話題の自動ブレーキについて、誤解してませんか?
自動ブレーキは、前走車追従機能の完全停止とは異なるもの
先日もここにニュースとして予防安全アセスメントの記事を上げたが、この記事内でも、
と記したように、最近「自動ブレーキ」というものが多くのクルマに装着されるようになった。
自動ブレーキというのは簡単に説明すると、走行中にクルマが他車や歩行者等とぶつかりそうになった時に、クルマの側で自動的にブレーキを操作してくれて、被害を軽減したり回避してくれたりする(状況や天候等によるので100%ではない)機能。
当初は対車両への衝突を回避したり軽減したりする機能だったが、最近では技術が進んで対歩行者への衝突を回避したり軽減したりできるようになった。上記のニュースはそうした事情を受けての新評価項目でもある。
自動ブレーキはメーカーによって呼び名も様々で、被害軽減ブレーキというところもあれば、写真のようにスバルはプリクラッシュブレーキと呼んでいるものもある。メカニズムとしてはカメラやレーダーで対象物を検知して、現在走行中の車速から衝突が回避できる場合は回避、回避できない場合でも被害を軽減するようブレーキをかける仕組みとなっている。そう、あくまでも緊急時に作動するブレーキである。
しかしこの自動ブレーキの機能について、認識違いをしてしまっている人も少なくない。筆者自身も、誤って理解をしている方も少なくないだろうなと以前から感じていた。
というのも最近の自動車は、前走車に追従して走行する機能、アダプティブ・クルーズ・コントロール(以下ACC)が搭載されたものが増えてきている現状があるからだ。皆さんも最近、TVその他で前走車に追従して走行するクルマを目にしたことがあるかもしれない。例えば渋滞で前走車が停車するのにあわせて、自車がブレーキをかけてとまってくれる…アレである。この機能はやはりカメラやレーダーを使って前走車と自車の距離と速度差を常にみており、ここからアクセルやブレーキをクルマの側で自動で操作してくれて、ドライバーはハンドルを握っているだけで走れる、という機能である(一部ハンドル操作もアシストしてくれるクルマもあるほど)。
完全停止をサポートしていない前走車追従機能が存在する
しかしこの機能がクセもので、実はメーカーによって「作動速度域」が異なっている現状がある。例えば0~100km/h(全車速域とも表現される)となっているものがあるのに対し、他のメーカーでは30~100km/hとなっているものもある。どういうことかというと、前者の場合は例えば高速道路で渋滞して前走車が停止した際には自車もそれに合わせて停車する機能を持つ。しかし後者では30km/h以下の速度となると、作動速度域外となるため機能がキャンセルされる。つまり自分でブレーキ操作が必要となってくるわけだ。
図はトヨタの公式HP内のクラウン・アスリートの安全性能のページ内における、レーダークルーズコントロールの説明
だが、結構な割合の方が自動ブレーキと聞くと、そこには完全停止までする全車速域のACCが備わっている、と勘違いしている。つまり自動ブレーキが備わっていれば、渋滞時に前走車が止まれば自車もそれに併せてスマートに停車すると勘違いしているわけだ。しかしもちろん、これは作動速度域が30~100km/hのACCでは対応していない。これでもし渋滞時にクルマが止まってくれるものと思ってブレーキ操作しないでいると、警告がなった後に衝突回避や軽減のため、本当に緊急時に必要な自動ブレーキが作動するはめになる。つまり、
1.アダプティブクルーズコントロールが全車速域対応 =渋滞時に停車にまで対応する。
2.アダプティブクルーズコントロールが30~100km/h =渋滞時に30km/h以下は作動しない。
実に約3割の人が機能を勘違いしている
ということになる。ではどのくらいの割合の方が認識違いしているかを知るために今回、筆者は自分がFacebook上で持っている2つのコミュニティでアンケートを行ってみた。1つは自動車のコミュニティである「LOVECARS!」。そしてもうひとつは自転車のコミュニティである「大人の自転車部」である。なぜ自動車と自転車のコミュニティでアンケートを行なったかというと、自動車のコミュニティの場合こうした機能に詳しい人が多いだろうと考えたため。そして自転車のコミュニティであれば、より一般的な認識が回答として得られるだろうと考えたからだ。
アンケートは「自動ブレーキとは?」という問いに対して、こちらが用意した回答を複数選択可で選んでいただく方式。答えは以下の6つで、
【1】渋滞走行時等にクルマがドライバーに代わって自動的にブレーキ操作してくれるシステム
【2】走行中の緊急時にクルマがドライバーに代わって自動的にブレーキを操作してくれるシステム
【3】【1】と【2】の両方の機能を備えたブレーキシステム
【4】ブレーキだけでなく、アクセルも自動的に制御して前走車に追従走行してくれるシステム
【5】ドライバーがブレーキを踏むと、あとはペダルから足を離してもブレーキを保持するシステム
【6】正直どんなものなのか、よくわからない(こちらは自転車のコミュニティでのみ設定)
とした。まず自動車のコミュニティでの結果だが、回答の総数は138票。そのうち
【1】13票
【2】94票
【3】28票
【4】3票
【5】1票
となった。ここからこのコミュニティでは、68%の人が正しく認識しているが、残りの32%の人は勘違いをしているとわかった。中でも先に記したアダプティブクルーズコントロールも含めたものだと思っている人の割合は20%と多く、自動ブレーキ=ACCだと思っている人自体も9%いるという結果となった。
では次に自転車のコミュニティでのアンケート結果を見てみよう。回答の総数は702票。そのうち
