Yahoo!ニュース

新リーグ最終審査で入替発生 日本協会の説明に問う「公平性」【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は昨季のトップリーグ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 2022年1月に発足するラグビー新リーグについて、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の要職者が会見した。

 この日は定例理事会後のブリーフィングがあり、常時出席する岩渕健輔専務理事に加え、森重隆会長、池口徳也共同最高事業統括責任者が出席。各所で報じられるディビジョン分けの過程について「公平か、中立か、客観的かで検証した」と強調した。

 まずは森会長が、書面を読み上げる形で経緯を説明。事実関係の整理に確認されたい。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「2022年1月からの新リーグのディビジョン分けは審査が完了し、その対外発表は16日。本日は最終結果に至る審査の過程についてメディアの皆様に報告させていただきます。

 新リーグは『国内リーグを発展させ、世界との競争に打ち勝つこと』『日本代表との共存共栄』を理念、目的としています。

 ここでの1点目について。チーム数を減らすことはラグビー界にとって損失であり、新たな運営母体企業の獲得も重要と考えている。トップチームが普及をおこない、すそ野を広げ、ラグビーそのものの拡大を図ることを目指す。

 2点目。日本の社会人リーグ主体という競技特性と日本代表強化は密接に関わっており、新リーグ、JRFUが日本代表、一般社団法人ジャパンラグビートップリーグ(JRTL)が新リーグを(運営)。これらが両輪を担うことで、より専門性を持った事業を進めるとともに、お互いの役割を明確に分けることで、より責任を持った取り組みを果たしていく所存であります。

 このような目的を実現すべく、競技力のみならず、事業性や社会性の観点から参入チームのディビジョン分けの審査を行いました。

 審査、さらに審査に基づく最終決定は、JRTLからJRFUに委嘱した。JRFUが各チームの参入要件、審査項目、各審査項目にかかる配点や評価目安、その他審査基準を決定し、それらを各参入チームへ昨年5月に説明。各参入チームからご了解をいただきました。そのうえで、審査業務は(JRFU内部の)審査委員会に委嘱し、審査を実施してまいりました。

 ディビジョン分けの審査については事業性や社会性を考慮しています。強化、普及、事業、育成、競技力、事業運営力などの各審査項目に照らして審査を実施いたしました。競技力の項目においては、トップリーグ2021の戦績を考慮に入れております。

 そのうえで、審査業務は(JRFU内部の)審査委員会に委嘱し、審査を実施してまいりました。

 ディビジョン分けの審査については事業性や社会性を考慮しています。強化、普及、事業、育成、競技力、事業運営力などの各審査項目に照らして審査を実施いたしました。競技力の項目においては、トップリーグ2021の戦績を考慮に入れております。

 これら審査項目については各参入チームの皆様にご説明し、ご了解をいただき、コロナ禍で審査基準の一部に変更が生じましたが、当該変更後の審査基準についても(その都度)各チームに説明のうえ、了解をいただいています。当該審査基準に従って審査を実施した。

 かかる経緯を経て、JRFUは中立性、効率性、客観性の観点から、審査委員会からの報告を踏まえて、各チームにお示ししていた審査基準に従って最終的な各チームのディビジョン分けを決定しました。

 7月16日に対外発表されるディビジョン分けの結果については、各チームへはすでに個別に説明をおこなっています(チーム側への取材によると、7月3日までにメールで通達)。今回の結果を踏まえ、対外発表後、各参入チームのお力添えをいただきながら、国内リーグを発展させ、世界との競争に打ち勝つこと、日本代表との共存共栄という目的のために、開幕に向け準備を進めて参ります」

 国内トップリーグを発展的に解消させて実施する今度の新リーグでは、各クラブに収益化を求めた。親会社の企業体力に頼らぬ運営を目指したのだ。この一点が、今回の森会長による「『国内リーグを発展させ、世界との競争に打ち勝つこと』『日本代表との共存共栄』」という競技力向上にまつわる要素としかと並び立つ。

 24チームを上から12、6、6と分割するディビジョン分けでは、競技成績以外にも自治体との連携度合い、ホームスタジアムの有無や使用頻度の見込み、小中学生向けてのアカデミーの有無や稼働実態を審査した。競技成績以外の項目のほとんどは12月末までにチェック済みで、その途中順位は1月までに各部へ報告している。

 ところが、その頃の審査委員長兼新リーグ準備室長だった谷口真由美・JRFU理事(当時)の決めた順位付けに関し、準備室と各クラブとの間で議論が勃発。やがて、谷口理事は審査委員長に専念し、準備室長には岩渕専務理事が着任するという人事が2月中旬までに決まり、その旨は報道で知られた。

