現実的に可能なのか。「家茂が皇族となることもありませんでした」といわれても、いやいや彼は将軍という別の特権的身分を有していたわけで。

 しかも上記5殿下は結婚とともに皇籍を離脱するのを前提として育ってきました。ご本人の意思を無視して「法改正したから今後は一生皇族です」と決めつけられますまい。といってご本人の意思に委ねるとなれば違憲の恐れも出てくるのです。

 5殿下は皆、悠仁さまより年上で配偶者も子も皇族にならないのであれば結局のところ皇族が増えるわけではないので将来的な「皇族数の確保を図る」案とも言い難いという矛盾もはらみます。

旧宮家からの養子縁組みを可能にする

 もう1つの案が「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」。主として敗戦後に皇籍を離脱した旧11宮家の男系男子を対象とします。既婚者も「有識者報告書」は排除していませんが相当に無理があるので未婚者としたら数人が該当するのです。

 迎え入れを説得できたとして「どこに何人」まで決めるのは至難の業。「有識者報告書」は民法の規定を援用しています。としたら養親がいる宮家というのが順当です。言い換えると断絶した宮家というわけにはいかないのです。

 としたら秋篠宮家、常陸宮家、高円宮家。高円宮家は久子親王妃が当主だから養親の対象。三笠宮家は崇仁親王妃の百合子さまが昨年亡くなられ当主が誰になるか今のところわかりません。

 「宮家」「当主」に法的な根拠はないので民法の規定のままならば独身を含む20歳以上ならば男女とも養親になれはします。ただ内親王および女王だと先の婚姻後の皇籍離脱制度に決着をつけないと整合性が取れない状況が訪れるのは必至です。

天皇の年下に6人の男子がいても今日のような状況になった

 仮に数人の未婚男性を旧宮家から迎え入れたとして安定的な皇族数の確保につながるかも微妙。11宮家が皇籍を離脱した際の片山哲首相は継承資格者の男子を昭和天皇(当時)以外に子が2人(上皇さま常陸宮さま)および弟の3人(秩父宮さま、高松宮さま、三笠宮さま)さらに三笠宮家の寛仁さまの6人がいらっしゃるので「皇位継承の点で不安が存しないと信ずる」と述べています。

 結果論とはいえ天皇の年下に6人の男子がいても今日のような状況になってしまったのです。「有識者報告書」は「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たない」とし暗にその方々の子が男子であって、かつ悠仁さまに男子が生まれなかったら継承者にするとの含みがあるも思惑通り「安定」するのかは神のみぞ知る領域です。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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