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ワイルドナイツ開幕節で復帰。松田力也の頭と身体に迫る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
練習時の松田(筆者撮影)

 来秋のラグビーワールドカップフランス大会での日本代表入りを目指す松田力也が12月17日、国内リーグワンの開幕節で埼玉パナソニックワイルドナイツのスタンドオフとして先発する。

 場所は埼玉・熊谷ラグビー場で、相手は東芝ブレイブルーパス東京。

 28歳の司令塔は15日の練習後、オンラインで取材に応じた。

「公式戦に、熊谷のグラウンドに戻ってこられてすごく嬉しいです。怪我をしてからたくさんの人に支えてもらって、励ましの言葉をかけてもらいました。ファンの皆さんの前でいいプレーをすることが恩返しだと思っています。感謝して、謙虚にプレーしたい。その結果、チームが勝利して、1個、1個、ステップを踏めるように、また自分自身も2023年(フランス大会)に向かって歩んでいけるよう、いいスタートが切りたい。わくわくして、楽しみにしています。

身体の状態も、心の状態もすごくいいです。コンディションがいい状態で開幕を迎えられてうれしい。プレーの不安もなく、より精度高くプレーできると、自分自身に期待しています」

 本人の言葉から察せられるように、怪我からの復活を期す。

 今年5月に試合中に左ひざの前十字靭帯を断裂。手術とリハビリを経て、この手の怪我にあっては早期のカムバックを果たしていた。

 2019年のワールドカップ日本大会では8強入りしたチームで控えに止まるも、試合を動かす状況判断力とゲインライン上で繰り出すスキルに定評がある。

 共同会見ではまず、その日の練習後におこなっていた個人セッションが話題に挙がった。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——ゴールキックを確認していました。感触はいかがですか。

「左の踏み込みの足を怪我したので、(手術後のトレーニングで)強くなりすぎて(蹴る瞬間に)開いてしまう、ということがあったんです。それは自分ではわからなくて、佐藤さん(義人トレーナー)に見てもらって、軸足の付き方を意識して蹴ることで、安定感ができて、より精度をあがっていると思います。

 言葉で伝えるのが難しいのですが…。いままでだったら筋力がない分、強く(地面に)ついても『ゆとり』というか『遊び』があったんですけど、怪我してからすごく鍛えたんで、普通に踏み込むと(力が)強すぎて『遊び』がなくなってしまう状態になっていたみたいです。それで、すごく窮屈に蹴っていたんですけど、もう、(地面の反発に)耐えられるんで、足の踏み込みをリラックスさせて、曲げた状態で踏み込むことで、よりスムーズにゴールキックにいけるようにとアドバイスをもらった。自分では気づけないことに気づかせてもらったことで、安定感が出たと思います」

——その発見はどのタイミングで。

「もともと怪我した後、(再び)蹴り出したのが早かった。もう(けがをした後の)4~5か月後くらいに。その時、蹴られる感触はもともとのものがあって、すごくよかったのですが、何となく、ビデオで撮ってもらうなかで、感触的にはいつも通りでも『軸足が開いているな。何でなのかな』というものがあって。ボールの方向も左にそれることが多く…。自分自身で考えてもわからなくて、それを佐藤さんに見てもらったらすぐに解決。自分もそれに納得し、いい形で練習が積めている。これは最近です。3週間くらい前に『軸足が気になる。ブレが多い』と、修正してもらった」

——プレースキックの精度。

「大学の頃はとりあえず数を蹴って自分がしっくりくるまで…という形でしたが、いまは佐藤さんと出会って身体の使い方を学ばせてもらって外れたらどこが原因かのフィードバックができるようになった。レビューができること、迷えば頼れる人がいることが、自分の強みになっている。振り返りができることで、精度アップに繋がっていると思います」

——ジャッカルの個人トレーニングもしていました。

「これまでタックルの練習は多くしていましたけど、ジャッカルはまだまだする機会がなかった。ロビーさんと話し、ヤギさん(青柳勝彦コーチ)といいコミュニケーションを取って、ちょっとでもレベルアップできるように。まだまだスキル的には低いですけど、福井(翔大)や大西(樹)のような後輩にも聞きながら、自分自身の強みにできたらと」

——全体練習に復帰した時期は。

「11月の半ばです。それまでも部分的には入らせてもらっていたので、いつでもフル参加できるなという手ごたえを持ちながら、ロビーさん、トレーナーさんと話していました。本当にラグビーがずっとできなかったので、練習がきつかった時も楽しかったですし、ラグビーが好きなんだな、と思いました」

——グラウンドを離れて学べたことは。

「グラウンド上でよりも、離れた方がグラウンドは広く見えます。どこにスペースがあるかが見える。自分が入った時にどういうプレー選択をしよう(かを考える)という準備ができた。見て思ったことをグラウンド上の選手にも話した。当時は山沢京平が(ワイルドナイツの)10番やっていたので、アウトプットした。1個、1個の練習を見ることもいい経験になったと思います」