 なお、岩渕専務理事は国際交渉力に定評のある日本協会の要。オリンピック東京大会に出る男子7人制日本代表のヘッドコーチも兼務と多忙を極め、同代表の選手からは「岩渕さんは2人いるのではないか」と噂されたほどだ。本来なら、今度の新リーグのような国内戦は担当領域外だったはずである。

 結局、谷口委員長ら審査委員会による審査は、6月までに終了。その内容を日本協会が受諾。7月2日までに、各部へ最終的な審査結果を伝えた。

 そのプロセスには複数の関係者やファンが疑義を唱えており、今度の会見における質疑の大半を占める。回答はほとんど、池口氏によってなされた。

 池口氏は今年7月1日付で日本協会内の「事業遂行責任者会」の共同最高事業統括責任者に、岩渕氏とともに就任。煩雑な事業の交通整理に尽力している。

——森会長の発言に「コロナ禍で審査基準の一部に変更が生じましたが…」とあったが。

池口

「審査基準の変更は、最後の戦績(が該当する)。トップリーグの最終戦績をどう反映させるかについてです。昨年7月の段階ではトップリーグ(2020年シーズン)は中断いたしており、過去の戦績を審査に正しく反映させるのが困難な状況にありました。それを踏まえ、最後の2021年のシーズン戦績を審査の評価に加えよう、という変更がありました。

 トップリーグの戦績をどのような形で審査結果に反映させるかについては、従来よりチームの皆様にお示ししてきた配点と変更はありません。トップリーグのフォーマットの変更によって順位の付け方は変わりましたが、審査の基準、配点、審査について変更はありません」

——「途中で配点方法が変わり、審査委員会の審査結果と最終的な審査結果が変わった」との見解もあるが。

「審査委員会の方の報告を受け、最終的な審査結果をJRFUが決めるということは、当初より定めている流れです。

 一方で、審査委員会から報告された順位付けと(JRFUが最後に出した)結果について、一部、異なることは事実でございます。

 配点方法や評価の方法を変更したことは一切ございません。最後のトップリーグの成績を反映させるうえでは、チームの皆様と合意させていただいた評価、審査の方針がございます。その評価の方針を客観的、公平的にも正しく反映させていく。JRFUではこの部分について検証した結果、審査の最終決定をおこなった」

 審査委員会が決めるとみられていたディビジョン分けの最終結果をJRFU側が再点検した動きは、かねて協会内での合意されたものだったと主張。審査委員会の決定と最終決定が異なる点については、さらにやり取りが重なった。

池口

「審査委員会の基本的な評価の方針は、最大限尊重しています。ただ審査委員会の評点の付け方のなかで、申し込みいただいているチームの皆さんと当初よりお約束をした審査基準と整合性が取れない部分については、再計算をおこないました」

——となると、「6月下旬にかけて数回」あった審査委員会からの報告に再計算が必要な項目があり、そこを内部で再計算したということか。

池口

「その通りでございます。審査報告、委員会報告をいただき、JRFU内でも公平か、中立か、客観的かで検証し、審査委員会ともその協議をし、その内容を変更した」

——トップリーグの最終順位は審査のうち何割程度のウェイトを占めたのか。

池口

「個々の評価、配点につきましては開示をさせていただいておりません。考え方としては今後も開示をさせていただく予定はないですが、一方、当初から審査については競技力に加え事業性、社会性をバランスよく組み込んで審査しようという考え方でした。そのなかで、(審査委員会の評価では)戦績部分が、おそらく、(チームの)皆さまが想像しているよりも、全体の配分としてはさほど大きくない…といった部分があったかと思います。(競技力に関して)再計算したところ以外は、審査委員会で評価していただいた、そのままの点数(で審査結果を示した)」

 従前の取材によると、競技力を審査する前の12月の段階で全体の8割程度の審査が済んでいたと見られる。

——審査委員会のメンバーは。

池口

「今回、審査委員会について、審査委員は谷口委員長以外のメンバーは当初より対外公表をする予定はございません。審査過程において独立性を担保することが中立性を保つことに繋がる」

——もう審査が終わっても、それは変わらないのか。

池口

「審査をしていただいた皆様が業務を請け負う条件に、対外公表が含まれていないということです」

——審査委員会は、今回の最終決定に納得しているのか。

池口

「今回の審査の最終決定において、その内容について審査委員会にもすでに確認をしていただいています」

——審査委員会の報告を、JRFUのどの部門で精査したのか。

池口

「審査委員会から報告を受け、森会長の方で検証をさせていただきました。膨大な内容になるので、検証に至っては森会長が依頼された中立な弁護士の力を借り、全体的なプロセスについて検証させていただいた。当初より『審査委員会からの報告を受け、JRFUが最終決定をおこなう』という内容だったので、それを代表する森会長が検証をおこないますが、最終決定としてはJRFUとしておこなった次第です」