【1】22票
【2】504票
【3】143票
【4】12票
【5】0票
【6】21票
となった。ここからこちらのコミュニティでは、72%の人が正しく認識しており、残りの28%の人は勘違いをしているとわかった。中でも先に記したアダプティブクルーズコントロールも含めたものだと思っている人の割合はやはり20%で、自動ブレーキ=ACCだと思っている人も3%いるという結果となった。
もちろん実際に自動車を購入するという段になれば、ディーラー等から操作や作動についての説明がなされるので、機能を勘違いしたまま購入ということや、機能を勘違いして使用するということはないだろうが、約3割という結構多くの方が認識違いをしていた現状があったので記事にした次第だ。
そこで併せて情報として付け加えておきたいのだが、おそらくこれから購入される新型車の多くは自動ブレーキは備えているだろうから、ここでの有無の心配は少ないのだが、一方でACCは、未だ作動領域が違う場合が多く、この先順次完全停止まで対応していくものが増えて行くだろうが、実はそれでもまだ搭載されている車種が極めて少ないことは理解しておいた方が良い。
完全停止までサポートする前走車追従機能を搭載する国産車は極わずか
実際に前走車を追従して走行できる機能を持つクルマの中で、その作動領域が0~100km/h(上限速度はさらに上のものもある)となっているもの。つまり渋滞時にACCで完全停止までしてくれるモデルは限られるので以下にリストしてみた。
【トヨタ】プリウス/C-HR
【レクサス】GS/RX/NX
【ホンダ】レジェンド/アコード
【日産】 シーマ/フーガ/スカイライン/セレナ
【マツダ】CX-5
【スバル】インプレッサ/レヴォーグ/WRXS4/フォレスター/レガシィアウトバック
【三菱】 アウトランダー/アウトランダーPHEV
このように国産車では、実は数えるほどしか採用されていない。一方輸入車については、ACCがついているものはほぼ完全停止まで対応しているものが多い(とはいえ、そうじゃないものも少数あるので注意)ので割愛した。
しかし世の中的には自動車がどんどんインテリジェント化してきて、CMや番組等で追従走行からの完全停止などのシーンも普通に流れるようになった。すると世の中的な認識としては、買おうとしているクルマにACCがついていれば、あんな風に前の車に追従して停止までしてくれるのかな? と思っても不思議ではない。その意味ではとても誤解を招きやすい状況である。
もちろん、ACCを搭載した国産車はここに書ききれないほどある。ではなぜ、全車速域対応のクルマがここに書き出しただけにとどまるのか? その理由は「電動パーキングブレーキ」を備えるか否かであることが多い(そうでない場合もある)。全車速域対応のACCでは、完全停止時に電動パーキングブレーキを制御して停止を保持する。一方機械式のパーキングブレーキを用いて停止保持を行うと、長時間保持が熱の問題等で厳しくメーカー自身が定めた規定(これ自身が実践的でないほど厳しいのだが)をクリアできないなどの問題が出る可能性がある。実際、トヨタのプリウスは機械式の足踏みパーキングブレーキを採用していながらも全車速域対応のクルーズコントロールを備えるが、停車から3分でブレーキを保持を解除する仕組みとなる。
電動パーキングブレーキはコスト的にもかさむので、コンパクトカーをはじめ大衆車では装着し難い側面がある。このため比較的高額な車種や新世代モデルになって電動パーキングブレーキを備えないと、全車速域対応のACCが採用しにくいのだ。もっとも機械式のパーキングブレーキを使っていても、以前のスバルのモデルのように完全停止まで行なった後に、数秒たってからブレーキを解除してあとはドライバーに踏んでもらう…というやり方もできるし、プリウスのようなやり方もあるのだが、メーカーはそこには積極的ではないようだ。
こうした事情があるため、全車速域対応のACCがまだ広がらない背景がある。だが現段階で、作動領域が全車速対応のものと、30~100km/hのものがあるのはややこしいし、自動車メーカー的にも電動パーキングがあれば全車速域対応としているのが理想のカタチなのだから、これを大衆車等にも展開してスケールメリットでコストを低減すべきだ。
今後は全車速対応をスタンダードにすべきと提言したい
筆者としてもACCを用意するならば、全車速域対応にすべきだと提言したい。というのも、ACCはそもそも、前走車に追従して走行することで、クルマの側で安全・安心を担保してくれるための機能であり、万が一の事態そのものを遠ざけてくれる機能でもある。疲労軽減等にも寄与して結果事故の低減に効果を発揮する。
そして実際にこの機能にユーザーメリットを感じるのは、高速における通常の走行よりも、ドライバーとして緊張感が薄れる可能性が高い渋滞時等の低車速域であり、今回ユーザーの多くが混同しているように、期待値としては低速時の渋滞状況に対応して追従走行したり、スマートにブレーキをかけて停車してほしいと考えるはずだ。事実この車速域に対応してくれれば、渋滞時の頻繁なストップアンドゴーによる細かなアクセルおよびブレーキ操作から解放されるため、運転時の疲労はより軽減されることは間違いない。もちろん居眠りや脇見などから発生する追突のリスクに対しては自動ブレーキがサポートする領域だが、その前段階でもって安全・安心を担保して疲労を軽減できていればさらに事故の低減に貢献できるだろう。
皆さんも新型車を購入する時には、自動ブレーキに関してはほとんどの車に備わっているのであまり心配はないが、特に前走車に追従して走行できるACCの類が用意されている場合は、その作動条件等に注意を払っていただければと思う。