——チームはどう見えるか。

「去年、優勝していい流れで練習したけど、おごりはなく、多くの日本代表選手がいなくなっていたなか、(それ以外の選手が)成長しようとしていた。自分がこれまで知らなかった時間帯にチームにいられましたが、常にいい底上げができていると思います。全員でワイルドナイツを作っていくと再確認できた」

——試合勘は。

「練習試合(12月3日の東京サントリーサンゴリアス戦で40分間、プレー)への復帰にあたり不安は感じていましたけど、試合を観ているだけの間も『自分だったらどうするか』と置き換えて観ることは常にやっていた。ちょうど、代表期間が長かったので、日本代表の試合もそうですが、南アフリカ代表、ニュージーランド代表、イングランド代表と、久しぶりにたくさん試合を観られたシーズンでした。

これまでの試合で経験させてもらっていることによる貯金もあると思いますが、結果、練習試合でも相手の距離感、ゲームの流れを含めて、それなりにいいゲーム勘でできました。これからより研ぎ澄ませたいと思いますが」

 伏見工業高校ではおもにフルバックでプレーし、インサイドセンターとしても期待された。本格的にスタンドオフを始めたのは帝京大学に入ってからで、近年、団体競技としてのラグビーを首尾よく運用するマネジメントの妙が際立ってきたような。

 12月3日の東京サントリーサンゴリアスとの練習試合でも、中盤で球を動かしながら、ゲインラインが切りづらいと見るや、一転、コーナーへハイパントを放った。陣地を進めながら、相手防御に混とん状態を作らんとしていた。

 リーグ戦における行動目標を問われれば、「まずはゲームをコントロールする。ここはいままでと変わらないです」と話した。

「どういう状況でもチームがいい方向に行けるよう、声を出して、判断し、実行したい思いを変わらず持っています。また(リハビリ中に)フィジカルは上げてきた自信がある。ディフェンスで食い込まれないようにする。どこのチームにもまず、スタンドオフは狙われる。それを前で止めることは意識して取り組んでいます。その他の部分はより精度高く、判断ミスをすることなくやる。そこは変わらないです。

1戦、1戦、積み重ねることが大事。自分自身の安定したパフォーマンスを高いレベルで出せるよう準備したい。その結果、チームを勝たせられるようドライブして、最後は笑えるように。今年は連覇をグラウンドの上で達成できるようにしたいです。1戦、1戦の積み重ねが、2019年(ワールドカップ日本大会)が終わった後に決めた『2023年に10番(スタンドオフの先発ジャージィ)を着て、日本を勝たせる』というものにもつながってくる。そこは意識しながら、ただ先を見ることなく、1戦、1戦のパフォーマンスを出し続ける。結果はあとからついてくるものだと考えてやりたいです」

——ワールドカップへの思いは。

「怪我をする前から、2019年にチームがいい成績を残しても悔しい思いをしたなと感じていました。今回、怪我をして、夏と秋のシリーズ(日本代表の試合)を外から見ることで、あの舞台に戻りたい、あの舞台でプレーしている選手が純粋にうらやましいと思いました。なので、そこに戻りたいという気持ちは出ている。戻るためには、自分のパフォーマンスを挙げるしかない。先を見ることなく、1戦、1戦、積み重ねたいです」

——初戦では日本代表のスタンドオフを争う山沢拓也選手、中尾隼太選手が、それぞれワイルドナイツのリザーブ、ブレイブルーパスの先発インサイドバックスに入ります。

「特に意識はしていない。自分にフォーカスできれば。中尾選手はしゃべったことも、一緒にプレーしたこともないのでわからないです。

山沢とは去年までも一緒に切磋琢磨してチームをドライブしてきた。山沢自身もたくさんいい経験したと思うし、大変そうだったな、というのも話すなかでありました。今季、さらに成長する。自分も負けないようにしたいです」

——改めて、日本が世界で勝つにはどんなゲームメイクが必要か。

「攻める時の蹴る時のバランスの判断。勢いをどう作るか。勢いがある時にどういうプレーをするか。それは、今回(秋の代表戦)も見ながら思っていました。不用意な反則、ミスは減らさないといけない。…ここはゲームをやりながらの自分自身の勘を信じ、自信を持ってプレーしなければいけないと思うところです」

 16日にはチームを率いるロビー・ディーンズ監督も会見。キーマンを問われれば「チームゲームというラグビーの根本は変わらない」と特定の選手を注目することへの違和感を表明しつつ、「ファンのことを思って…」と補足。南アフリカ代表センターのダミアン・ディアリエンディに加え、松田の名を挙げた。

「来年のワールドカップに向け、世間の目から見ても、本人にとっても、大事な1年になる」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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