——まとめると、「①、12月に審査委員会が示した途中順位」「②、6月までに審査委員会が示した審査結果」「③、②を踏まえてJRFUが再決定した審査結果」がある。そして、「②」から「③」に至る際は競技成績の計算方法を変えたことで一部の順位が入れ替わった。「②」「③」の審査について、競技力以外の項目は審査しなかったのか。

池口

「12月以降の変化点は大きく3点です。ひとつは戦績。ふたつめは最後のトップリーグ、トップチャレンジリーグを通しての事業運営力。最後の1点は、各チーム様の長所、強み、ラグビー界やリーグの発展に寄与するだろう点をかなり自由に訴求、アピールしていただきました。いずれも、当初からお示ししている審査基準に含まれていました。(12月の)中間報告の段階でも自由な訴求というものは入っていました」

——「①」から「③」について、点数を含めてガラス張りにする予定はないのか。

池口

「項目についての開示予定はありません。ただ、難しい審査ではありました。審査そのものをレビューし、今後に活かしていくことはしたいです」

 繰り返せば、今度の新リーグでは加盟クラブが各自の努力で利益を生む。試合会場での演出や独自のサービスなどにおいて、従前のトップリーグ以上の質が期待されていた。

 グラウンド内では、外国人枠の拡充が検討される。スーパーラグビー参戦への道が断たれた現況下での、「世界との競争に打ち勝つ」ための命綱として期待される。

 そう。新リーグの理念そのものは魅力的なはずなのに、現状で伝わるのは合意形成に至るちぐはぐさのみだ。そのため一部のファンはSNS上で「日本協会はまだ変わらない」といった趣旨で吐露。運営方法がひところよりも健全化(※)したことさえ、すっかり忘れた様子だ。

 いったいなぜ、こうももったいない状況が起きているのか。ひとえに、発生したハレーションへの対処の仕方、情報公開への感度の鈍さがその原因ではないか。

 かような経緯を踏まえてか、今回の会見では日本協会の司会者が「審査については全ての質問を受け付けます」とし、会見時間を予定より長く設定。その流れで報道陣は、要望や意見具申にあたる声も届けた。

 例えば…。

——先ほどあった「①」から「③」のすべてを詳細に明かさない限り、JRFUが訴える「公平性」をファンが納得しないのではないか。

池口

「全ての評価点が定量的に測れれば公平で明らかです。ただ、ひとつひとつの評価項目がどんな点数で反映されるかについては、それぞれの裁量部分というものがどうしても残る部分がある。できる限り、誰が見てもわかる定量的なところで審査をおこなっていくのが理想。今後このようなことをする場合には、明らかな基準をできる限り定めたうえでおこないたいと思っています」

——谷口審査委員長が審査されていた時から、メディアにもファンにも今回のような説明がずっとされずに来ていました。こうしたことを後になって言われても、本当に正しい審査がされたのかがわかりづらい。こうなってしまったことについて、経緯を見てきた森会長、もしくは岩渕さんにお話を伺いたい。

岩渕

「今回、こういう形でご質問をいただき、お話していただきました。ご指摘にあったように、我々としてももう少し早く(説明を)させていただきたい部分はありました。ただ、今回は24チーム個別に全て説明させていただく時間を取りました。その前にファン、メディアの方にご説明をさせていただくことができなかった。その意味で、遅くなってしまった。情報で発信できることはないかと検討したが、審査委員会から報告を受け、最終的に順位が確定したのが7月1日。2日以降にチームの皆様に報告し、ここまでの2週間でようやく全てのチームの皆様に個別にご説明をさせていただいて、審査が完了した。ファン、メディアの皆様との対話を含め、なるべく早く情報をお伝えすることはJRFUとしてもやってきたことですし、これから先もできる限り早く皆さまに情報をお伝えできるようにしたい」

——JRTLはまだ1度しか説明会を開いておらず、6月下旬にJRTLの役員総会があったこともアナウンスがなかった。岩渕専務理事が常々「ユニオンとしても世界一を」とJRFUのオープン化を目指しているのはわかるが、今回の件に関してはあまりにも説明が不足している。お互いにとってあまりに不幸だ。説明の機会を増やすようにすべきでは。

岩渕

「足りない部分は真摯に受け止め、対応したい。JRTLとは連携しながら、逐次情報を発信できるようにしたい。ご意見、ありがとうございます」

——会長は…。

「いや、別にないです」

 森会長の言葉通り、ディビジョン分けの結果は16日に公表される。筆者は当日を前後し、本欄などで審査過程、審査結果への各クラブの反応などについてリポートする。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事