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最新のアイサイト・ツーリングアシストを備えたスポーツモデルWRXS4に乗る

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

スバルWRX S4は、かつてWRC(世界ラリー選手権)を席巻したラリーマシンの市販版である、WRXSTIと血を分けたモデルである。大きな違いはWRXSTIには、WRC時代から用いられる2.0Lの水平対向4気筒ターボエンジンが搭載されて、トランスミッションが6速MTのみとなるのに対し、S4では新世代の2.0L水平対向4気筒直噴ターボエンジンが搭載され、スポーツリニアトロニックと呼ばれるCVTを組み合わせることだろう。そう、S4はWRXSTIのエッセンスを、AT免許でも味わうことができる1台ともいえるし、MTが欲しいけれども様々な制約上2ペダルでなければならない人のための1台ともいえる。

しかしながら、その性能はWRXSTIに匹敵する。搭載される新世代の2.0L水平対向4気筒直噴ターボエンジンは、最高出力で300ps、最大トルクは400Nmを発生する。対してWRXSTIは最高出力が308ps、最大トルクは422Nmだ。つまり、S4はスポーツ性能をより多くの人に解放したモデル、と言って良い1台である。

そんなS4が今回、年次改良を行なって進化を果たした。今回は非常に細かな改良を施しており、前後のガラスの板厚をアップしたり、遮音材等をより多く使ったりするなどして、静粛性を向上させている。さらにパワーステアリングの構造を変更することで、より滑らかなフィーリングを実現するなどしている。またサスペンションもリファインして、乗り心地の向上とハンドリングの高次元でのさらなる両立を図った。

そうした結果得た走りのフィーリングに関しては、筆者の試乗動画で確認していただきたいのだが、今回のトピックはそんなスポーツモデルであるS4にも、スバルのお家芸である安全装備であり、ほぼ自動運転を可能とする領域に達した、「アイサイト・ツーリングアシスト」を備えたことだろう。

アイサイト・ツーリングアシストは、これまでのアイサイトの機能に加えて、さらに0〜60km/hの速度域でもハンドル操作をクルマの側が自動で行うようになった。これまでのモデルでは60km/h以上で作動して車線と車線の間に車両を保持する機能だったが、0~60km/h領域をカバーしたことで、例えば高速道路での渋滞時にもハンドル操作をアシストしてくれるようになった。加えてこれまでは、車線と車線の間に車両を保持する機能だったものが進化して、例えば車線がなくても前走車両を捉えて追従する機能を手にいれた。またステレオカメラで前走車両の動きと車線の両方を確認していることで、前走車両が分岐でいなくなっても、そちらについていかないような判断をするようにもなった。

また前走車両への追従時には、前走車両がブレーキを踏んでからの再加速等で、自車は一旦ブレーキをかけてからアクセルを踏み込むまでのタイムラグがあったが、そうした部分でもより人間の操作に近い、違和感の少ない作動をするようにもなった。

このツーリングアシストに関しても、筆者がテストコースで試した動画があるので、そちらを確認していただければと思う。また同時に、このツーリングアシストに関する記事はこちらを参照にしていただいたい→「高速はクルマまかせ!? スバルのアイサイト・ツーリングアシスト登場」https://news.yahoo.co.jp/byline/kawaguchimanabu/20170619-00072284/。

こうしてWRX S4は、スポーツモデルでありながらもアイサイト・ツーリングアシストを備えるという、とても先進的なスポーツモデルになったといえる。特に国産モデルでは、スポーツモデルに安全装備や運転支援が備わっているものは皆無であるため、高く評価できる部分である。対して欧州のスポーツモデルは、数年前からほぼ例外なくこうした運転支援システムを備えており、様々なシーンで使用してみて、これは確かにあると便利だし、スポーツモデルだからこその、理にかなった装備であると筆者は考えている。

しかし一部のクルマ好きの間では、運転支援システム等に対する誤った認識があるため、「スポーツモデルは自分で運転するからこそ楽しいのだから、安全装備や運転支援システムは不要」というような意見が少なくない。が、運転支援システムはある程度まで自動運転的な領域に踏み込むようになったものの、操作に対しては必ずオーバーライドして作動するため、ドライビングを邪魔するものではなく、むしろ運転時には絶対に起きる不注意での危険を回避してくれる優れた装備でもある。

「こうした安全装備は信用ならない」「自分で運転した方が安全」という意見もかなり目にするが、そもそも全てのドライバーは完璧な運転などできないわけで、運転していれば腕の上手下手を問わず、誰もがヒヤリハットを必ず経験することは間違いない。そうした時に、事故につながるか手前で留めてくれるかも、こうした安全装備や運転支援システムの有無によって明暗が大きく分かれる。また最近はほとんどの新車に装着される自動ブレーキに対する認識も以前に調査した時には約3割の方が誤認しており、緊急時以外の(普通の)状況でも自動的にブレーキ操作をしてくれるものだと思っている人も多い(←この調査に関する記事はこちら「話題の自動ブレーキについて、誤解してませんか?」https://news.yahoo.co.jp/byline/kawaguchimanabu/20161217-00065544/)。

一方で筆者は以前にも、スポーツモデルにこそこうした運転支援システムや安全装備は必要、ということを提唱している(←こちらの記事は「トヨタ86やスバルBRZにこそ(スポーツカーにこそ)、必要なもの」https://news.yahoo.co.jp/byline/kawaguchimanabu/20160707-00059737/)。走りを楽しむスポーツモデルだからこそ、いざという時に作動してくれる安全装備は必要だし、運転そのものを純粋に楽しむ車だからこそ、運転を楽しむ行き帰りの高速道路等ではドライバーに負担がかからないよう運転支援システムがあるべき、と思っている。運転支援システムはもちろん、使う使わないは個人の自由ではあるが、これらの運転支援システムの機構を用いることで、緊急時にドライバーの意志とは無関係に危険を察知して作動する安全装置が備わっている場合がほとんど。そう考えると、スポーツモデルだろうがそうでなかろうが、こうした装備はあるに越したことはないのだ。

そうした意味においてWRX S4はツーリングアシストという、ほぼ自動運転といえる領域の運転支援システムを備えたことで、国産車においても今後のスポーツモデルのあるべき形をも示唆している。そして何より、走りを楽しめるスポーツモデルありながら、安心・安全を高次元で担保してくれている。特に自身の趣味をも兼ねるスポーツモデルであれば、自分の不注意でクルマを傷つけることは避けたいはず。そうした意味でもこれらは、保険といえる装備でもある。

またスポーツモデルが欲しいと考えている人は多いと思うが、様々な事情でそれが叶わないことがままある。例えば家族での使用もそうだし、自分だけでなく妻や子供も運転するのでATでないと無理…というような場合だ。しかしS4の場合は、そうしたニーズに応えることができる。また自分が仕事をしているときに、家族が運転をすると考えた場合、いざという時に高い次元で安全を担保してくれるクルマを選びたい…そう考えた時に、スポーツモデルを手にしつつも、その他の要件を満たしてくれる1台でもあるわけだ。

そしてこうした動きが、他の国産スポーツモデルにも広がれば、もっと積極的にスポーツモデルを選べるような環境も生まれる。その意味でもS4のようなモデルの動向には注目できるのだ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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